「パター所有本数200本」は多いの? 少ないの?

松山英樹が米ツアーのプレーオフシリーズの初戦に勝ったとき、手にしていたパターが新しいものだと話題になりました。

日本のメディアに対しては、ポーカーフェースで淡々とした対応が目立つ松山は、米国のゴルフ記者とは満面の笑みで対応していることがよくあります。だからというわけではないのですが、引き出される情報の量も質も、米国のメディアのほうが圧倒的に上です。
新しいパターについても、どんどん追加情報が出てきましたが、その中で興味深いものがありました。

『松山は家にある200本のパターの中から、何年か前からあったアレを何気なく選んだ』

『!』と『?』が交錯しました。
パターが200本も家にあるのか! と驚く人たちと、200本しか所有していないなんてウソだよね? と疑問を持った人たちの反応でした。

一般的なゴルファーの多くは、200本もパターを所有している、というシンプルな驚きと憧れを感じたというわけです。
その一方で、マニアックなゴルファーは、パッティングがウィークポイントと思われているのに、200本は少な過ぎる、と考えたのです。

例えば、僕の周辺は一般よりも若干マニアックだとしても、携帯の番号を知っている範囲の知り合いの中に、パターを100本以上持っている人は10人はいますし、その内の3人は200本を楽に超えます。
あまりパターを替えないゴルファーに分類される僕でも、家中から掻き集めればパターは20本ぐらいはありますし、ゴルフ歴46年で、1ラウンド以上使用したパターの総数は30本は越えると思います。

少し前まで、パターは買い替えやすい手頃な価格のものが多く、少しでもパットが良くなるのであれば、と考えて、貪欲に試すことは正義でした。
パットに悩みがある人であれば、実戦投入せずとも、お試し感覚でパターの所有数が増えてしまうのは、珍しいことではなかったのです。

髪の毛1本分で結果が変わる不思議なパターの世界

競技ゴルファーの最後の期間から約10数年間、僕はピンの『J ブレード』というパターを愛用していました。大好きでしたし、練習もしましたし、結果も出ていた頼れる相棒でした。
この『J ブレード』は、今でも4本、家にあります。
現役の頃に使用していたエースは、弟が使っていて、他の3本は倉庫に眠っています。

何かがあったときに予備として、気に入っているエースパターと同じパターを所有しているゴルファーはたくさんいます。

『J ブレード』は、アジア市場専用モデルだったのですが、ステンレスの鋳造製法で、ピンパターなのにL字が欲しいというマニアックなゴルファーが求めたので、ヒットパターになり、長い期間販売していました。

このパターは、金型にステンレスを流し込んで製造しますが、4本のパターは、バックフェースに入っている小さな文字を見ると、ハッキリとしているものと、潰れ気味になっているものに分かれるのです。
ハッキリしているものは、金型が新しいときに作られた初期のもので、金型が使用を経て、徐々に痛むので文字が潰れているほうが新しいパターです。

この金型の変化は、アンサーなどのヒットパターには必ず起きている現象でしたが、初期ものが良いと言われるケースと同じぐらい、古くなった金型のほうが良いと言われることも多く、何が幸いするかわからないところが、実にパターらしくて、面白く、ストーリーがあるのです。

ちなみに、僕の『J ブレード』は、初期のものがベストで、新しいものは、開いて見えるからイマイチと評価していていました。もちろん、パターとしてのスペックに差はないのですが、ある工房で2本を徹底して調べてもらったところ、トウ側のフェースの角が新しいパターのほうが髪の毛1本だけ後退していることがわかりました。クラフトマンは、名探偵が犯人を見つけたときのように、自慢気に言ったのです。
「それが、開いて見える原因です!」
髪の毛1本分の差が見えるわけはないのですが、実際に感じるので、そうなのかもね、と納得したのです。

最高のパートナーの席は一つだけ、貪欲ぐらいがちょうど良い

ごく稀にですが、14本のクラブの中に2本以上のパターが入っていて、ショートパット用があったり、スライスライン専用の1本があったりすることがありますが、ラウンドに携帯するパターは1本なのが一般的です。

何百本のパターを所有していても、使用できるのは1本しかないのだから、パターをたくさん持っているのは無駄、というわけではありません。
数本中のベストと数百本中のベストでは、後者のほうがより良いものである可能性が高いからです。

浮気をしたことで、本命の良さを知るということは世の中には多々あると言われています。
パターもそういう側面があり、時々浮気をする貪欲さが、結果として愛用するパターをランクアップさせる、ということもなきにしもあらず。

僕が生涯で認めているパット名人は二人です。どちらも、エースパターを使い続けていますが、年に数本の新しいパターや、エースパターと同じ中古パターを試しています。常に、今より少しでも上手くなりたい、という情熱が挑戦をやめさせないのです。

浮気が原因で炎上する時代です。
愛し続けるために、刺激を求めてしまう矛盾が許されないことは、本当に幸せなのか? 愛しているからこそ、なかなか悩ましい問題です。

安心してください。パターの世界では、最高のパートナーを見極めて、自信を深めていくための方法としても浮気が奨励されています。
昔に比べると、パターも高額になったので、気軽には数量が試せないという現実もありますが、だからこそ価値があるとも言えるのです。

「悩んでいるくせに、200本しかパターを所有していないなんて信じられない」
常に、ベストを求める貪欲さにゴルフの神様は微笑むのです。

篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。