第8章 ソール形状とオフセットへのこだわり
前職で10年以上ウェッジを担当してきたこともあり、ソール形状には特に強いこだわりがあります。
「すべての人に100%合うソールは存在しない」とよく言われます。
それでも、“抜けの良さ”という感覚だけは、多くのゴルファーに共通するものだと私は考えています。だからこそ、条件が合ったときに“気持ちよく抜ける”ソールを目指しました。
まず取り組んだのはウェッジです。
バウンス角やソール幅といった基本要素を徹底的に見直しました。ウェッジは「多様性」や「汎用性」と言われますが、優先すべきは“使う場面での使い勝手”です。
たとえばサンドウェッジであれば、バンカーで使いやすくなければ意味がありません。
そこで、アプローチウェッジはアプローチに最適化したソール、サンドウェッジやロブウェッジは、それぞれのライコンディションで最も使いやすい形状を明確に切り分けました。
そしてその流れを、上の番手にも展開しています。
グリーン周りで使う番手や、距離を打ち分けるショットを担うクラブは、アプローチウェッジの思想をベースに設計しました。
さらに、7番アイアン相当以上のフルショットがメインの番手には「山形ソール」を採用しています。この形状は、以前から抜けの良さに確信を持っていたものです。
ただし問題は、「どの程度の山にするか」でした。
ソール前方(リーディングエッジ側)と後方の角度、山の幅――
これは実際に作って打たなければ分かりません。
過去の経験からある程度のイメージはありましたが、試作してみると、思ったほど抜けない。
そこから1mm単位で幅を調整し、1度単位で角度を詰める試作を繰り返しました。その結果、ようやく“狙い通りに抜けるポイント”を見つけることができました。
もう一つ重要なのが、ヒール側とトゥ側の落とし方のバランスです。
一見すると対称の方が抜けが良さそうに見えますが、実際のヘッド挙動はそうではありません。フルショットに近づくほど、クラブヘッドはヒール側から入り、ローテーションしながら抜けていきます。つまり、ヒール側の形状が非常に重要になるのです。
そこで今回は、ヒール側の落としをあえて抑え、わずかに“残す”設計にしています。
見た目には少し出っ張っているように感じるかもしれません。
同時にトゥ側は軽量化し、重心距離が長くなりすぎないように調整しました。
フェース形状もヒール側を高めに設計しているのは、この重心距離による操作性を損なわないためであり、すべて同じ狙いに基づいています。
ゴルフクラブの扱いを難しくする要因の一つが「トゥダウン」です。
これを抑えるためにも、重心距離には徹底的にこだわりました。
続いてオフセットについてです。
今回、どうしても試したかったことがあります。
それは「長い番手ほどオフセットを減らす」という設計です。
一般的にはロングアイアンほどつかまりを良くするため、オフセットは大きくなります。
しかし今回は、その逆をあえて採用しました。
背景にあるのは、セベ・バレステロスやリー・トレビノといった往年の名手たちの発想です。
ロングアイアンの難しさは「球が上がりにくい」ことにあります。
オフセットを増やすとつかまりは良くなりますが、その分、球の上がりやすさは犠牲になります。ならば逆に、オフセットを減らせば球は上がりやすくなるのではないか――そう考えました。
UTやショートウッドのように、いわゆる“アゴが出た形状”は球を拾いやすいものです。
そのイメージをアイアンでも再現できないか、という試みです。
実際に5番アイアン相当(27度)で試したところ、結果は非常に良好でした。
つかまりは、ヘッド重量やシャフト、長さで調整できます。
それよりも「球が上がること」を優先した方が、結果としてやさしいクラブになる。
この考えから、
「朝一からロングアイアンが打てる」
という今回のコンセプトを実現しています。
さらに、ライ角にも工夫を加えました。
一般的には0.5インチごとに0.5度ずつ差をつけ、7本セットで約3度差になる設計が多いですが、フィッティングを通じて「そこまで差は必要ない」と感じていました。
そこで今回は、セット内の差を1.5度に抑えています。
この設定により、長い番手はアップライトに感じやすく、短い番手はフラットに感じやすくなる。結果として、実戦での扱いやすさが向上すると考えています。

スペックだけを見ると、やや特徴的な設計に感じられるかもしれません。
しかし、その一つひとつには明確な意図があります。
すべては「どうすれば実際のプレーで使いやすくなるか」という視点から積み上げてきたものです。
従来のセオリーを踏まえつつも、本当に必要な要素を見極め、検証を重ねながら形にしてきました。その結果が、今回のソール形状やオフセット、そして全体設計に反映されています。
このクラブが目指したのは、特別な技術を要求するものではありません。
プレーヤーが自然に構え、自然に振ったときに、安定した結果が得られることです。
ラウンドの中で、状況に応じて無理なく使える。
その積み重ねが、結果としてスコアにつながっていくと考えています。

ダグ・三瓶(だぐ・みかめ) ブリヂストンスポーツ、アクシネット ジャパン インクと日米2つの大手メーカーに所属。その中でクラブ開発、ツアー担当、マーケティング、フィッティングなどを担当。ツアーレップ時代にはあのボブ・ボーケイ氏に日本で唯一の弟子と認められていた。現在、フリーとなり迷い多きアマチュアゴルファーにアドバイスを送ってくれることとなった。









