第2章 クラブは仕事をする? それとも、させない?

忘れられないショットがあります。

ラウンド後半の13番ホール。170ヤード強のパー3でした。

その日のゴルフは、ほぼ完璧でした。ショットも安定し、スコアも良い。「今日はいけるな」
そんな手応えを感じながらティーインググラウンドに立っていました。

ピンポジションも難しくない。5番アイアンで普通に打てばグリーンに乗る距離です。

私は、いつも通りスイングしました。ところが――

ボールは信じられないほど左へ曲がり、あわやOBという場所まで飛んでいきました。

一瞬、何が起きたのか分かりませんでした。その日、それまでOBとは無縁のゴルフをしていたからです。

当然、最初に疑ったのは自分の技術でした。もともと左へのミスは出やすいタイプです。
「たまたま大きく出ただけだろう」

そう思おうとしました。しかし、そのショットにはどうしても引っかかる感覚がありました。

シャフトが、いつもより柔らかく感じたのです。そして、ヘッドが“勝手に”走ったような感触。

その瞬間、頭の中に初めてある疑問が浮かびました。

――これは、本当に自分のミスなのだろうか?

クラブは仕事をしてもらうもの?

実はその頃、クラブのセッティングを変えたばかりでした。重いシャフトから軽いシャフトへ。さらに、少し柔らかめの設定にしていました。

開発者としての常識が、そこにはありました。

「ロングアイアンやミドルアイアンは、 シャフトが柔らかい方がやさしい」

当時の私は、それを疑いませんでした。なぜなら、ゴルフクラブとはクラブに仕事をしてもらうものだと信じていたからです。

シャフトがしなり、ヘッドが走る。クラブがボールを上げてくれる。クラブが飛ばしてくれる。そう考えるのが、当たり前だったのです。

しかし、そのショットをきっかけに私は別の考えを持つようになりました。

もしクラブに仕事をしてもらうのだとしたら、それを扱う側には相当な技術が必要なのではないか。そして、もう一つの考えが浮かびました。

――いっそ、クラブが  「仕事をしない」ようにしたらどうだろう。

ここから私は、ゴルフクラブの常識を一つずつ見直すことにしました。その中で、まず疑問に思ったのがよく言われるこの言葉です。

「ヘッドスピードが遅い人は シャフトを柔らかくすると良い」

ゴルフ界では、長くそう言われてきました。理由としてよく挙げられるのは、次の2つです。

  • 球が上がりやすい
  • ヘッドスピードが上がりやすい

球が上がりやすい理由は比較的わかりやすいものです。
シャフトがしなることでダイナミックロフトが増え、
結果として球が上がりやすくなる。

問題は、もう一つの理由でした。「ヘッドスピードが上がる」

これは多くの場合、シャフトがムチのようにしなり、ヘッドが走るというイメージで語られます。確かにムチの先端は、驚くほど速く動きます。しかし、ここで私はあることに気づきました。

ムチの先端には、重たいものが付いていないのです。

一方で、ゴルフクラブの先端にはクラブの中で最も重い「ヘッド」があります。

この違いは、決定的です。つまり、ゴルフクラブはムチとは構造が違う。

むしろイメージとして近いのはハンマー投げではないか。ハンマー投げでは、先端のハンマーが非常に重い。そしてそのスピードは、手元の動きによって生まれます。

つまり手元のスピードが上がらなければ、先端のスピードも上がらない。しかもハンマー投げでは、ハンマーと手をつなぐ鎖は投げる瞬間にはピンと張っています。しなりを使ってスピードを生んでいるわけではありません。この構造を考えると、ゴルフクラブもまたムチのようにしならせるよりクラブ全体が一体となって動いた方が 効率よくスピードが出る

のではないか。そう考えるようになりました。

ヘッドスピード遅い=柔らかいシャフト、でいいの?

ではなぜ、「ヘッドスピードが遅い人は 柔らかいシャフトが良い」と言われるようになったのでしょうか。

私はその理由を、球が上がることに求めました。

おそらくこの考え方が生まれたのは、かなり昔の時代。パーシモンヘッドとスチールシャフトの頃だと思われます。当時のクラブは、今ほど性能差がありませんでした。その中で飛ばない人の多くは、球が上がらないという特徴を持っていたはずです。

球が上がらないとキャリーが出ません。
キャリーが出なければ飛距離も出ない。

そこでシャフトを柔らかくすると、球が上がるようになった。

結果として距離も伸びた。そうした経験則が「柔らかいシャフトは飛ぶ」という常識になったのではないか。ただし、そこには一つの条件があったはずです。

それは――

タイミングが合えば飛ぶ

ということです。

よく言われる「一発の飛びはカーボン、安定はスチール」という言葉も、まさにその象徴でしょう。つまり柔らかいシャフトは誰でも飛ぶわけではありません。

タイミングが合った時だけ飛ぶ。

逆に言えば、毎回タイミングを合わせるのは簡単ではないということです。柔らかすぎるシャフトは、球は上がりやすくなるかもしれません。しかし同時に、タイミングの再現性を難しくしてしまう。ムチのようにしなるクラブで、毎回同じタイミングでナイスショットを打つ。それは実は、かなり高度な技術を要求することなのです。

つまり、クラブに仕事をさせる。シャフトをしならせ、ヘッドを走らせる。

この考え方は理屈としては成立します。

しかし実際のゴルフでは、それを毎回再現するのは簡単ではありません。

そこで私は、もう一つの可能性を考え始めました。

もしクラブが余計な仕事をしないとしたら。

もしクラブが人間の動きを邪魔しないとしたら。

その方が、アマチュアゴルファーにとって本当にやさしいクラブになるのではないか。その答えを探すために、私はクラブ設計をもう一度ゼロから考え直すことにしました。

それが、後に UPPAR というブランドの出発点になったのです。

では、どんなクラブがいいのか?

そして次に私が考えたのは、もっと根本的な問いでした。

そもそも、ゴルフクラブはどんな動きをするべき道具なのか。

その答えを探すため、私はクラブの構造そのものを見直すことになったのです。

(第3章へ続く)

ダグ・三瓶(だぐ・みかめ) ブリヂストンスポーツ、アクシネット ジャパン インクと日米2つの大手メーカーに所属。その中でクラブ開発、ツアー担当、マーケティング、フィッティングなどを担当。ツアーレップ時代にはあのボブ・ボーケイ氏に日本で唯一の弟子と認められていた。現在、フリーとなり迷い多きアマチュアゴルファーにアドバイスを送ってくれることとなった。