1打の重み GOLF SCENE

日本人初の五輪ゴルフのメダリストになった稲見萌寧。2位決定戦を勝ち抜いての銀メダル獲得だった。

無観客のはずが……。練習日には仕事を終えたボランティの人たちがギャラリースタンドで観戦(左)。その模様がテレビにも映し出されたこともあって、翌日には本来のガラガラのスタンドに(右)。

  • 国際ゴルフ連盟(IGF)の会長として、全米シニア女子オープン優勝後にすぐに飛行機に飛び乗って会場入りしたアニカ・ソレンスタム。

  • テレビですっかりとお馴染みになったIOCのトーマス・バッハ会長も、会場となった霞ヶ関カンツリー倶楽部を来訪。

  • ゴルフコースにもあったが、他の競技会場にもあった子供達からの応援メッセージ。これもおもてなしのひとつといえる。

  • 会場となったコースの内外は厳重な警備が敷かれていて、警察官や自衛隊などの人々で溢れていた。

金メダルは米国のザンダー・シャウフェレ、銀メダルはスロバキアのローリー・サバティーニ、銅メダルは7人のプレーオフを勝ち抜いた台湾のC.T.パン。

今年のマスターズでも最終日最終組で一緒にラウンドした松山英樹とザンダー・シャウフェレ。今回はザンダーに勝利の女神が輝いた。

金メダル獲得は米国のネリー・コルダ、銀メダルの稲見萌寧、銅メダルは稲見とプレーオフを戦ったニュージーランドのリディア・コー。

  • 世界から男女各60人が集い、それぞれ4日間の予選落ちなしのストロークプレーでの戦いとなった。

  • 日本勢もお揃いのキャディバッグやユニホームで気合を入れて戦ったが、結果は銀メダル1つとなった。

ゴルフの価値

賞金のかかった世界のプロツアーと違い、オリンピックのゴルフは国の代表としての名誉を背負っての戦い。おのずと同じゴルフのプレーをしていても1打の重みも価値も違ってくる。

「スロバキアの次世代のゴルファーのために国籍を変えたのさ」ローリー・サバティーニ

「私が今日ここにいることは、とても幸運なことです。私はただ感謝しています。ここにいられることに。そして、スロバキアを代表してこの場に立ち、国旗が掲揚されるのを見て、とても誇りに思いました」とローリー・サバティーニ。
 ゴルフ通のなかには彼が南アフリカ出身のプロとしてPGAツアーでも活躍したことを知っている方もいるだろう。サバティーニがスロバキア代表になったのには理由がある。「妻がスロバキア人で、そのいとこがスロバキアのゴルフ協会の副会長だったことがきっかけで、2019年に国籍をスロバギアに移したのさ。目的は次世代のゴルファーの育成と、オリンピアン生み出すため。まだスロバキアには代表となるゴルファーがいないんだ。アイスホッケーや他のスポーツと比べて、それほど人気がないからね。でもこれでジュニアゴルファーには関心をもってもらえるかもしれないよ」
  最終日に驚異的な追い上げで銀メダルを獲得したが、実はとても調子が悪かったと打ち明けていた。「妻がキャデバッグを担いでくれていて、同じ組の台湾のC.T.パンも彼の妻が担いでいて、私のグループはとてもリラックスした環境でした。それが良かったのだと思います。正直いうと好スコアは期待していなかったのですが、10アンダーというアグレッシブなゴルフができて幸運でした。これでスロバキアでももっとゴルフに興味を持ってもらえるとうれしいよ」と笑顔のコメント。 オリンピックのゴルフだからこそ出場できたし、そこで結果を残したことはスロバキアのゴルフにとっては大きな一歩を踏み出したといえる。

「オリンピックの雰囲気や楽しさ、興奮が世界に広められた。それだけで成功だと言える」クリス・ライマー( CR PR アンド・コミュニケーションズ・グループ社長)

「アメリカにおける評価をいえば、7月14日以降にアメリカで発進された五輪関連の英語の記事は5000本を超えており、これはとんでもない数字です。実際に出場したマキロイやポール・ケイシー、トミー・フリートウッドやジャスティン・トーマスらが、自分たちの経験したことを赤裸々に語っており、コロナ感染防止対策によって、日本への入国や滞在がどんなふうにどのくらい大変だったかなども語っているため、出場しなかった選手たちもファンも、東京五輪を身近に感じることができている。
 選手が語りたがるということは、彼らがいい経験、貴重な経験をしたと感じている証だと思うので、五輪ゴルフの雰囲気や楽しさ、興奮が世界へ広められていくことは、この五輪ゴルフが成功を見たと言っていいと私は思います。
  また「アメリカや日本では、すでにゴルフはビッグなスポーツですが、まだそれほど盛んではない国にとっては、この五輪ゴルフは大きな意味があったと思います。台湾のC.T.パンがメダルを獲ったこと、メキシコのロペスが開会式でフラッグを持って行進したこと、インドのヤングレディの奮闘も、インドにおけるゴルフの認識を高めるはずです。

「賞金のためではない戦い。そこに違いがある」マーク・ウイリアムズ(IGFスタッフ)&カメラマンJJ田辺(副フォトマネージャー)

 マキロイのコメントにも表れていたように、3位(銅メダル)をかけて全力を尽くすということからも、五輪は特別な力を持っていると思う。また、順位に対する選手たちの情熱のかけかた、モチベーションの高さは、通常の試合に比べて五輪のほうが圧倒的に強く、高いと感じられた。しかも、それが「賞金のため」ではないところが、また大きな違いだ(マーク)。「五輪らしい配慮なのかな」と思ったのが、表彰式でのリハーサルのこと。表彰台の位置、カメラマンの配置、選手入場の場所などを確認するのは普通のトーナメントと変わりないですが、国旗掲揚のリハーサルがあるんです。その国旗掲揚で使われる国旗が、失礼な言い方かもしれませんがマイナーな国の国旗なんです。女子ゴルフでいえば、優勝候補はアメリカ代表ですが、トップ選手の国の国旗を使用してのリハーサルはちょっと…という配慮なんだろうと思います。これは五輪っぽいなと思いました(田辺)。

「ゴルフファンだけでない人も見てくれる!」ニッキ平山(IGF女子チェアマン)

ゴルフのトーナメントは世界中で見られるものですが、それはゴルフファンが見るものだと思うんです。でも、五輪ではスポーツファンが見てくれる。もっと言えば、スポーツファンではない人も見てくれる可能性があって、そういう意味では数々あるスポーツと肩を並べて、ゴルフも見てもらえるということはものすごく意味があると思います。すぐに効果が生まれるとは言えないですけれど、ジワジワと「ゴルフってかっこいいね。面白いね」というふうに伝わる機会としては、絶好の機会だと思います。

「ゴルフ後進国にアピールできる!」渡辺裕之さん(メディア担当)フレンド企画

後進国やマイナースポーツという位置付けの国に、ゴルフをアピールすることができるのが、五輪という舞台だということですよね。五輪ではゴルフがマイナーな国でも、中継されて、取り上げられますものね。それに、五輪ではゴルフ後進国の選手も参加できます。それがモチベーションになって、より頑張るようにもなる。こうした色々なことを生み出すのが五輪の力だと思います。

「3位を争うプレーオフの体験はとても貴重だった。次のパリは本気でメダルを狙いにいくよ」ローリー・マキロイ

オリンピックならではの光景となった。なんと3位の銅メダルをかけての7人のプレーオフ。プロツアーでは優勝のためのプレーオフはあるが、3位を争うのは初めての経験。そのなかには我らが日本代表の松山英樹、アイルランド代表ローリー・マキロイなど世界のトップランカーも。他にはアメリカ代表のコリン・モリカワ、イギリス代表のポール・ケーシー、コロンビア代表のセバスチャン・ムニョス、チリ代表のミト・ペレイラ、そして最終的にメダルを獲得した台湾代表のC.T.パンの7人。7人の選手はホールアウトの早い順に第1組に4人、第2組に3人で分けられた。プレーオフ1ホール目は18番・パー4、次に10番・パー3。そして3ホール目も18番・パー4、4ホール目は10番・パー3と交互にホールを変えて行われた。松山とポール・ケーシーは、ともにパーセーブできず1ホール目で脱落。3ホール目ではローリー・マキロイが脱落。次ホールは5人でプレーオフを進めた。最後(4ホール目)は、コリンとC.T.パンの一騎打ちで、パンが最終的に銅メダリストになった。

Men’s Round July29-August1~初めてのプレーオフ~

酷暑の中の戦いは、最後は3位の銅メダルをかけての7人のプレーオフにまで突入した。そこには世界を代表するメジャーホルダーが3人もいたが、獲得したのはゴルフの世界ランク181位のC.T.パンだった。

練習日にはお揃いのユニフォームで松山英樹、星野陸也、畑岡奈紗の3人が一緒にラウンド、そこにコーチの丸山茂樹、服部道子も同伴。稲見萌寧は試合がありラウンドはかなわず。

今年になり初めてスイングコーチを迎えた松山だが、その目澤秀憲コーチも霞ヶ関CCの練習ランドに帯同。

  • オリンピック直前に新型コロナウイルスに感染するなど、体調は万全ではなかったようだ。

  • 丸山茂樹コーチは松山とのコミュニーケーションを重視していて、松山も全幅の信頼をおいていたようだ。

  • 大会2週前のメジャー全英オープンに優勝して乗り込んできたコリン・モリカワ(右)は銅メダルのプレーオフに参加したが、台湾のC.T.パンに惜敗。

  • 2位になったサバティーニと同じようにC.T.パンは奥さんをキャディにしていて、だからラウンド中もリラックスできたとか。

  • 15アンダーで3位タイに並んだ7人のうち、先にホールアウトしていたモリカワ、ペレイラ、ムニョス、パンの4人が先に、次に松山、マキロイ、ケーシーの3人という2組に分かれてプレーオフはスタート。松山とケーシーが1ホール目をボギーとして惜しくも脱落すると、5人となった2ホール目は全員がパー。4ホール、約1時間半の長いプレーオフとなった。

  • 練習ラウンドで同じアイルランド代表のシェーン・ローリーとプレーしたマキロイ。短パンにキャップなしという普段では見られない姿だった。ちなみに頭のサイズが小さいので代表用のキャップが合わなかったとのこと。

金メダルを獲得したのは米国のザンダー・シャウフェレ。今はコーチとなっている父は、実は五輪を目指していたことが。しかし交通事故でその夢を断念していただけに、息子の五輪出場には人知れぬ強い思いがあった。

  • メダリストの公式会見。通常のツアーであれば優勝者のみが壇上に上がるが、オリンピックではメダリストが必ず会見をおこなう。

  • IOC会長のバッハ氏とヒジで挨拶を交わすマキロイ。

Women’s Round August 4-7~メダリスト誕生!~

本格的にゴルフがオリンピック競技として採用されて、2回目となる東京五輪。
地元開催ということで多くのゴルフファンは期待をかけた。
そして初のメダリストとなったのが女子プロの稲見萌寧だった。

日本人として、また女子で初のオリンピック・ゴルフの銀メダリストとなった稲見。

  • 稲見とリディアのプレーオフは、稲見が2オンしてパーに対して、リディアはティショットをバンカーに入れ、2オンもできずにボギーとして決着。

  • 今季好調を支える奥嶋誠昭コーチをキャディとして帯同し、安定したプレーを見せた稲見。

  • 世界ランク1位で22歳の米国代表ネリー・コルダが、終始リードを保っての優勝だった。

  • 優勝候補とされたコルダ姉妹。妹のネリーが優勝を決めて、飛び出してきて喜びを分かち合う姉のジェシカ・コルダ(右)

  • 霞ヶ関カンツリー倶楽部の名物ホール10番パー3だが、オリンピック・プレーヤーにとってはあまり脅威ではなかったよう。

  • 女子については韓国勢が強いとの前評判だったが、男子に続き女子も米国選手が金メダルを獲得した。

  • 東京五輪を自分の引退試合と表明した中国のフォン・シャンシャン(左)と、リオの金メダリストの韓国代表インビー・パーク。二人とも優勝争いには絡めなかった。

  • 最終日、最終組で奮闘したインドの若手アディティ・アショクは、惜しくも4位タイに。

フィリピン代表として参加した笹生優花は初日から、74、68、67、65と調子を上げていったが初日の出遅れが響いて9位タイに。

米国で活躍する畑岡奈紗も優勝候補の一人だったが、最終日にスコアを伸ばせず9位タイ。暑さ対策のための体を冷やせるベストをプレーの合間に着用していた。

Report/shuji kakuta, photo/yoshitaka watanabe IGF, Composition/koichi mogi