キャビティバックとマッスルバック。ヘッドスピード40m/sでもグリーンで止まる球が打てるのはどっち?
吉本巧のゴルフギア教室 第96回
グリーンで止めたいならマッスル、飛距離を稼ぎたいならキャビティ。この“よく聞く話”は本当なのでしょうか? アイアンは、ヘッド構造によって特性が大きく変わります。ヘッドスピード、弾道、高さの出しやすさ。その違いを知らずに選ぶと、グリーンをオーバーしたり、止まらなかったり、距離感がバラバラに。
ギアに詳しいプロコーチ・吉本巧がキャビティバックとマッスルバックの違いをわかりやすく解説します。
スピンで止めるならマッスル、ランも計算に入れるならキャビティ
マッスルバックアイアン(以下マッスル)とキャビティバックアイアン(以下キャビティ)はどちらがいいのか? 結論から言うと、何をしたいのか、どんな機能がほしいのかによって変わり、さらに突き詰めると番手によっても変わってきます。
その前にまず、マッスルとキャビティの特徴を比較してみましょう。マッスルはヘッドが小ぶりなのに対しキャビティはヘッドサイズが大きめです。そのためシャフトの中心線からヘッドの重心までの距離が前者は短く、後者は長くなります。この違いはクラブ全体の操作性、言い換えるとフェースの開閉のしやすさに大きく影響します。すなわち、重心距離の短いマッスルは開閉しやすく、キャビティはしづらい。キャビティも開閉できますが、マッスルよりも大きな力が必要になります。
フェースの芯の広さも変わります。これは単純にヘッドの大きさの違いに起因する面もありますが、キャビティがバックフェース部分を薄くしてヘッド重量を周辺に配分しているためでもあります。こうすることでマッスルではスポットだった芯が、キャビティではエリアと呼べるまで拡張できました。そのせいもあって真芯の位置も変わっています。周辺に重量を配分すると必然的にソール側が重くなるので重心位置が低くなっている、いわゆる低重心ですね。これに対してマッスルは重心位置が高いまま。重心位置=芯の位置と考えていいので、マッスルはボールが上がりづらく、キャビティは上がりやすくなります。
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フェースの芯の大きさは打感にも影響します。マッスルは芯の裏が厚いため打感がいい。「分厚いインパクト」などと言われるように“ならでは”の心地よさがあります。一方、芯の裏が薄いキャビティは打感がいまひとつ。ただ、近年はヘッド素材を変えたり、ヘッドの作りに工夫を加えるなどメーカーの努力により打感が向上しています。いずれにしても打感は好みの問題でもありますから、取り立てて大きな要素にはならない人も多いと思います。
ロフト角にも違いがあり、一般的にはマッスルの方が2~4度ほど寝ています。これだけ聞くと球が上がると考えがちですが、芯が小さいのでジャストミートしないとロフト通りに上がりません。逆にキャビティはロフトが立ち気味ですが芯が広いためミスヒットに強い。低重心ということもあり球も上がりやすくなります。スイングタイプやヘッドスピードにもよりますが、同じロフト角ならキャビティの方が球が上がりやすいと言えるでしょう。
マッスルはロフトが寝ていることもあり、キャビティよりも打球のスピン量は多くなります。例えばヘッドスピード40m/s前後の人が7、8番アイアンをちゃんと打てた場合、マッスルは飛ばないけれどスピンが入るのでグリーンに止まりやすいですが、スピン量が少なめのキャビティは飛ぶので止まりづらい。グリーンをオーバーする可能性もあるのでランを計算しないといけません。ミドルアイアン以下の番手について言えば、グリーンに止めやすいのはマッスル、飛距離が出るのはキャビティです。
ということで、ヘッドの特性を比べると、距離が出やすくミスにも強いキャビティの方がアマチュア、とりわけアベレージゴルファーにとってはイージー。球を打ち分けたり、スピンコントロールしたり、打感にこだわったりするゴルファーにはマッスルが向いています。ただし、ここまでの話は主にミドルアイアン(7、8番)についての内容。6番より上、および9番以下ではその特性が変わってきます。
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6番以上ではマッスルとキャビティの差がよりハッキリと出ます。マッスルでもロフトが立ち、クラブ長も長くなるので打つのが難しくなる。40m/s前後のヘッドスピードではちょっと足りず、しかもフェースローテーションができないとボールがつかまらないので右に飛びやすくなります。また、キャビティよりロフトがあっても重心高が高いですから、球が上がらず距離も出づらくなります。長い番手については圧倒的にキャビティの方が打ちやすいと言えるのです。
9番以下はグリーンを狙う番手になりますが、こちらはマッスル自体の難易度が低くなります。ロフトがあるマッスルの方が高弾道の球を打ててスピンも多めになりますからグリーンに止まりやすい。ランが少ないぶん距離感も出しやすくなります。これに対しキャビティはロフトが少ないぶん弾道が低め。スピンも少なめなめですからグリーンに止まりきらないことも多い。ある意味飛びすぎるので、グリーンを狙いづらく感じる人もいるかもしれません。
まとめると、グリーンでボールを止めやすいのはマッスルですが、ミドルアイアンでその効果を得るには40m/sを上回るヘッドスピードが必要となります。一方、飛距離重視でグリーンに乗らないまでも、できるだけ近づけたいならキャビティに分があります。ベストなのは、例えば5~7番はキャビティ、それ以下の番手はマッスルという組み合わせ。あるいは7、8番はマッスルに近いハーフキャビティにする手もあります。いずれにしても組み合わせる場合にはロフト角の調整が必要になります。
吉本巧
よしもと・たくみ ゴルフ修行のため14歳から単身渡米。南フロリダ大在学中は全米を転戦するなど11年間にわたって選手とコーチを経験したのち、日米の20年の経験から吉本理論を構築。プロやアマチュアのスイングコーチをはじめ、フィジカルトレーナー、プロツアーキャディー、メンタルコーチング、クラブフィッティングアドバイザーなども務める。現在は東京・中央区日本橋浜町の「吉本巧ゴルフアカデミー」で指導中。「吉本巧のYouTubeゴルフ大学」も人気。
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