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カスタム化が進むニッポンのクラブ革命|ゴルフクラブ製造会社“ササキ”の挑戦!

2018/10/30 ゴルフトゥデイ 編集部

目下、日本で販売されているゴルフ製品のほとんどは海外で生産されていもちろんクラブも。国内で組み立てれば、“メイドインジャパン”を謳えるため、本質的な“メイドインジャパン”は皆無とさえ言える。そんな現況を打開すべく立ち上がったのがクラブ製造会社のササキだ。

佐々木政浩
1966年生まれ、51歳。神奈川県平塚市に生まれ、父親が営んでいた研磨工業所の移転に伴い13歳の時に栃木県鹿沼市へ。27歳で父の会社を引き継ぐと社内の若手と2人でゴルフ事業を立ち上げた。現在は製造、リペアなどで年間100万本ものクラブを世に送り出す株式会社ササキ代表取締役。

ゴルフクラブ製造会社 株式会社ササキ

2017年7月に向上とともに社屋も新装オープンした。

栃木県鹿沼市に居を構えるクラブ製造会社。1990年代からゴルフ事業に本格的に着手し、現在はクラブ開発からアッセンブルまでを広く手がけている。

株式会社ササキのルーツ
有限会社佐々木研磨工業所として1963年に創業。音響機器や照明器具など、外からは見えない部品の研磨に携わった。「研磨をやると細かい削りクズで手も顔も鼻の中まで真っ黒になる。3Kの極みのような仕事です」と佐々木社長。クラブの研磨を始めた当時は専用の研磨機がなくメーカーに教えを乞うなど技術を磨くのに苦労した。

モノづくりが好きだから国内一貫生産にこだわる

「ササキ」が目指すのはゴルフクラブの国内一貫生産。ゴルフ人口の減少、少子化などアゲンストの風が吹きつけるゴルフ界、あえて挑戦するのはなぜか?

海外なら安価なものを多く生産できるが自分が作りたいモノは作れない

日本経済の冷え込みに追随して、ここ数年ゴルフ界への風当たりは強まる一方。ゴルフ人口がピーク時の半数近くに減っただけでなく、2020年にはゴルフ業界を支えてきた団塊の世代の人々が70歳を迎え、さらなるゴルフ人口減が危惧されている。

にもかかわらず、クラブ製造を手掛けるササキは工場の拡張に踏み切った。面積を1500坪から4500坪へと広げる、総工費10億円の一大プロジェクトだ。

「組み立てや塗装を手がける5棟に加え、主にクラブの開発に携わるマシニング工場も作りました」と佐々木社長。同社は台湾にも工場を保有しており、中国で生産することも可能だが、ここにきてあえてその手を封じた。なぜか?

「クラブの国内一貫生産を実現するためです。海外なら安価なものを多く生産することはできます。しかし、自分が作りたいものを作るとなると、意図するものはできません。もちろん刹那的には可能です。たとえば私が現地に赴き、私の意図を伝えながら作業を進めれば、それなりのものはできる。でも、私が日本に帰ってくると、すぐさま元に戻ってしまうのです」

当然のごとく、海外でのビジネスには言葉の壁が立ちはだかることが多い。それがクリアできても、この仕事に必要とされる繊細さを持ち合わせているかなど、国民性が製品に及ぼす影響も多々ある。

  • 従業員は90名。広く綺麗な工場は作業に集中できる環境だ。

  • ロゴの色づけは繊細さが要求される作業。1本1本丁寧に仕上げる。

日本のモノづくりの原点であるサポート力と前進を止めない企業姿勢に立ち返る

「クラブ作りには様々な工程がありますが、何をやるにしても作り手はゴルフを知っている必要がある。でないと使い手のことまで思いが及びません。ところが、中国では自分が何の道具を作っているのか知らない従業員がたくさんいます。これでは日本のゴルファーが望むクラブは作れません。何より、海外で作ったクラブも研磨、塗装という工程を経て最終的にはササキの工場を経由して世に出ていきます。それならば、はじめの工程からすべてを自社で手掛けてしまえばいいと思ったわけです」

クラブの国内一貫生産が実現すれば製品の精度アップが期待できる。製品のバラつきが減り、均一性の高いクラブを供給できるのだ。さらに、リペアや調整といった形でクラブを手にしたユーザーからの要望にも応えられる。たとえササキがクラブを仕上げても、製作のスタートが海外では、問題があった時に原因を突き止めるのが難しく、フィードバックもできない。確かにこれではメイドインジャパンとは言い難い。

「高品質はもちろんですが、アフターケアとサービスも日本製品の特徴です。もしクラブに問題が生じてもすぐさま対応し、その原因を追究して次の開発に役立てる。ユーザーへのサポート力と前進を止めない企業姿勢が海外製品との差別化につながり技術の向上にもつながっていた。そんな日本のモノづくりの原点に立ち返りたいという思いもあります」

  • クラブ作りは丁寧さが重要。女性スタッフが多いのも頷ける。

  • 従業員の誰もが作業専用に製作された機械を扱うエキスパート。

以前にはなかったカスタム化の広がりも工場拡張を後押しした一因

クラブがカスタム化の方向に傾きつつあることも、工場拡張を後押しした理由のひとつ。実際、現在取引をしているメーカーのほとんどが、カスタムクラブに対応している。

「ここ数年、シャフトの長さやバランス、グリップなどを替えた特注品の扱い量が増えています。メーカーが問口を広げたことで、アベレージゴルファーでもライ角やロフト角など細かいスペックの変更ができるようになりました。シャフトのカラーリングに合わせてヘッドの色を変えるなど、以前にはなかったスタイルのカスタム化にまで広がりを見せています」

このような細かいリクエストに答えられるのもササキの強み。アッセンブルだけでなく、高度な研磨や塗装の技術があるからこそ、メーカーは安心してクラブ作りを任せられる。ここまでカバーできるクラブ製造会社は日本で唯一ササキだけだろう。

「結局はモノづくりが好きなんです。ビジネス的には“?”の部分もありますが、ずっとこの鹿沼の地でゴルフをやってきて、これからもゴルフに関わるモノづくりを続けていきたい。そもそも、自分が立ち上げた事業ですから、とことんこだわったモノづくりをしたいのです」

現在扱うクラブは年間100万本。当面の目標は120万本だ。もちろんその気概はクラブ作りの細部にまで行き渡る。以降では、その製法と性能がセンセーションを巻き起こしそうな新しいクラブについて探っていく。

  • ドライバーヘッドの強度テストに使われるマシン。

  • ウエッジの研磨作業。年季を積んだ職人が仕事にあたる。

  • 研磨作業はササキのルーツ。レベルの高さは業界でも群を抜く。

  • どんなに小さなキズも見逃さない。時間はかかっても妥協なし。

自分で作るからこそ技術が磨かれる

国内一貫生産にこだわり、大きく舵を切ったササキ。アッセンブルやクラブの修理にとどまらず、独自の製品をメーカーに提案する態勢も整っている。

アッセンブルのみならずクラブの修理など細かい部分にも幅広く対応

現在、国内外10社のメーカーからアッセンブルの注文を受けているササキ。その内訳は量産品85%、カスタム品15%の割合だという。この2つに加え、クラブの修理ができるのも強みだ。社長の佐々木は言う。

「一部のメーカーからは業務委託を受けています。修理に必要なパーツを多数用意させていただき、ユーザーからの依頼に随時対応できる態勢がとれています。修理はもちろん、塗装や得意の研磨作業もできる。これはメーカーサイドにとってもメリットになると思いますね」

確かに、細かく手のかかる修理をするには専用工場が必要となる。大手のメーカーともなれば、それなりの規模が必要なわけで、かかるコストも相当なもの。一手に請け負えるササキの存在は大きい。

「カスタム化が増えていく方向にある昨今の状況からすると、近い将来、量産品とカスタム品の組み立て比率は逆転するかもしれません」と佐々木は予測するが、ある意味、カスタム化と修理作業には共通する部分がある。10億円をかけて工場の拡大に打って出たのも、そういった背景を踏まえてのことだ。

栃木県鹿沼市にある本社工場。4500坪の広大な敷地面積を誇る。

高い性能をすべてのユーザーが共有できなければいいクラブではない

もちろんクラブ作りに傾ける情熱はそこにとどまらない。自社ブランドの開発は念頭にないが、メイドインジャパンのすぐれた一品をメーカーに提案できる態勢も整ってきた。

「すぐれたクラブ、イコール、精度の高いクラブ、と我々は考えています。大前提となるのは設計上の性能ですが、その性能をすべてのユーザーが共有できなければいいクラブとは言えません。つまり、いくらいいクラブでも個体差があってはいけないのです。海外で作られた製品の場合、この課題がなかなかクリアできません。その点、国内、それも自社で一貫生産できれば大きな飛躍が期待できます、自社で作ることで技術も磨かれていきます」

その任を負うのが本社工場の北に位置する富岡工場。鹿沼市における佐々木研磨工業所、ルーツの地である。

「富岡工場には800トンのプレス機を備えています。別棟にはパーツの精密加工を行うレーザー裁断機、CAD(コンピュータ支援設計=編集部註)、マニシング機なども導入しています。これらをフル稼働させて精巧な金型を作り、プレス機でアイアンヘッドを成形します。真っ赤に熱せられた鉄の丸棒が、プレス機によって一瞬のうちにアイアンに変身する。この一連の作業には、何とも表現しようのない醍醐味があります」と笑う佐々木。まさに、モノづくり職人魂全開である。

  • 少数精鋭の態勢を敷くアッセンブル工場は広々として働きやすい環境。

  • グリップ挿入の工程。一つ一つ丁寧に作業を進める。

テスト中ながらステンレスのフォージドにも挑戦中

「純度の高い国産の素材をプレスすれば、精度の高いヘッドができます。同じ軟鉄でも、チャイナスチールと国産スチールでは、成分分析してみると不純物の入り方が違います。また、金型が自社製ならば調整も容易ですから、さらに精度が高められます。研磨量についても、中国だと20〜25グラムですが、うちでやれば10グラム程度で収まります」

鮮魚に無駄な包丁を入れたくないように、ヘッドは研磨を入れないほどいいが、さすがにプレスして終わり、というわけにはいかない。しかし、究極的にはそこを目指すのがササキの姿勢。事実、アイアンとウエッジについてはかなり近づいているというから驚きだ。

「まだテスト中ですが、ステンレスのフォージドにも挑戦しています。軟鉄だと大半はメッキが入ります。するとフェース表面のクローム層が性能に影響を与える。その点、ステンレスならメッキする必要がありません。打感も柔らかく、スピンもかかる。叩いても大丈夫なので、ライ角やロフト角の調整もできるのです」

成形過程で生じる細かい調整が必要など、まだまだ課題は多いが、「うちにとっては今後の大きな楽しみです」と佐々木。

試作品を手にする機会を得たが、なるほど言われなければステンレスとわからないほど見事な仕上がり。アメリカでゴルフの腕を磨いた子息・佐々木恭太郎氏も「ばっちりスピンがかかります」と太鼓判を押す。

「コストがかかる分、単価は上がるでしょう。でも、我々はそれがデメリットと感じないだけの製品を作るのが仕事。それも真のメイドインジャパンに向けての挑戦です」

ササキの挑戦が日本のクラブシーンにどんな影響を与えるのか。今後も注視したいところだ。

  • ユーザーの細かいニーズに応えられるクラブの修理にも自信をもつ。

  • クラブの細かい重さの変化を考慮したうえで各工程が進められる。

  • 作業に使われる器具のほとんどは専用に作られたもの。

GOLF TODAY本誌 No.547 65〜67ページ/No.548 73〜75ページより