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淺井咲希選手が初優勝を決めたあの瞬間の前に交わされた会話

プロキャディが語る! 2019シーズン熱戦エピソード /栗永 遼編

2020/06/22 ゴルフサプリ編集部

新型コロナウイルスによる“ゴルフ自粛生活”に辟易しているゴルフファンに、少しでも楽しんでいただきたい! そして、相次ぐ大会中止によって活躍の場が減少しているプロキャディの皆さんに少しでも露出できる場を創造したいという考えからスタートしたこの企画。

男女ゴルフツアー・2019年シーズンにおいて、プロキャディたちが厳選した“熱戦エピソード”や裏話などを臨場感たっぷりにお届けします!

2019年からプロキャディとして初のフル参戦となった栗永遼キャディが登場。ルーキーイヤーとなった19年に、初めてタッグを組んだ淺井咲希選手が、いきなり初優勝。最終日の最終ホールで、ちょっぴりやらかしちゃった淺井選手だったが、無事に優勝を決めた最後のパッティングにまつわる話を教えてくれた。

写真は2019年の淺井咲希

年間フル参戦を決めた最初の年に初優勝が転がり込んだ

フル参戦のプロキャディとして、ルーキーイヤーとなった2019年。栗永キャディにとって、一番印象深かった試合はもちろん、プロキャディ初優勝となった「CAT Ladies」。初めてタッグを組んだ淺井咲希選手にとっても、嬉しい初勝利となり、まさに初モノづくしの思い出深い試合。

「話をするなど、コミュニケーションは取っていましたが、淺井選手のバッグを担ぐのは初めてでした。練習ラウンドで初めて一緒に回ったときに、今までに思ったこともないようなことを思ったんです。それは『勝てるんじゃない?』という予感めいたものでした」

勝てるかもしれない……練習ラウンドから予感はあった。

「練習ラウンドを一緒に回って、ショットもいいし、精神的にも縮こまっていないし、気負わず、自然体で回れていた。元々パターが苦手な選手でしたけど、パターが入れば勝てるんじゃないかな? と感じたんです。本人に伝えると『いやいや、そんなことないですよ』と謙遜していましたけど、僕は彼女のお母さんにも『勝てるかもしれないですよ』と伝えたくらい自信があったんですよ」

特に根拠があったわけではないが、何となく感じた勝利の予感。そんな前向きな気持ちとは裏腹に、大会初日は土砂降りの悪天候。アウトコース4組目のスタートとなった淺井選手だったが、スタート時もまるで嵐のような空模様だった。

「スタートしたときは、本当に嵐のようで、雨の降りは凄いし、風も強かったんです。1番はロングホールなんですけど、470ヤードとはいえ、打ち上げで天候もひどいし、ほとんどの選手が2オンできないような状況でした。ところが淺井選手は、上手いこと乗って、いきなりイーグル発進だったんですよ。このとき、『あれ? 予感当たるかも』と思いました」

初日は、1イーグル、5バーディ、2ボギーでトータル5アンダーの首位でホールアウト。さらに2日目も4アンダーで回り、トータル9アンダー、2位に3打差をつけて、最終日最終組でのラウンドとなった。

コーチでもある栗永キャディのアドバイスが効いた

「パターが彼女の弱点だったんですが、練習ラウンドのときに、もし、アドバイスがあったら、言ってくださいと言われました。僕自身、インストラクターも兼任していて、それなりに知識はあったので思ったことを伝えました。このときが初タッグだったし、そのあとも何試合かバッグを担ぐことが決まっていたので、今後のことも考えて、お試しで取り入れたことが、ハマりました」

最終日、13番ホールで1度は穴井詩選手に並ばれたが、14番で穴井選手がボギーを打ち、淺井選手は再び単独トップへ。15番でバーディを獲り、2位の穴井選手には2打差をつけ、運命の18番ホールを迎えた。

「最終18番は537ヤードのロングホールで、ティショットで大きなミスをしなければ、優勝できるイメージでした。ティショットはまっすぐ行って、距離も出ていたんですが、問題はセカンドショット。淺井選手はあそこのセカンドが苦手なようで、初日、2日目と右サイドのギャラリースタンドのほうに打ち込んでいたんです。この日も2オンはできませんでしたが、ギャラリースタンドまでは行かず、右サイドの問題なく打てる位置で、3打目をピン横7~8メートルに乗せました。下りのラインでしたけど、穴井さんもバーディチャンスではなかったし、そこから3パットでも大丈夫と思ったので、ほぼ優勝を確信していました」

淺井選手のファーストパットはナイスタッチで、ピンまで70~80センチという好位置についた。

「僕的にはナイスパットと感じましたが、次のパーパットで、彼女の悪いクセが出ちゃったんです」

パーパットよりも長いボギーパットを打つことに…

「とりあえず「パターのフェースに当てれば、届くくらいのタッチで、焦らず打ってね」と伝えたんですが、出ちゃったんですね。本人も「やっぱり出るんだ」と思ったらしく…。でも、今まで自分がパターで苦しんできて、そんなミスはそこまで出なかったわけですから、初優勝がかかった最後の最後に出て、これも試練なのかな? と思いました。ボギーパットはテレビだと、1メートルくらいに見えたかもしれませんが、タテ位置ですから短く見えるんです。実際には1ピン弱までいったと思います」

入れば初優勝のパーパットは大きくオーバー、次のボギーパットは1ピン(2.5メートル)弱まで転がってしまう。これが入らなければ、プレーオフという状況にまで追い込まれたのだ。

「僕は水を持っていたので「とりあえず飲もう」と落ち着かせて、ラインを読んでいたんですが、そこでビックリしたのが、パッティングに入る前の第一声でした。ラインを聞いてきたのではなく、「このパット、今週やろうって決めたテーマで打てば入る?」って聞いてきたんです。それがビビッと来ましたね。普通だったら『まっすぐ? フック?』って聞いてくると思うんですけど、ラインはわかっていたんですね。だから僕も『そうだよ、やろうと決めたことをやれば入るよ』ってうながして、あの微妙な距離のボギーパットを無事に沈めることができたんです。3打目を打った時点では、僕が泣く要素なんて、まったくなかったんですけど、あの最後のパットが入った瞬間、パターに苦しんでいた彼女のことがいろいろ浮かんできて、僕も思わず号泣しちゃいました」

パターに悩む淺井選手に伝えたこととは?

今週やろうと決めたこと…それはいったい何だったのか?

「パッティングのアドレスで、淺井選手はかかと体重になっていたんです。そのせいで、スライスラインが全部カット打ちになってしまっていたんです。実はアマチュアの方でもスライスラインが苦手という方はかかと体重になっていることが多いんですよ。フォローでフェースが開いてしまうので、右に出るミスになります。そこで淺井選手には、つま先体重を意識するようにアドバイスしました。そうしたら、ストロークがすごくスムーズになったんです。それと、今回の試合ではもう1つ秘策がありました。それは、ライン読みは全部、僕が担当して、淺井選手は僕が指示したところに打つという作戦です(笑) とにかく、パターに苦しんでいたので、アドレスやストロークも気にして、ラインも読んで…となると大変なので、負担を減らすために、ラインは僕が担当しました! 3日間を通して、パッティングはすごく良くなりましたし、悪いクセが出たのは本当に最後のあのときだけで、結局1ホールもトップの座を譲らずに完全優勝となりました」

インストラクターとしても活躍する栗永キャディならではのアドバイスで、見事、初優勝を手にした淺井選手。運命の優勝パットの裏側には、こんな秘話が隠れていたのだ。


栗永 遼(くりなが・りょう)
1995年3月20日生。香川県出身。日本体育大学体育学部中退後、親友の稲森佑貴選手の勧めでツアーキャディを目指す。最初の3年間は、地元香川県の3.7.3GOLFACADEMYでインストラクター兼スポットキャディとして活動。2019年シーズンよりプロキャディとしてツアーに本格参戦。稲森選手はもちろん、片山晋呉選手、柏原明日架選手、淺井咲希選手、石井理緒選手らのバッグを担ぎ、8月に行われたCAT Ladiesで淺井選手と初優勝を経験。2020年シーズンは稲森選手、石井選手のほか、大西葵選手、柏原明日架選手、大里桃子選手らのキャディをする予定だった。プロキャディ初のYouTuberでYouTubeチャンネル『GOLF BASE TV』にて情報を発信する活動も行っている。

取材・文/下山江美
写真提供/栗永 遼
撮影/相田克己
Special Thanks/伊能恵子
企画・構成/ゴルフサプリ編集部

栗永氏は、現在、石井理緒選手のコーチとしても活躍中。

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