市販の5~6年前から使っていた

先日、ブリヂストンスポーツのイベントで藍さん と話しをする機会がありました。
その際「B-Limited」ウェッジについて「現役時代にあったら使っていました?」と質問すると「使っていましたよ!」との答えが返ってきました。

初代モデルが発売されたのは2015年。藍さんがツアー競技から引退したのが2017年なので、確かに短い期間とはいえ重なっています。

ですが続けて「私が世界ランキング1位になったのを支えてくれたクラブだと思います」と言います。
藍さんが開幕2連勝を含むシーズン5勝を挙げて世界ランキング1位になったのは2010年です。
どういうことなのかと思ったら、ツアープロ向けには2009〜2010年あたりからプロトタイプを支給していたのだそうです。

2010年は溝規制が施行された年です。これはクラブフェースの溝の体積と角度を制限することで、フェアウェイとラフからのショットでスピンのかかり方に差をつけ、フェアウェイキープしたショットの「正確性の価値」を高めることが目的でした。

「生命線」のショートゲームを支えた

「ショートゲームは私の生命線」と言う藍さんにとって、規制によりラフからスピンがかかりにくくなることへの対策は急務でした。
そこでμ(ミクロン)レベルの精密な加工技術を持つ「無限」と共同開発し、超精密ミルド加工をしたウェッジの52度と58度のプロトタイプを投入したのです。

「ラフからが全然違う」

当時の藍さんは52度で85〜90ヤードぐらいを打っていました。
この距離のショットが溝規制に対応した普通のウェッジと比べると「特にラフから打った時が全然違いました。このウェッジだとスピンがかかって止まるのでピンのある面を狙っていけるけど、他のウェッジだと、グリーンに乗ればいいとの狙いになる。その差は大きいですよ」と藍さんは当時のことを説明してくれました。
この違いがバーディチャンスの違いとなって表れることは言うまでもありません。

「世界1位はこのウェッジに支えられた」

藍さんは2009年の「エビアン・マスターズ」でアメリカLPGAツアー初優勝。
5勝を挙げて世界ランキング1位にもなった2010年は平均パット数が「パーオンしたホール」(1.72)、「1ラウンド」(28.59)、「1ホールあたり」(1.59)の部門で1位となり「世界一のパッティング」と誰もが認めました。
実はこれらも、ウェッジを中心としたクラブでしっかり寄せていたからこそのスタッツでもあるのです。

「贅沢に使わせていただきました」

最新の「B-Limited」ウェッジはμ(ミクロン=1/1000ミリ)をさらにレベルの超精密な加工に加え、ピコ秒(1兆分の1)のレーザー加工をするため、1日に8本しか作ることができません。

かつても大量生産が不可能なこのウェッジを藍さんは「贅沢に、年に3本ぐらい使わせていただいていました」と振り返ります。

5代目モデルだと1本が11万2200円(税込み)するクラブを年に3本使うのは確かに「贅沢」なことではありますが、世界一の快挙を支え、選手にもそう言ってもらえたらメーカーや開発陣も光栄なことでしょう。

11万円超の価格はドライバーにも匹敵するものですが、そこに込められた「世界一のエピソード」を知れば、高いとは思わなくなるかもしれません。

(取材・文/森伊知郎)