3年前のどん底から復活できたフォーティーンの哲学とは|FOURTEEN【ギアモノ語り】
〜カリスマ竹林隆光から継承した開発哲学〜
今年40周年を迎えたフォーティーンはアイアンでは『TB‐5フォージド』、ウェッジでは『TK‐40フォージド』が生産が追いつかないくらい好調なセールスを続けている。しかし、3年前には「どん底」というべき危機を迎えていた。そこから復活できた背景には、創業者・竹林隆光の哲学があった。
GOLF TODAY本誌 No.594 97〜101ページより
竹林隆光の開発哲学 Ⅰ |誰かに向けたクラブではなく1人のターゲットに向けたクラブを作る
TB-5 FORGED SPEC
ロフト角(7I)/30度
素材/S20C(軟鉄鍛造)
シャフト/①FS-90iスチール(S、R)②FT-70iカーボン
クラブ総重量(7I)/①407g(S) ②389g
価格(5本セット)/①12万1000円 ②12万6500円
ウェッジ専門のメーカーになるか、14本で勝負するか、その分岐点もあった
創業者である竹林隆光が亡くなり、開発担当者もいなくなった2018年。残されたメンバーの中心は、竹林と一緒に仕事をしていたベテラン社員達だった。その1人である営業担当の池田は、自分でアイアンのモックを作りはじめた。
入社20年目の池田純は3年前の「どん底」について振り返った。
「私が入社した頃は『MT-28』(2001年発売)が大ヒットして業績も右肩上がりでしたが、2013年に竹林が亡くなり、2018年には主力製品の開発担当者もいなくなった。2018年頃は会社も上手く回らない。業績も厳しくて本当に『どん底』という感じでした。残ったみんなで、これからどうしようかという状況でしたね」
クラブの売り上げも落ち込んでいた。
「何かを変えないといけないとは思っていたのですが、クラブが売れていない中でウェッジの売り上げに依存していた。だから『ウェッジ専門メーカーになるべきか』という議論もありました。ただ、やっぱり、みんなフォーティーンが好きで、フォーティーンの由来は“すべてのゴルファーにベストな14本を”という社訓なので、14本で勝負しようとなった。そして、最初にやりはじめたのがウェッジとの親和性も高いアイアンでした」
しかし、開発者がいなくなった状況で、どのようにアイアンの開発を進めたのか?
「とりあえず『TB-5フォージド』に関しては私が企画して、モックまで作りました。私は元々、プロを目指して競技ゴルフをやっていて、竹林は私がよく練習したコースのメンバーでした。だから最初は竹林のもとで研磨をしたくて入社しました。入社してすぐ営業担当になったのですが、仕事が終わってからもヘッドとかを削っていたのでモックを作るノウハウはありました」
そして『TB-5フォージド』のコンセプトを作る上でも、竹林から教わったことがある。
「竹林はクラブを作るときは『誰か1人をターゲットにする』と言っていました。例えば50代のシニア向けみたいなターゲットでクラブを作ると、開発過程でつかまりを良くするか、つかまりを抑えるか、重くするか軽くするかとか、色々とブレてしまって結局は特徴のないクラブになってしまうからです」
竹林隆光の開発哲学 Ⅱ |常識を疑う、他メーカーと同じことはしない
IF-700 FORGED SPEC
ロフト角(7I)/30度
素材/ハイパーeメタル鍛造フェース、S25C軟鉄鍛造ABRボディ
シャフト/①FS-90iスチール(S、R)②FT-70iカーボン
クラブ総重量(7I)/①411g(S) ②391g
価格(5本セット)/①12万6500円
②13万2000円
ウェッジに関しても『RM‐4』では新しい挑戦があった。
「すでにフォーティーンのウェッジでは重心を高くすることでスピン性能を高める逆テーパーブレードを採用していましたが、『RM-4』では米国のツアープロから話を聞いたとき番手(ロフト)によって打ちたいアプローチが違っているというフィードバックがあった。そこからロフトによってトゥ側とヒール側のボリュームを変えるというアイデアが生まれ、56度以上はヒール側、54度以下はトゥ側を厚くするステップブレードが誕生しました」
2018年、新生フォーティーンとして挑んだ3モデルには『他のメーカーと同じことはしない』という竹林の哲学が生きていた。そして、クラブの売り上げが軌道に乗ったことで想定より早くドライバーの開発に着手した。
RM-4 SPEC
ロフト角/46度、48度、50度、52度、54度、56度(S)、56度(H)、58度(S)、58度(H)、60度(S)、60度(H)
素材/S25C(軟鉄鍛造)
シャフト/①N.S.PRO TS-114W ②N.S.PRO TS-101W
クラブ総重量(58度)/①470g ②458g
価格/2万6400円
ちなみに『TB‐5フォージド』は、誰をターゲットにしたのか?
「同期入社で、一緒にプロを目指していた営業部の中嶋です。私も中嶋も、最近は練習時間が少なくなってマッスルバックを使いこなすのは厳しい。でも、打感は軟鉄鍛造のマッスルバックが好き。だから、ボールが当たる部分はある程度の厚さを残してマッスルバックの打感を出し、ソールには一定の幅をもたせた。さらにキャビティ部分の壁をなくしたことで重心を低くしました」
そんな経緯で生まれた『TB-5フォージド』は発売直後から品切れ状態が続くほど近年のフォーティーンにはない大ヒットとなった。当時、この『TB-5フォージド』と同時進行で開発を進めていたのが『IF-700フォージド』と『RM-4』だった。そこにも竹林の哲学は継承されていた。
「僕達が教えられたのは『常識を疑え』ということと『他のメーカーと同じことはしない』ということ。竹林は世界初の中空アイアンを開発していますが、フォーティーンでも1999年の『HI-858』以来、ずっと中空をやってきました。ただし、『IF-700フォージド』は今までの中空アイアンとは根本的な構造が違っていて、ボディ全体ではなくフェース内部を中空構造にしています。だから、中空アイアン特有の“ぼってり感”がない。『クラブは美しくなければいけない』というのも竹林の教えの1つです。中空マッスルではなく、バックフェース部分は深さのあるキャビティ構造にしているので慣性モーメントは大きい。結果的に中空構造とキャビティ構造のメリットを上手く融合できたと思います」
竹林隆光の開発哲学 Ⅲ |アマチュアのための最長飛距離を求める
G ELONG D DX -001 SPEC
ロフト角/7度(LT)、10.5度(HT)
ヘッド体積/450㎤(LT)、460㎤(HT)
シャフト/①FT-40d ②FT-50d
クラブ長/47.75インチ、46.75インチ
価格/7万7000円
長尺のパイオニアとして挑んだ、超軽量ヘッドの「振りやすい長尺」
1998年、フォーティーンから発売された初代『ゲロンディ』は48インチという衝撃の長さで話題を呼んだ。当時のドライバーは44インチ台が主流。賛否両論あった長尺だが、その後もフォーティーンは長尺ドライバーに挑み続けた。
長尺ドライバーは、振りにくさとの戦いだった。98年の初代『ゲロンディ』は、一時的に多くのツアープロが使用してブームとなったが、すぐにツアーで使用する選手がいなくなった。2010年、生前の竹林にインタビューしたとき、長尺ドライバーについてこう語っていた。
「私は決して長尺ドライバーが振りにくいとは思っていません。長尺は圧倒的に飛距離へのメリットがある。ただし、今思えば48インチはやり過ぎたかなと思います。それは当時(1998年)はヘッド体積が300㎤前後の時代で、今(2010年)と比べてもヘッドが重かった。だから長尺にすると振り遅れてしまう。それに対応するためにシャフトの手元側を極端に太くしたのです」
その後もフォーティーンでは長尺ドライバーを発売し続け、今年発売された『ゲロンディDX‐001』も47・75インチをラインナップ。そこにも、やはり振りにくさとの戦いがあった。池田は新作の『ゲロンディDX‐001』について、
「長尺ドライバーが振りにくく感じるのはクラブ全体の慣性モーメントが大きくて、ヘッドの小回りが効かないからです。そのデメリットを払拭するために新作では180グラム台の超軽量ヘッドを採用しています」
今、市販されているドライバーのヘッドは200グラム前後が主流だが、それと比較すると20グラム以上もヘッドが軽い。その軽さに至った経緯を聞くと、
「当初の設計ではここまで軽くする予定はありませんでした。しかし、開発段階でアマチュアの皆さんに打ってもらって長尺でも振りやすい重さを追求すると180グラムに辿りつきました。数値目標ではなくて、アマチュアのフィーリングから生まれた軽さだったのです」
PC-3 SPEC
ロフト角(7I)/30度
素材/C450(5I-9I)、SUS630(PW)/ソール部タングステン(5I-8I)
シャフト/①FT-50iカーボン ②FT-60iカーボン ③FT-40iカーボン
クラブ総重量(7I)/①353g ②358g ③347g
価格(4本セット)/①9万6800円
実はこのアマチュア目線のフィーリングというのは、竹林もよく語っていた言葉だった。私が本誌の取材で最後に竹林に話を聞いた際に言っていたのは、
「ゴルフメーカーはプロの方を向いてクラブを作りはじめたら終わりです。アマチュアのためのクラブを作らないと生き残れません。だから私もクラブを開発するときは、ゴルフ仲間や知り合いに打ってもらっていました」
池田はそんな竹林について、
「竹林のことをよく数字にこだわる開発者だと思っている人もいます。確かに竹林がクラブ開発をはじめた頃はまだ職人が感覚でクラブを作っていた。そんな時代に竹林はロフト、ライ、長さ、さらに重心や慣性モーメントまで数値化しながらクラブ開発をしていきましたが、竹林は常にアマチュアのフィーリングを数値化していました。ロフト設計なども『アマチュアは30度以下のアイアンは難しく感じる』と言っていた。それは今も生きていて『TB‐5フォージド』や『IF‐700フォージド』、今年発売した『PC‐3』も7番のロフトは30度です」
フォーティーンが3年前のどん底から復活できたのは竹林の創業哲学だけではなく、アマチュア目線の開発を継承していたからだ。竹林の言葉にあった「アマチュアのためのクラブを作らないと生き残れません」というのは遺言だったかもしれない。
フォーティーンの創業者・竹林隆光がカリスマと呼ばれる理由
1977年の日本オープンでローアマになったこともある竹林隆光が1981年に創業したフォーティーン。当時はクラブ設計会社として、大手メーカーからクラブ設計の依頼を受けていた。その後、竹林は“タラコ”と呼ばれたユーティリティ、中空アイアン、そして長尺ドライバーという画期的なクラブを次々に発表。PGAツアーの現場にも足を運び、アーノルド・パーマー(写真)に話を聞いたこともあった。90年代以降も『HI-858』やウェッジの『MT-28』が大ヒット。竹林が斬新なクラブを作ることができたのは、いち早くヘッドの重心に注目し、重心距離、重心角がクラブの性能に大きく影響することに気づいたからだとも言われています。
●たけばやし・たかみつ
1949年生まれ。成蹊大学時代に本格的にゴルフをはじめて、卒業後にクラブメーカーのヨコオゴルフに就職。1981年にフォーティーンを設立後はクラブ開発だけでなく、宣伝活動の指揮もとっていた。2013年、心不全で亡くなった。
㈱フォーティーン
営業部 マーケティング担当 主事
池田 純
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