初のプレーオフもマネジメント通りにプレー。21歳山下美夢有のゴルフ力に感嘆
今季最終戦のJLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップを制してメジャー2勝、年間5勝を達成。年間女王に華を添える
年間女王の山下美夢有と日本女子オープンの覇者、勝みなみのプレーオフとなった女子ツアー今季最終戦の最終日。最後に笑ったのは、21歳の新女王・山下だった。
(写真/山之内博章)
山下が、日本人初の年間平均ストローク60台も達成
実に鮮やかな一打だった。
プレーオフ1ホール目。山下美夢有が打った第2打は、ピンに向かって一直線。ピンの手前に着弾し、バウンドしてピン奥8mのところに止まった。
驚かされたのは、その球筋が本戦72ホール目で打った第2打とまったく同じだったことだ。残り180ヤードをU4で打った本戦ではボールがカラーまでこぼれたが、167ヤードを6Iで打ったプレーオフではグリーン内にとどまった。
「簡単にバーディを取れるホールではないので、(本戦同様)第2打をピン奥につけたいと思った」と山下。奥からは下りのフックラインが残るが、バーディパットを外してもパーパットでは上りが残るというのが山下の考え。そのマネジメント通りのショットを繰り出したのだ。
狙った方向、しかもタテ距離も合わせるというのは、プレッシャーが掛かった場面ではプロでも難しいと聞く。しかし、それをあっさりとやってのけた山下。そのショットの精度と精神力は、年間女王にふさわしい1打だったといえよう。しかもプレーオフを戦うのは、プロに入ってこれが初めてというのだから驚く。
そして迎えたバーディパット。数10分前に外したラインとほぼ同じ下りのフック。しかも今度はグリーンから打てるし距離も近い。当然ことながら、何が何でも入れるつもりで打ったと思っていたのだが、実はそうではなかったという。
「(左に外した本戦とは異なり)ちょっと深めに読みましたが、とりあえず寄せるつもりで打ちました。そんなに簡単ではないと思っていたので。それがカップへ入りました」と振り返る。
勝利のパットを決めた瞬間、感極まって涙を流したが、プレーに関しては最後まで冷静だったといえよう。
この勝利でシーズン5勝目をマーク。史上16人目の年間メジャー2勝とともに、年間平均ストローク60台(69.9714)を達成した。60台という記録は、申ジエ(韓国)が19年に記録(69.9399)しているが、それ以来の達成で、ツアー史上なんと2人目。また、日本人選手では初の快挙となった。
年間女王はすでに伊藤園レディスの優勝で決めていたが、最多年間獲得賞金も2億3502万967円とダントツのトップ。この金額に関しても、15年のイ・ボミ(2億3049万7057円)を上回りこれまでの最高額を達成した。
今季に限っていえば、国内に敵なしの無双状態だったが、来季についても、「今季の自分を超えたいです」とキッパリ。「(具体的には)出られる海外メジャー大会に出たい。目標は海外の試合で優勝すること」(山下)。メジャー大会も含めた米ツアーで勝てば予選会(QS)免除で、同ツアーの出場権も得られるということも計算しての目標だろう。
最終日に猛追してプレーオフに持ち込んだ勝にも拍手
そんな山下のウイニングパットを見て、「戦った私が感動するぐらい、すごいパッティング。あのプッシャーの中で決めるなんて」と笑顔で勝者を称えた勝みなみにも大きな拍手を送りたい。
初日1オーバーと27位タイと最悪のスタートを切ったが、2日目に大会コースレコードタイ記録となる64(8アンダー)をマークして4位タイに上り詰め、3日目は1つしかスコアを伸ばせなかったが最終日に猛チャージ。前半6バーディ、1ボギーで13アンダーまでスコアを伸ばし、後半も3バーディ、1ボギーの通算15アンダーで山下に追いついた。
この日はショットが不安定だったが、16番パー3では左のラフからピタッと寄せるアプローチを披露したり、目の前を木の枝が邪魔をする右のラフからのショットとなった17番パー4の第2打は、低い弾道でグリーンに乗せるなど、華麗な技が光った。
特に圧巻だったのは、18番パー4のバーディパット。長いフックラインを見事に読み切り、山下にプレッシャーをかけた。追いついた勝と追いつかれた山下。プレーオフでも勝は笑顔を絶やさず、一方、山下の表情は少しこわばっているように見えたが、緊張感を切らすことがなかった山下に分があったというのは考えすぎだろうか。勝のティーショットは山下を15ヤード前後もオーバードライブしたが、第2打は少し力んだのかスイングが乱れ、右のカラーに外してしまった。
とはいえ、この大会が大いに盛り上がったのは勝のおかげ。「調子はけっして良くなかったが、シーズンの締めくくりとしては上々の出来」と試合後も笑顔で語っていた勝。12月1日から始まる米女子ツアーの最終予選会に挑戦する予定だが、アメリカでも大いに暴れてもらいたい。
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真鍋雅彦(まなべ・まさひこ)
1957年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。
1986年に退社し、フリーライターとしてナンバー、週刊ベースボール、ラグビーマガジン、近代柔道などで執筆。
ゴルフは、1986年からALBAのライターとして制作に関わり、その後、週刊パーゴルフ、週刊ゴルフダイジェストなどでも執筆。現在はゴルフ雑誌、新聞などで記事を執筆するほか、ゴルフ書籍の制作にも携わっている。