「父のスコアは110くらい(笑)」|山下美夢有 ロングインタビュー〜「このままじゃあかん」から、賞金ランク1位へ〜
5歳でゴルフをはじめ、スイングは父と2人作ってきました
決して注目される存在ではなかった。同期でプロテストに受かった選手には笹生優花、安田祐香、西郷真央、西村優菜などアマチュア時代から有名な選手が沢山いた。
しかし、山下はルーキーシーズンで初優勝を挙げると、今シーズンはすでに2勝をマークして賞金ランキング1位に立っている(8月22日現在)。彼女が強くなった理由とは?
取材・構成・文/野中真一 撮影/田中宏幸 写真提供/ISPS
GOLF TODAY本誌 No.604 97〜101ページより
「父と2人でスイングを作ってきた。でも父のスコアは110くらい(笑)」
順風満帆に見える山下だが、プロ2シーズン目の今季は、4月に3試合連続で予選落ちするほど調子を落としていた。 そのピンチを救ってくれたのが、コーチである父・勝臣(まさおみ)さんだった。
―― 今、賞金ランキング1位になっていますが、プロテストに受かってから2年半でこういうポジションは想像していましたか?
山下 全く考えていませんでした。昨年優勝できたので、プロになってから最初の目標は達成できた。でも、その後が苦しくて、後半戦は予選落ちする試合も多かった。
今年も4月くらいは予選落ちが続いて、ちょっと自信を失っていた感じでした。
――5月の国内メジャー初戦「ワールドレディスサロンパスカップ」で優勝したときは?
山下 その直前の試合まで3試合連続で予選落ちしていて、「サロンパス」の週にコーチである父に練習ラウンドについて見てもらいました。そのとき『リズムが悪い』って言われて、それを試合で意識してやったら優勝できました。
―― いきなり優勝ですか?
山下 そうなんですよ。
―― 具体的にリズムはどこを変えたのですか?
山下 父からは『打ち急いでいる』と言われました。打ち急いでいるから、力みも結構あったと思います。だから、あの試合ではトップで間をおくような素振りをしながらやっていました。
もちろん、試合になったらスイングのことはなるべく考えないようにしていますが、朝の練習とかでも、リズムとか「間」を意識していましたね。
―― 昔からコーチはお父さんですか?
山下 はい。5歳でゴルフをはじめたきっかけも父で、小学3年生くらいから本気でゴルフをやるようになって、そこから父と一緒にスイングを作ってきた感じです
―― お父さんの腕前は?
山下 父はあまりゴルフはしないんですよ(笑)。本当に月イチくらいしかやっていないので、スコアは110くらいだと思います。
―― 小学生の頃にはお父さんより上手かったのでは?
山下 そうですね。一応、小学生の頃から試合に出ていたので、スコアは勝っていたと思います。でも、父に教えてもらったスイングなので、スイングに関しては父に任せている部分も大きい。私の癖とかも一番わかっていると思います。
―― いつからプロになることを意識するようになりました?
山下 中学1年生のときに「マンシングウェアレディース東海クラシック」に出て、色んなプロの方と回らせてもらいました。そのときに「この舞台で戦いたいな」と思ったのがキッカケです。
―― 中学校のときの試合は?
山下 全然、結果は出ていませんでした。でも「マンシング東海」に出てから何が足りないのかが色々とわかってきたし、そもそも今のままやっていてもプロテストに合格するわけないと思いました。
―― プロゴルファーを目指すことをお父さんに伝えたときは?
山下 「今のままじゃあかんで」って言われましたね。でも、そこから父もすごく協力してくれて練習方法とかも変わっていきました。
―― 練習はどのように変わった?
山下 例えばショット練習とかでも、今までは同じようなボールを何球も続けて打っていた。でも、それだと何球か打てば良い球が打てる。
そうじゃなくて、1球1球、目標とか距離を変えてショット練習したりしていました。練習自体が実戦的になりましたね。
大阪桐蔭高校では1日1000球の猛練習
―― 高校時代は?
山下 大阪桐蔭高校なのですが、1日1000球とかめちゃくちゃ練習していました。今より練習量は多かったと思いますし、高校で成長したという実感はあります。環境も良くて、ラウンドも週に2、3回できましたし、トレーニングもヤバかった(笑)。ダラダラする時間は一切ありませんでした。
―― プロになってからの2年半で最も成長した部分は?
山下 プロテストに受かった後、1年目のときに中嶋常幸プロの合宿に参加させてもらいました。そのときに中嶋さんから『ショットはいい。でもアプローチとパターが全然ダメ』と言われたので、1年目のときはずっとアプローチとパターの練習ばかりやっていました。それが結果につながったと思います。
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子供の頃からPGAツアーでタイガーを見ていた
―― プロテストに合格したときの気持ちは?
山下 もちろんうれしかったですし、緊張もしましたけれど、私達の世代から高校3年生の秋に受験できるようになったので、感覚としてはバタバタでした。高校の試合もあって、プロテストもあって、すぐにQTもあってという感じで余韻にひたる時間もありませんでした。
―― 同期のプロについてはどういう意識がありますか?
山下 実は西郷真央ちゃんとか笹生さんとかもプロテストのときまで、ほとんど一緒になったことがなかった。だから、そのときに色々話せた感じです。ライバルというよりは、同じ道を歩く同志みたいな感覚です。
―― 憧れのプロはいますか?
山下 小さい頃からゴルフネットワークとかでずっとPGAツアーを見るのが日常でした。タイガー・ウッズは大好きでよく見ていました。
―― 今も見ていますか?
山下 もちろん見ています。自分の試合があるときも、夜まで見てしまうこともあります。
―― 今年の「全英オープン」は?
山下 夜中まで見てましたね。2日目の18番ホールでのタイガーの表情がすごく印象的で、今まで見たことがない顔をしていました。少し泣いていたというか、あういう表情をするイメージがなかったので、このまま引退するんじゃないかなと思いました。あの姿は見ていて辛かったですね。
―― コースについては?
山下 8月の「AIG全英女子オープン」に出場することが決まっていたので、そういう視点でも試合を見ていました。バンカーが深そうだなとか、スタンスとりにくそうだなとか、リンクスってどうやって攻めるのだろうかとか少し考えながらテレビを見ていましたね。
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昨シーズンは後半戦で完全にバテていた
「試合は楽しい。でも賞金女王とかは意識していません」
山下にとって初の海外メジャーとなった「AIG全英女子オープン」。
ミュアフィールドで開催された試合で山下は最終日を6位タイで迎えた。最終日は1つスコアを落として13位で試合を終えたが、堂々たる成績を残した。
―― 今シーズンは残り3カ月の時点で、賞金ランキング1位。賞金女王は意識していますか?
山下 全然意識していません。ずっと試合が続いていて、やることも課題も多くて、とりあえず1試合1試合、上位で戦えるためにはどうすればいいかなって。それしか考えていません。
―― 昨シーズンと比べて変えたところは?
山下 昨シーズンの後半は完全にバテてしまって、全然ダメでした。特に3日目、4日目でスコアを崩していました。体重もどんどん落ちていってました。だから、今年は体力をつけるためにも、とにかく食べて、少し体重を増やして、練習やトレーニングをするようにしています。
―― 食事はどのくらい?
山下 本当に吐くくらい食べていて、白いご飯だけで500、600グラムくらいとりながら、プロテインとかも飲んでいます。あと1日5食にするときもあります。
―― 食事の量を増やしたことで、体調はどうですか?
山下 昨シーズンとは全然違いますね。今は3日目、4日目になってもしっかり踏ん張りが効いてスコアを作れていますし、去年みたいな疲労感はありません。体重を落としていない影響は大きいと思います。ドライバーの飛距離も10ヤードくらい伸びた感覚があります。
3日目、4日目の変化は数字にもあらわれている。昨シーズンは予選2日間の平均スコアが70・90(8位)だったのに対して、決勝2日間の平均スコアが71・75(29位)。
しかし、今シーズンは予選2日間が70・48(3位)で決勝2日間が69・95(1位)になっていた。
すごい名前だねって言われますけれど、子供の頃から気に入っています
―― プロになってプレッシャーに悩まされるとか、試合が嫌になることはありませんか?
山下 試合はすごく楽しい。調子が悪くても、試合をやりたくないという気持ちにはなりません。
基本的にゴルフが好きなので、好きなことを仕事にしながら生活させてもらっているというのはすごくありがたい。それは両親の影響も大きいと思います。
―― ゴルフ以外で両親から教わったことは?
山下 お母さんからはゴルフ以外のことでよく怒られたりしましたけれど、礼儀とか社会の常識をしっかり教えてくれた。それが高校を卒業して社会に出てからとても役にたっています。だから、お母さんがいなかったら、今の自分はなかったと思っています。
―― 両親がつけてくれた名前について、どう思っていますか?
山下 いつもすごい名前だねって言われてますけれど、子供の頃から気に入っています。『美しい夢が有る』っていいなって(笑)。
―― 将来、どういうプロゴルファーになりたいですか?
山下 上手くなりたいというのもありますけれど、人として尊敬されるような選手になりたいです。
山下美夢有
2001年8月2日生まれ。大阪府寝屋川市出身。5歳からゴルフをはじめて、高校3年生でプロテストに一発合格。
2021年の「KKT杯バンテリンレディス」で初優勝し、2022年は「ワールドレディスサロンパスカップ」「宮里藍サントリーレディス」と2試合で優勝。
現在、賞金ランキング1位に立っている。
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