1. TOP メニュー
  2. ゴルフギアにお悩み
  3. クラブ選び
  4. AIだけではなかったキャロウェイの開発革命|ギアモノ語り

AIだけではなかったキャロウェイの開発革命|ギアモノ語り

米国本社のカールスバッドからマサチューセッツのボール工場まで潜入取材

2020/04/16 ゴルフサプリ編集部

初めてAIを使って開発した19年の『エピックフラッシュ』が米国No.1セールスを記録し、20年モデルの『マーベリック』ではAI設計をさらに拡大。今、キャロウェイと言えばAIのイメージが強い。しかし、開発拠点となる米国本社のカールスバッド、さらにボール工場があるマサチューセッツではAIだけではないキャロウェイの開発革命が起きていた。

慣性モーメントの常識を超えたAIフェースのやさしさ

「製品の開発には、惜しみなく投資を続けることを約束します」

キャロウェイゴルフ CEO チップ・ブリュワー

開発革命の原点は約8年前にあった。2012年にCEOに就任したチップ・ブリュワー氏は、製品第一主義を掲げた。それは言葉だけではない。当時、完成目前だった『X-HOT』を全面的に改良。予定より完成は遅れたが、大ヒットにつながった。

『マーベリック』の完成も予定より遅れていた。それは、ぎりぎりのタイミングまで改良やテストを重ねたからでもある。チップ・ブリュワー氏がCEOに就任してから、そういう製品は珍しくない。その開発背景について、今年1月にチップ氏に話を聞くと、

「2013年はまだキャロウェイは今のポジションにはいませんでした。しかし、製品開発に力を入れたことで、現在のクラブ市場では競争力のあるリーダーになっています。ただし、この開発スタイルは私が考えたものではありません。キャロウェイの創業者イリー・キャロウェイの〝明らかに優れていて、その違いを楽しむことができる〞という新モデル開発の哲学であり、もともとキャロウェイの文化としてあったものです」

また近い将来のキャロウェイについてもチップ氏は、

「これからの5年はすごくエキサイティングで重要なものになります。私は製品開発に投資をして、革新的なテクノロジーを生み続けることを約束します。開発部門のR&DにはAIはもちろん、さらなる設備投資を続けて業界のリーダーであり続けたいと思っています」

ちなみに『マーベリック』の開発で最も困難なミッションは何だったのか?2009年から開発部門の指揮をとるアラン・ホックネル氏には、まず『エピックフラッシュ』と『マーベリック』の違いから話を聞いた。

「前作の『エピックフラッシュ』は我々にとってもAIを使った初めての挑戦でした。だからAIにはボール初速を上げる、ルール適合を守る、耐久性をクリアするという3つの要素に限定して開発しました。それを『マーベリック』では3要素に加えて、フェース面全体でのミスヒットへの強さ、スピン量の安定など、よりチャレンジングなレベルでAIをフル活用しました。また3タイプのヘッド(スタンダード、サブゼロ、マックス)では、それぞれターゲットとなるゴルファー像の打点をインプットをして、3タイプの異なるAIが設計したフェースになっています」

AIが設計するフェースによってミスヒットの強さ、スピンの安定などのやさしさを追及した『マーベリック』。ここまでは、すでに多くのゴルフメディアでも報じられている通りだ。しかし、『マーベリック』の開発はこれだけではなかった。今、ゴルフクラブの最新トレンドとしてはヘッドの大慣性モーメントがやさしさにつながると言われており、多くのゴルフメーカーが大慣性モーメントのヘッドを追求している。しかし、アラン氏は、

「実は『マーベリック』はAIデザインのフェースだけでミスヒットに強くて、十分にやさしくなっています。だから極端に低重心にしたり、慣性モーメントを大きくする必要がなかったのです。その代わり、『マーベリック』のスタンダードではより空気抵抗を少なくするヘッド形状にトライできました。それがヘッド後方部が高いサイクロンヘッド形状です。このアイデアは元々、開発チームにありましたが慣性モーメントの問題や重心が高くなってしまうために実現できませんでした。それが今回はAIが設計したフェースで十分なやさしさを実現できたので、トライすることができたのです」

今後のAIの可能性について質問すると、

「我々は、常にアドバンテージを得ようとしています。今後、他社もAIを使った設計やジェイルブレイク的な構造にトライしてくるかもしれませんが、そうなったときでも追いつけないくらいリードしている立場にいたいと思っています」

すでに慣性モーメント競争の先にある開発段階に入っていたキャロウェイ。その最初の答えが『マーベリック』の他社とは違う〝スピードを持ったやさしさにある。

「AIによって、他社が追いつけないリードをつけたい」

キャロウェイゴルフ R&D担当 上席副社長 アラン・ホックネル

AIのメリットは、爽快な打球音や、スピードアップにも!

ヘッド後方部が吊り上がったような高いポジションになっているサイクロンヘッドシェイプ。この形状によって、空気抵抗を60%以上も削減し、スピードアップを実現。また、今回はAIに心地良い打球音をインプットさせることで、爽快な打感になるサウンドリブがヘッド内部に搭載された。

3タイプのヘッド別、FW、UT、アイアンにもタイプ別のAIフェースを

前回の『エピックフラッシュ』ではドライバーだけがAIフェースだったが、『マーベリック』ではフェアウェイウッド、ユーティリティ、アイアンでもAIフェースを採用。それぞれターゲット別に3タイプのヘッドがあり、さらにロング、ミドル、ショートでも番手別に最適なAIフェースになっている。

AIの複雑な設計を実現できる業界最高峰のマシンミルド

「AIのスピードは前作で6週間かかったものが新作では3日でできる」

キャロウェイゴルフ R&D エンジニア担当 ジム・セルーガ

実は『マーベリック』ではAIにもさらに予算をかけて、大幅な開発増資を行っていた。前作の『エピックフラッシュ』から引き続きAI担当のエンジニアを務めたジム・セルーガ氏は、

「前作ではAI担当は私1人でしたが、今回は9人のチームになっています。AIに増資をしたことで、まずスーパーコンピュータの処理速度が格段に上がりました。今まで、AIが1つの答えを出すのに6週間かかっていたことが3日でできます。このチームとAIによって『エピックフラッシュ』では2年半かかっていたことが1カ月でできるようになりました」

そのスピードアップによって、今回はアイアン、ユーティリティ、フェアウェイウッドでも番手別にAIフェースを搭載。さらに、AIで設計されたフェースや、アイアンで異なる素材を組み合わせた複雑な構造についても、それを忠実に再現できる開発体制を整えていた。

CADやプロトタイプを担当するブラッド・ライス氏は、

「以前はCADから実際のヘッドを作ってボール初速などのデータをテストしましたが、今はCADの段階でボールが当たったときのフェースの変形からヘッド内部のジェイルブレイクの効果までわかるようになりました。さらに、実物のヘッドやフェースを削るミルド加工のマシンも業界最高峰の機材を入れています。ミルド加工に関してはその削り方のデータはCAD、AIと完全にリンクしている。だから、設計通りのヘッドを実物で作れるのです」

「CADの段階で、ボールを打ったデータやフェースの変形がわかる」

キャロウェイゴルフ R&D アドバンスド・エンジニア ディレクター ブラッド・ライス

パターの巨匠が即採用を決めた3本線のスクエア効果。

「テストでは約88%のゴルファーがスクエアに構えられるようになった」

キャロウェイゴルフ オデッセイ チーフデザイナー オースティ・ローリンソン

パターの世界における『オデッセイ』は開発革命を続けてきた最強ブランドでもある。かつて『ツーボール』という斬新な形状でネオマレット市場を開拓し、近年は『#7(ツノ型)』が大ヒット、そして昨年はカーボンとスチールを融合した『ストロークラボ』が大流行。そんなオデッセイで長年、チーフデザイナーを務めるオースティ氏は、昔からスクエアにアドレスできるパターを開発してきた人物。思えば、『ツーボール』もその哲学に基づくアライメントである。そして現在の開発チームにはショーン・トゥーロンという『トゥーロンパター』の生みの親がいるが、2人の巨匠はボールでトリプル・トラックのアイデアを見たときに驚いたようだ。

「私もすごいクールなアイデアだと思いましたし、トゥーロン氏も『これはすごい!ペンで書けば30秒でパターの試作品を作れるぞ(笑)』って、最初にツーボールに定規を当てて書いた。それでアドレスしたら抜群に構えやすかった。そこから本格的な開発をスタートしました」

オースティ氏はその効果について、

「特にアマチュアゴルファーの方はストローク軌道の問題よりも、アドレスでスクエアに構えられていない人が圧倒的に多いです。だから、オデッセイでは長年、スクエアに構えられる形状やアライメントを追求してきました。今回の『トリプル・トラック』はプレーヤーズテストの結果も良くて、約88%の人がトリプル・トラックがないものよりスクエアにセットできるようになりました。その秘密はラインが1本ではなく、赤いラインの上下に青いラインがあるからです。これは副尺視力と呼ばれる視覚の世界では実証されているテクノロジーです」

実際に赤いラインと2本の青いラインは、飛行機の滑走路誘導灯などにも採用されているもの。そのアライメントとオデッセイのコンビは、まさに最強コンビと言えるだろう。

視覚の世界では1本より3本は実証!ボールとの相乗効果も

20年モデルである『トリプル・トラック』シリーズも、話題の『TEN』を含む『ストロークラボブラックシリーズ』もシャフトはストロークラボを採用。『トリプル・トラック』はアライメントのない白いボールでも構えやすくなるが、ボールのトリプル・トラックとの相乗効果も大きい。

ボールの聖地に 55億円を増資。 No.1を狙える 新生クロムソフトに。

キャロウェイゴルフ ボールオペレーション シニアディレクター ビンセント・シモンズ

世界初!ゴルフメディアがキャロウェイの新ボール工場に潜入!

「コストや時間をかけても最高の製品を作る」。それはAIを導入したクラブだけの話ではない。CEOに就任したチップ・ブリュワー氏は、マサチューセッツ州チコピーにあるキャロウェイのボール工場にも約55億円を増資。チップ氏は、

「ここ数年、キャロウェイのボールシェアは伸びていますが、さらに上のナンバーワンを狙うために増資を決めました」

取材班は1月でも温暖な西海岸のカールスバッドから、雪が残る東海岸のチコピーへ。そもそも、なぜチコピーでボールを作るのか?
取材班を迎え入れてくれた工場長のビンセント氏は、

「ここは1896年頃に建設されてスポルディング社が野球のボールやバスケットボールを作っていた工場です。そして1915年頃から同社がゴルフボールの生産をスタートさせて、米国ではボールの聖地とも言える場所でもあります。この土地であれば冬は温度調整しないでゴムを保存できます。実は私の父もこの工場でボールを作っていましたが、私のように家族で2世代、3世代とこのボール工場で働いている人は多いんです」

100年以上もゴルフボールを製造してきた歴史と伝統を感じるレンガ造りの建物。その横には巨大な新しい施設がつながっている。それこそが、約55億円を増資した部分である。

ビンセント氏は、

「この施設をアップグレードするプロジェクトは4年前からはじまっています。最も資金をかけたのがゴムを配合するミキシングマシーン。ゴムをミキシングする機械自体はどのメーカーも使っていますが、この機械は地球上全部を回って探したと言っていいほど最新鋭で高性能なタイプ。極限までゴムの配合、混ぜる時間、温度を調整できるのでよりアグレッシブな設計ができるようになりました」

アグレッシブな設計は、限界までボール初速を追求した新生『クロムソフト』のためでもある。新しい施設には『クロムソフトX』だけを生産する専用施設があった。今回はスタンダードの『クロムソフト』はデュアルコアを継承しているが、『クロムソフトX』は新開発のシングルコアにして、前作から構造を一新。それは新しい専用施設が必要なほど挑戦的な設計だったのだ。

「最も難しいのは約15%も薄くしたカバー部分。コアを拡大した上で、極限まで薄いカバーにするために秘密基地のような施設が必要でした。おそらく、このカバーを流し込むためにつくられた複雑で精密な工程は世界で唯一だと思います」

さらにボールの均一性、精度を上げるためにも新しい設備を導入していた。

「昨年導入したのは、3次元のX線検査によってボールの内部をチェックする機械です。他社でも2次元のX線検査はやっていますが、3次元は世界でキャロウェイだけだと思います。この検査でボールの中心からコアが約0・2㎜もズレない基準でチェックができるようになりました」

キャロウェイは革新的なイノベーションを起こすメーカーである。それをボールで行うためには革新性だけでなく、生産・検査を最高基準にする必要があった。そのための55億円もの増資だったのだ。

最初にレンガ造りの玄関を訪れたときは歴史を感じたが、取材を終えると〝歴史を変えてくれそうな〞雰囲気を感じた。

世界中から探した配合マシーンでは、超精密なゴムの配分が可能になった

2階建てのように見える白い屋根の部分にある最新鋭のミキシングマシーン。合成ゴムの配分や温度管理、混ぜる時間などはすべてデジタル管理されている。ビンセント氏は「ゴムの配合や混ぜ方はコントロールが難しい部分だったのですが、この機械によって100発100中で設計通りの配合ができるようになった」と語る。

クロムソフトXだけの 専用ラボを作った

『クロムソフトX』を生産するための専用施設はキャロウェイだけのオリジナル工程があり、内部の詳細は撮影NG。特にウレタンカバーを一瞬で流し込むインジェクションモールディングの複雑な仕組みの工程に秘密があるようだ。
デュアルコアの『クロムソフト』(写真左)に対して、『クロムソフトX』(写真右)はシングルコアになっている。

業界唯一! コア圧力成型を完全機械化

約600トンの圧力によってコアを丸く成型する工程は完全機械化によってオートメーション化されている。コアを運ぶ工程を含めてすべてロボットだけでオートメーション化できているのは業界で唯一、キャロウェイだけと言われている。

アライメントのプリントも独自開発

トリプル・トラックやトゥルービスのプリント工程もオリジナルの機械で行なっている。最後のコーティングではボールを1瞬だけ浮かせることで、ボール全体を均一にコーティングしていた。

約100年前のスポルディング時代からボールを開発していた聖地

スポルディングがトップフライトとなり、そのトップフライトを2003年にキャロウェイが買収。工場内には1900年前後のガッティボールから糸巻きボール、そしてキャロウェイ初のボール『Rule35』も飾られていた。

GOLF TODAY本誌 No.574 105〜111ページより


ギアモノ語り

 シリーズ一覧へ