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現役ツアープロも学べる優勝争いの深層《ZOZOチャンピオンシップ》タイガーと松山の日本ゴルフ史に残る名勝負

プロが分析するプロの心技体

2020/01/18 ゴルフサプリ編集部

1週間前の月曜には、タイガー・ウッズが日本で通算82勝目を飾るとは思えなかった。日本初開催のPGAツアー『ZOZOチャンピオンシップ』。大会前の月曜日にはタイガーがスキンズマッチに参加していたが、そのときのタイガーは明らかに本調子ではなかった。

逃げ切り勝率95%の真実|82勝目へ伝家の宝刀スライス攻め。

いつもは最終日に使う戦略を、37ホール目からスライスで攻めたタイガー。

「かなり左を向いて、
 スライスを打っていた」

内藤雄士
1969年9月18日生まれ。2000年からPGAツアーに参戦した丸山茂樹のコーチとしてPGAツアーに帯同して、丸山茂樹のPGAツアー3勝にも貢献した。現在はゴルフネットワークでPGAツアーの解説者も務めている。

日本中のゴルフファンが見たかったタイガー・ウッズと松山英樹の優勝争い。そして歴史に残るPGAツアー最多タイとなる82勝目を飾ったタイガーだったが、その優勝もやはり逃げ切りだった。

タイガーが最終日を首位タイでスタートした試合は過去に45試合あったが、そのうち43試合で優勝。約25年のキャリアの中で逆転されたのは2試合しかない。そのデータについて、2000年代に丸山茂樹のコーチとしてPGAツアーにも帯同していた内藤雄士は、「タイガーは54ホールを終えてトップに立ったら、基本的にはスライスで攻めます。それはコントロールを重視するからです。もちろん、元々フェードヒッターなので持ち球ということでもありますが、ツアープロにとっては、ボールを逃すスライスの方が打球方向が安定します。逆にドローは叩きに行くので、ミスショットした場合の計算が立ちにくいのです」

しかし、『ZOZOチャンピオンシップ』では少し違っていた。それは2日目が中止になった日程の影響もあったかもしれないが、内藤雄士は37ホール目を見たときに「この試合、タイガーが優勝しますよ」と語っていた。その理由について聞くと、

「私もびっくりしたのですが、初日はドローを打つホールもあったのですが37ホール目からは思いっ切りスタンスを左に向いてスライスを打ちはじめた。フェードじゃないレベルで、30ヤードくらい曲げるスライスでした。それを見て、いつもより早いタイミングで逃げ切りモードに入ったなと思いました」と語る。実は大会前の月曜日に開催されたスキンズマッチ『ザ・チャレンジ:ジャパンスキンズ』ではタイガーは、とにかく左にドライバーを曲げていた。ローリー・マキロイ、ジェイソン・デイ、そして松山英樹が参加する豪華メンバーによる共演だったが、明らかに調子が悪そうだったのはタイガーだった。手術明けの復帰戦だから、まだ本調子ではないように思えた。ただし、佐藤信人は違う視点で語っていた。

「習志野はタイガーと
 相性の良いコース」

佐藤信人
1970年3月12日生まれ。大学時代を米国•ネバダ州立大学で過ごし、93年にプロ入りして、日本ツアー通算9勝をマーク。ツアー引退後は、国内外のツアー解説者、レポーターとしても活躍。

「確かに曲げていましたけど、後半は少し良くなっていた。それとスキンズマッチでも、ああいったトップ選手同士のラウンドだと良い緊張感が生まれるんです。それが試合から離れていたタイガーにとっては、良い影響が出たのではないでしょうか」

また、日本ツアーでコースセッティングに携わってきた佐藤は、習志野CCが、すごくタイガー向きのコースだったと語る。「タイガーの最大の強みはアイアンとパッティングです。習志野はツーグリーンなのでグリーンは狭い。さらに林間コースなので、アイアンの精度も必要になる。それでいて、飛ばし屋が有利なコースではない。そうなると、まさにアイアンとパッティングでスコアを伸ばせるコースなのです」

金曜日が中止になり、土曜日が無観客試合となったが、日曜日だけで2万2678人が来場。松山やタイガーの組には何重もの人垣ができていた。

松山をずっと見ていた冷静さ。

初日は3連続ボギーからスタートしたタイガーだったが、そこから9バーディを奪いトップタイで1ラウンドを終えた。2ラウンド目以降も順調にスコアを伸ばしてトップをキープ。1ラウンド、2ラウンドは全米オープン王者であるゲーリー・ウッドランドとの首位争いだったが、3ラウンドで松山英樹が『65』をマークしてタイガーと3打差の2位タイに浮上。佐藤信人は現場で松山英樹を見て、2019年の全英オープンを思い出したそうだ。

「日本初開催のPGAツアーでは松山選手への応援、期待は予想以上の熱気でした。それを見て、マキロイの地元・北アイルランドで開催された全英オープンを思い出しました。マキロイでも地元のプレッシャーを感じてスタートホールで『8(+4)』を叩いてしまった。しかし、松山選手はプレッシャーの中でも期待に応えるプレーを見せて、技術だけでなくメンタルがすごいと思いました」

「一流選手でも普通は
 優勝争いで、前の組を
 見る余裕はない」

杉澤伸章
1975年7月5日生まれ。日本ツアーでは横田真一、横尾要のキャディをつとめ、02年から丸山茂樹の専属キャディとして米国PGAツアーを転戦。2011年から宮里優作のキャディをつとめ、13年の「日本シリーズJTカップ」での初優勝に貢献。

4ラウンド目では前半はスコアを伸ばせなかった松山だったが、11番と12番の連続バーディで3打差に迫った。ここでサスペンデッドになり、松山が6ホール、タイガーが7ホールを残して月曜日での優勝争いを迎えた。

このままタイガーが逃げ切ると思われた短期決戦だったが、タイガーが最初の12番でボギーを叩くと、一気に2打差に。そして14番では松山にさらなるチャンスが生まれた。

松山の短いバーディパットを見ていたタイガー。
バックナインで最初のパー5となる14番。1打目を右のラフに曲げた松山は、2打目でレイアップ。そして3打目でピン1メートルのバーディチャンスにつけるも、惜しくもバーディをとれなかった。

バーディが欲しい14番パー5では残り1メートルのバーディパットにつけたが、それを外してパー。ギャラリーからも落胆の声が漏れていたが、実はタイガーもそのシーンをじっと見ていた。プロキャディとしてPGAツアーに帯同していた杉澤は、

「特に月曜日になってから、タイガーは前の組の松山選手を見ているシーンが多かったです。実は世界のトップ選手でも他の選手のプレーは見ない、リーダーズボードも見ないという選手もいます。それは集中力が失われるからです。でも、タイガーは相手を観察しながらプレーする冷静さがありました。それが82勝する選手だなと思いましたね」

14番でバーディを逃した松山は、2打差のまま最終18番を迎えたが、まだ逆転を狙っていた。ティショットをバンカーに入れながらも、バンカーからの2打目では3番ウッドでツーオンを狙った。佐藤信人は、そのショットについて、「すごいギャンブルですが、紙一重でツーオンしそうなスーパーショットでした」

この1打には18番ホールを取り囲んだギャラリーも大歓声を挙げたが、その歓声を聞きながらタイガーは、ツーオンしたと思ったそうだ。しかし、松山のボールはわずか数ヤード届かずにグリーン左手前のバンカー。タイガーは逆に18番でも3打目で絶妙なバンカーショットを見せてバーディ。最後は3打差での逃げ切り優勝を飾った。

決してタイガーは20代だった頃のような爆発的な飛距離や、アイアンでベタピンにつけるスーパーショットを見せたわけではない。どちらかと言うと、1ホール1ホール、相手を見ながら淡々とボールを置きにいくゴルフをしている。そんなプレーにこそタイガー・イズ・バックの真髄があるのかもしれない。

バンカーから3番ウッドでツーオン狙い!
試合後に松山英樹本人も「普通は打たない」と語った、残り267ヤードのバンカーからの3番ウッドはグリーンに届かず、グリーン左手前のバンカーへ。そこからもチップインを狙ってピンを攻めたが、大きくオーバーする結果に。

サム・スニードの通算82勝目に並んだタイガーは、メジャー通算勝利数も歴代最多の18勝(ジャック・ニクラウス)まであと3勝。

優勝争いの3人をデータで分析

タイガーはパー3だけで9バーディを稼いだ。

優勝したタイガーは、4ラウンドトータルのバーディ数も27個でトップだったが、実はそのうちパー3でのバーディが9ホールもあった。ちなみに2位の松山は、バーディ数でも2位の20個だったが、アイアンが得意な松山でも、パー3でのバーディはタイガーより4個も少ない。実は18ホール中、5ホールがパー3だった習志野CC。データで見ると、このパー3のバーディ数の差が大きかったとも言えるだろう。ちなみにマキロイはバーディ数は17だが、イーグルが2つあった。しかしパー3でのバーディ数は4日間で3個と少なかった。

GOLF TODAY本誌 No.571 81〜85ページより

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