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世界のゴルフスイング事情|グリップは減速させない

ゴルフリサーチャーTASK【世界のゴルフスイング事情】vol.3

2020/06/17 ゴルフサプリ編集部

国内外で収集したゴルフスイングに関する最先端情報を「Jacobs3D」アンバサダー、ゴルフリサーチャー「タスク」が独自の視点と考察を交えてお届けします!

ゴルフリサーチャー・タスク
国際金融マンからゴルフリサーチャーに転身。米国のゴルフサイエンス団体Jacobs 3D GOLFのアドバイザリーメンバーであり、日本のアンバサダー。USGTF Teaching Professional、TPI Certified資格を所持。

ジョーダンスピースのダウンスイングでは、グリップエンドを引き続けていることが視覚的にも分かりやすい。インパクト付近でそのネガティブγフォースは最大値を迎え、そのベクトルは上空より飛球線後方へ向かう。

スイングの一場面を切り取る写真と誤認がもたらす勘違い

Jacobs 3Dの科学的アプローチは、現在アメリカにおいても大きな話題を呼んでいますが、それと同時に数々の誤解や曲解を生んでいます。

目に見えないキネティクスエネルギーをニュートン物理学で帰納的に解析するといっても、一般には理解されません。それは致し方がありませんが、間違って理解されてしまうことが多いのも事実です。

そのような中で、散見される勘違いが『グリップを減速させる』です。

プレーヤーがゴルフクラブに与えるエネルギーの実に3分の2が直線運動です。しかも、その大半がグリップエンドを引くγ(ガンマ)フォースの存在です。ダウンスイングに入ったプレーヤーは、左腕が地面と平行のポジションから、積極的にグリップエンド方向へ引くことによりクラブヘッドに回転運動と大きな遠心力を与えます。シャフトが地面と平行(デリバリーポジション)に下りたあたりから、そのフォースの方向はどんどん上空へとベクトルを変化させていきます。当然グリップエンドが指す方向も上空になります。インパクトポジションでは、そのベクトルはむしろ若干飛球線後方へ、プレーヤーの背中側へ向きます。

しかるに、エネルギーとしては、グリップを強大に引き続け、加速度のフォースをかけ続けるというのが正解です。よって、グリップは減速させてはいけません。ただ、これはそのエネルギーベクトル(方向)が刻々変化していることにより、飛球線方向へのベクトルだけを切りとった場合に『視覚的に減速して観測される』ということです。

ここが、以前お話しした見えないエネルギーを語るキネティクスの世界と、単なる視覚的観測結果に過ぎないキネマティックスの違いなのです。よって2Dの観測者にとっては『ヘッドを走らせるには手を振っちゃいけない。インパクト付近で減速させろ、止めろ』という勘違いにつながります。

赤い矢印がグリップでシャフトを飛球線方向へ押す形で与えるネガティブβフォース。米PGAプロはインパクトの直前からのみ発生させる。

多くの日本のプレーヤーの問題として、トップからシャフトを飛球線に“横押し”しながらボールに向かうβ(べータ)フォースが過大であるという事実があります。

その問題の要因が、ヘッドが遅れるα(アルファ)ローテーションの発生にあります。βフォースでグリップをボールに向かわせるほどヘッドは遅れるので、プレーヤーはそれを相殺する逆のα(アルファ)トルクを与えヘッドを間に合わせようとします。ところが、日本のプレーヤーのように、早期からβフォースを与えてしまうと、インパクトでヘッドをボールに向かわせようとしても、力学的に到底間に合いません。よって、ダウンスイングのフォースは“β成分”をできるだけインパクト直前だけに抑え、グリップエンドを引くγ(ガンマ)フォースを主体にすべきなのです。

マイケル・ジェイコブスのそのような主張を勘違いして『インパクトでヘッドを走らせたいなら、手元は逆に「減速」させる必要がある』と伝えたメディアがありますが、それは大きな間違いです。マイケルはそんなことは言いません。アメリカの情報発信を正確に伝えきれない日本のメディアの限界が、このようなところに露呈します。こうした安易で無責任な情報伝達には、常に気をつけなければなりません。

協力/Jacobs 3D 写真/相田克己(2019 ZOZO CHAMPIONSHIP)

GOLF TODAY本誌 No.576 142〜143ページより

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