2028年のルール改正で、ボールの最大飛距離規制が改訂されて、ボールが飛ばなくなると言われていますが、アマチュアゴルファーにはあまり影響はないだろうと思っています。なぜ、あまり変わらないと思うのかの説明の前に、ルール改訂の内容を確認しましょう。

新しいルールで317ヤード飛ばすためには、今までよりも速いヘッドスピードが必要となるので、図の2つの直線の差の分だけ飛ばなくなりそうに思えます。両者のヘッドスピードの差は2.24m/sなので、ミート率が1.48だったとすればボール初速の差は3.315なので、この差が単純に飛距離の差になった場合は、16ヤードくらい飛ばなくなるだろうと考えられます。

ところが、ボールはゴム系の素材で作られているので「弾性変形」ではなく「粘弾性変形」をします。「弾性変形」は加重量と変形量が比例します。加重が1なら変形も1、加重が倍になれば変形量も倍になります。

一方で「粘弾性変形」の場合は加重量によって変形量が変化します。ゴム紐を引っ張った時に、最初は大きく伸びますが、ある程度伸びるとその後の伸びる量は少なくなります。ボールを打った時のヘッドスピードと距離の関係も同様です。これを図にすると直線ではなく、曲線になります。ヘッドスピードが速くなると、ヘッドスピードの増加に対して、飛距離の伸びは鈍くなるというわけです。

ゴルフボールの開発者はこれを利用して、ルール変更後の飛距離の低下を抑えようと知恵を絞っているはずです。ルール改正と同時に達成できるかどうかは、分かりませんが、いずれ「ルールが変わったけれど、あまり影響はなかったよね」ということになると見ています。

ボールではありませんが、2010年にツアー競技からで導入された「角溝規制」で示されています。ルール改正直後は、ウェッジでスピンがかかりにくくなったようですが、今では溝の形状や本数、ヘッドの重心設計、フェース面のミーリングなどの工夫で、角溝と遜色ないスピン性能が得られるようになっています。

ルールで規制されると、規制による性能低下回避しようとする開発陣の知恵と努力で、クラブが進化するということです。似たような事例がドライバーの反発規制にも見られます。

高反発ドライバーはフェースを薄くしてたわませることで、反発係数を上げてボール初速を高める設計でした。反発係数が0.83までに規制されると、たわみが大きいフェース中央部の板厚を厚くした「偏肉構造」で反発係数をルール内に抑える設計が生み出されました。イメージ的にはリミッターを設けた感じです。

元々は反発係数(COR)での規制が予定されていましたが、ヘッドに40m/sでボールをぶつけ、跳ね返ったボールのスピードを計測するという実験方法は大変な手間や設備がかかるため、実際には小さな錘をフェースにぶつけ、衝突した時の接触時間(CT)を計測するテスト方法が導入されました。

CORではなく、CTで反発規制が行われていることで、CT値はルール内なのに、反発係数が0.83超えのクラブもありそうだという状況になっています。

これは、CT値を計測する際の衝撃はごく小さく、CORは40m/sでボールをフェースにぶつけるので、衝撃が大きいことによるものだと考えています。現在はCT値がルール内にあればルール適合なので、CT値はルール内、CORは0.83以上を目指す開発が行われていると思われます。

思われますというのは、確認できないからです。大っぴらにCT値はルール内、CORは0.83以上になるように開発していますと言ってしまうと、これを規制するルール改正が行われてしまう恐れがあるために、メーカーは公表出来ないからです。

CT値はルール内、CORは0.83以上とは公表していないものの、各社ともこの設計を目指しているようです。既に発売されているドライバーのフェースの特徴や構造を見ると「やっていそうだな」と思えるものがあります。

小さな衝撃と大きな衝撃でフェースの変形量を変えるためには、カーボンフェースや異素材複合のフェースが有効だと考えられます。おそらく2026年モデルのドライバーはこの設計が盛り込まれたものが出て来ると思いますし、業界内での噂も耳に届いていますので、今から楽しみにしています。

クラブに関するルール規制はあまりして欲しくないと思う反面、クラブを進化させる効果もありますから、ルール規制も捨てたものではない気がします。ただし、進化と同時に、開発費と材料費、加工費がかかるので、価格が上がる影響はあまり歓迎できないところです。

文/大塚賢二(ゴルフギアライター)
1961年生まれ。大手ゴルフクラブメーカーに20年間勤務。商品企画、宣伝販促、広報、プロ担当を歴任。独立後はギアライターとして数多くのギアに関する記事を執筆。有名シャフトメーカーのシャフトフィッターとしての経験も持つ。パーシモンヘッド時代からギアを見続け、クラブの開発から設計、製造に関する知識をも有するギアのスペシャリスト。