西郷真央を導く師匠・ジャンボ尾崎の姿勢
史上3人目となる3週連続優勝に挑むも2位!
確かな自信と、自分に対する客観的な目。これを同時に持つことはなかなか難しい。だが、弱冠20歳の西郷真央の言葉からは、その両方がくみ取れる。
写真/相田克己(2022年ダイキンオーキッドレディスのもの)
史上最高の1打を追い求め続ける姿勢
女子ツアーのシーズン第6戦、富士フィルム・スタジオアリス女子オープンで、西郷は大記録に挑んだ。1988年のツアー制施行後、3人目となる3週連続優勝だ。達成すれば全美貞(2007年、屋島クイーンズ、サロンパスワールドレディス、ヴァーナルレディス)鈴木愛(2019年、樋口久子・三菱電機レディス、TOTOジャパンクラシック、伊藤園レディス)に続く快挙となる。
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百戦錬磨のベテランなどではない。勝てそうでなかなか勝てなかったシーズンを経て、今季開幕戦でようやく初優勝したばかり。そこから5戦3勝の脅威の強さを見せている状況での挑戦だった。
初日は首位の大里桃子に5打差の21位タイと出遅れる。2日目に13位タイと順位を上げたものの、首位の鈴木愛から5打のビハインドは変わらない。
今季絶好調の西郷らしさが出たのは最終日。パー5の1番をバーディーでスタートすると、フロントナインで3つスコアを伸ばす。バックナインは1バーディー、1ボギーと足踏みしたが、通算6アンダーで2位に食い込んだのだ。
勝った上田桃子には3打及ばず3週連続優勝はお預けとなった。西郷はそのことについてこう言っている。「今まですごい選手がたくさんいた中で2人しか達成できていない記録というのは、それだけ難しいとわかっていたので、プレッシャーを背負ってプレーして勝てるような甘い世界じゃないとわかっていたので、そこは気にしないで目の前のプレーに集中しようと心がけてやりました」。
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記録は後からついて来るものだ。だが、人は、常に話題を求めている。達成される可能性のある記録は、その最たるものだ。本人は気づいていなかったり、気にしていなかったことでも、話題になったり、質問された瞬間に、イヤでも意識してしまう。励みになる場合もあるが、それも含めて重圧となってのしかかる。
この重圧との戦いも競技の重要な要素になるのだが、今回、西郷はこれを上手に“棚上げ”してプレーを続けたようだ。もちろん完全に頭の中から消し去るわけにはいかなかっただろう。それでも「今日は最後まであきらめず全力でプレーすることを心がけていたので、それは達成できたかなと思います」と、自分の集中力をきちんと評価している。
3週連続優勝はできなかったが、違う記録は更新している。連続アンダーパーの記録だ。昨年の宮里藍サントリーレディスから今大会までの29試合すべてをアンダーパーで回っている。2021年に西村優菜が達成した16試合の記録を大きく塗り替える快挙は、現在もまだ更新中だ。
当たり前だが、記録はどんなに素晴らしいものでも、達成した瞬間、過去となる。西郷が師匠と仰ぐ尾崎将司は、ツアー通算94勝の金字塔を打ち建てている。3週連続優勝も1988年(日本オープン、ゴルフダイジェストトーナメント、ブリヂストンオープン)1994年(大和インターナショナル、住友VISA太平洋マスターズ、ダンロップフェニックス)の2度、経験している。
だが、ジャンボにとって記録はあくまで過去のもの。見つめているのは常にその先だということを改めて感じたことがある。「(自分)史上最高の1打」について質問した時のことだ。返ってきたのは、こんな答えだった。「まだまだ、これからだよ」。最後の優勝となった2002年全日空オープンよりだいぶ後のことだったから、ジャンボは少なくとも50代半ばを過ぎていたはずだ。それでもなお、史上最高の1打を追い求める姿勢に驚嘆したことをよく覚えている。
どんなに素晴らしい結果を残しても、決して満足することはなく、次の可能性を求め続ける。トップアスリートはみな、そうだと思っていても、ジャンボのこの言葉には、思わず「辛くはないですか」と、聞き返さずにはいられなかった。「辛くていいんだ」。照れたように、ぶっきらぼうに口にしたその言葉は、必死に戦う多くの者の胸に響くことだろう。
プロゴルファーとしての人生を始めたばかりの20歳の西郷にも、そんな師匠の姿は自然に伝わっているだろう。アスリートとして、記録に挑み続ける。一方でそれを過去のものとして、ひたすら高みを目指していく。今回、三週連続優勝を逃した西郷だが、はるか彼方にいる師匠の背中は、記録に挑む度、勇気と力を与えてくれるに違いない。
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