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賞金女王争いの最後にチャンスホールの罠|渋野日向子×鈴木愛

プロが分析するプロの心技体

2020/01/27 ゴルフサプリ編集部

大いに盛り上がった2019年、女子ツアー。その最終戦を振り返ってみよう。
3人に賞女王の可能性がある中で迎えた最終戦は、最終日になってもまだ鈴木愛、渋野日向子、申ジエの誰が賞金女王になるかわからない状況だった。最終日をトップと2打差の3位で迎えた渋野日向子は前週の優勝で勢いに乗り、逆転での賞金女王への期待感も高かったが──。

「3日目までは相手が気になったけど、最終日は自分のプレーに集中した」鈴木

最もやさしい折り返しの3ホールで、鈴木は3連続バーディ、渋野はイーブン

最終日を12位タイで迎えた鈴木愛に対して、渋野は3位。もし、鈴木愛が2位タイ以下で渋野が優勝すれば逆転での賞金女王になれる状況であり、渋野の組には多くのギャラリーが応援にかけつけていた。そのギャラリーに混じって渋野のプレーを見ていた青木コーチに前半ホールの途中で話を聞くと、

「同じ組の古江さんの調子がスタートからすごく良かったので、古江さんに勝ったら優勝するかもしれませんね」

と語っていた。最終日を4位で迎えた同組の古江彩佳は1番、2番と連続バーディ、さらに4番でもバーディを奪い、いきなりスコアを3つ伸ばして、その時点でトップに立っていた。

「あの3ホールで
スコアを伸ばしていたら、
優勝も見えていた」

青木 翔
1983年3月28日生まれ。2011年からジュニアゴルファーやプロゴルファーの指導をはじめて、2017年の秋から渋野日向子のコーチになった。昨年8月の「AIG全英女子オープン」ではキャディを務め、優勝に貢献した。

一方の渋野はスタートからパーが続き、なかなかスコアが伸ばせなかった。賞金女王を争う鈴木愛も前半を終えて1つスコアを伸ばしただけだったが、前日までと比べて明らかにピンを狙った積極的なショットが増えていた。試合後に鈴木は、

「正直、私も人間なので(笑)、3日目までは他の選手のスコアを気にしていました。昨日の夜も緊張してなかなか眠れませんでしたが、最後は相手を気にせず、自分らしく攻めようと思いました」

そんな攻める姿勢が表れたのが9番ホールからの折り返しの3ホールだ。4日間の難易度で2番目にやさしい9番ホール、5番目にやさしい10番ホール、そして最もやさしい11番ホールは、コース内で最大のチャンスホール。最終日の鈴木はこの3ホールできっちりと攻めて3連続バーディを奪い、一気にトップ5争いまで浮上した。

スコアを伸ばせず、スタートから8番ホールまでパーを続けていた渋野は、9番ホールでは大ピンチを迎えてしまった。2打目で積極的にツーオンを狙ったが右のガードバンカーにつかまってしまう。さらに、そのバンカーショットをアゴに当ててしまい、もう1打をバンカーから打つことになる。結局はこのホールをパー。続く10番でもピン奥から約2・5メートルのバーディパットが決まらずにパー。このパットについて渋野は、

「10番のバーディパットを外した瞬間に『あっ、今日は終わったな』と思って、その後は14番でちょっとリーダーズボードを見たくらいで、優勝は全く頭にありませんでした」と語った。そして、コース内で最もやさしい11番でもバーディがとれずに優勝はかなり遠くなった。

青木コーチもこの3ホールについて、

「あの9番からの3ホールでバーディを取れなかったのが痛かったですね。あそこで伸ばせていれば、まだ優勝もわからない状況だったと思います。本人も『ここは行かなきゃいけない』と思っているホールだと思うのですが、その心と技術のバランスが難しかったと思います」

「傾斜が複雑なグリーンは
ちょっと渋野さんとは
相性が悪かった」

平瀬真由美
1969年10月30日生まれ。日本ツアーでは93年、94年と2年連続で賞金女王となり、96年には「東レジャパンクィーンズカップ」で米国ツアー初優勝を飾った。最近は女子ツアーのリポーターとしても活躍

最終日に初めて入れたバンカー
初日から3日目まで一度も入れなかった9番ホールのガードバンカーだったが、最終日に初めて入れるとバンカーがアゴを超えないミス。しかし打ち直しではカップ2メートルにつけてなんとかパーセーブ。

アイアンが乱れて、 バックナインで 波に乗れない渋野

3つのチャンスホールでスコアを伸ばせなかった渋野だったが、そこから崩れない強さと逞しさがあった。19年まで現役選手としてプレーして、最終戦ではじめてリポーターをつとめた大江香織は、

「ロープ外から渋野選手を見たのははじめてですが、最も驚いたのはプレーのスピードです。とにかく打つまでが早い。1打目ならまだわかりますが、私は試合でグリーンを狙う2打目をあんなに早く打ったことは1度もないと思います(笑)」

ツアー通算3勝の大江は、約10年間ツアープロとして活躍して、ショットメーカーとして評価されていた選手。その経験から渋野はプレーのスピードがビッグスコアにつながっていると語った。

「最終日は前半から中盤まで伸ばせない展開でしたが、12番パー3であの日イチバンのアイアンが打てて、ピン30センチくらいにつけて初バーディを奪うと、13番パー5でもラフからの2打目を思い切り良く打って花道まで運ぶとアプローチを寄せてバーディを奪いました。この2ホールを見てて、良いショットが打てた後に、自分で波を作っていける選手だなと思いました。そのテンポの良さがあるから、今年の試合で何度もビッグスコアを出せたと思います」

ただし、あの最終日はその後も渋野には厳しい展開が続いた。15番では2打目がグリーンオーバーして、アプローチが寄らずに痛恨のボギー。実質的にはここで、完全に優勝が消えた瞬間だった。
 

「12、13番では良い流れを
つかみかけていた」

大江香織
1990年4月5日生まれ。153㎝。09年のプロテストに合格し、11年に初めて賞金シードを獲得すると、ツアー通算3勝をマークし、19年シーズンまで賞金シードを落とさず活躍。今年、賞金シードを逃して第一線からの引退を表明した。

3日目と最終日に渋野の組に帯同していた平瀬真由美は、

「3日目はアイアンが右に出ている感じがしましたし、最終日もアイアンが本調子ではなかったと思いますね。パーオンしてもピンから5メートル以上のホールが多かったので、なかなかスコアが伸ばせなかった」

また、舞台の宮崎カントリークラブはコーライグリーンが名物で、新人選手には厳しいと言われる。しかし平瀬は、

「パッティングでそれほど手こずっている感じはありませんでしたが、それよりもドッグレッグが多くて、グリーンの傾斜が複雑でした。だからパッティングのライン読みとかタッチよりも、グリーンの狙い方に苦戦している感じがしました」

初日イーグルのチャンスホールでも最終日はパー
試合後に渋野は「ティーショットがバンカーに入って、2打目もダフって、3打目もヒッカケが出てしまった」と語った11番ホール。18ホール中最もやさしいホールで、渋野も初日はイーグルを奪ったが、最終日はスコアを伸ばせなかった。

「最終日はモヤモヤしてましたけど、18番のバーディでスッキリした」渋野

渋野が15番でボギーを打った時点で鈴木愛は5位タイでホールアウトして、賞金女王はぼぼ決まった。優勝争いでは、最終組をトップでスタートしたイ・ボミがスコアを落とす中、2位でスタートしたぺ・ソンウが14番までにスコアを4つ伸ばして、独走状態になっていた。

渋野にとっては優勝も、賞金女王もない展開になったが、それでも大勢のギャラリーが取り囲んだ18番では渋野らしいプレーを見せた。渋野が「今日イチでした」というティショットはビッグドライブとなり、2打目については「ダフったのにグリーンに乗ったのは、今日の私を象徴していたと思います(笑)」。そして、2・5メートルのバーディパットについて、「今日、最も気持ちを入れて集中して打ったので、入ったときには、本当にスッキリしました。悔しさは全くありません(笑)」と最後までスマイルを見せていた。

青木コーチはこの18番のバーディについて、

「ものすごく成長を感じましたね。3日目の終わり方(ボギー)ではなくて、最終日のバーディで1年間を終えられたのは、すごく彼女らしいゴルフが出来たと思います。元々、試合前から72ホール自分らしいゴルフをするというのが目標だったので、最終日の最終ホールで彼女らしいバーディがとれたのは成長だと思います」この18番のグリーンに来たとき渋野はギャラリースタンドに向かって立ち止まり、深々と一礼をしていた。

試合中の渋野はすごく冷静に周囲が見えている。バーディで笑顔を見せることもあれば、ときにはイライラした表情を見せることもある。しかしどんなショットが出ても、次の1打までにリセットされている。そんな冷静さが1年間を通して最も安定して活躍したメルセデス・ランキング1位の活躍につながったのではないだろうか。

年間7勝をあげて2度目の賞金女王になった鈴木は「2年前の最終戦も長かったですけど、今年はもっと長い1週間に感じました」と語った。

優勝争いの4人をデータで分析

驚異のFWキープ率で難コースを制したべ・ソンウ

最終スコアはぺ・ソンウが2位タイの渋野に4打をつけて優勝。賞金女王を争った3人と比較しても、ペ・ソンウはフェアウェイキープ率が76%とティショットの安定感が抜群だったことがわかる。逆に3日目まで苦しんでいた鈴木愛は、パーオン率が55%と苦しい中で、年間の平均パット数でも1位だった得意のパッティングでスコアを作っていた。

鈴木愛はパーオンに苦しみながら得意のパットで盛り返す!

GOLF TODAY本誌 No.572 81〜85ページより

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