「まだまだこれからだ」。今季8勝でも満足しない稲見萌寧の会見で思い出した尾崎将司の言葉

地獄を何度も見ても、生還し続ける44歳大山志保の凄さ

2021/09/13 ゴルフサプリ編集部



ゴルフはライフタイムスポーツ。12日に激戦を終えた日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯(茨城・静ヒルズCC)は、それを絵に書いたような展開だった。
単独首位で最終日を迎えた西郷真央は19歳。これを1打差で追った稲見萌寧は22歳で、44歳の大山志保がさらにこれを追う最終組。途中から稲見が抜け出していったが、序盤は手に汗握る戦いを繰り広げた3人の戦いは、まさに世代を忘れさせるものだった。
一方で、激しい優勝争いの緊張感の中でも、ボールに向かい合っていないときの3人は、笑顔で話をする姿も見られた。裏返しのように、アドレスに入った時の集中力はすさまじい。素晴らしい戦いぶりだった。

戦いを制した稲見は、これが通算9勝目。コロナ禍でロングシーズンとなったとはいえ、今季だけでも8勝目という強さを見せている。その合間には東京オリンピックに出場して銀メダルを獲得してもいる。その強さの秘密は一体どこにあるのだろうか。

今回の優勝会見にも強さの根源は垣間見える。「圧倒的に強い選手になりたいとの話でしたが現実になってきたか?」と言う質問に対して、開口一番「まだまだですね」と答えているのがそれだ。

もちろん、序盤戦で勝率5割を超えた今季の実績や最終的には4打差圧勝となった今大会を踏まえての質問だ。初の公式戦(国内メジャー)タイトルを取った直後でもある。それでも稲見は謙遜ではなく、心から「まだまだ」と言っているのが伝わってくる。

その言葉を裏付けるように、試合が終わって自宅に帰ると、翌日はいつものようにトレーニングをしてひたすら球を打つ。そんなルーティンを続けているはずだ。

「まだまだ」。アスリートに限ったことではないが、この気持ちほど人を成長させるものはない。どこまでも貪欲に上を目指す気持ち。「完璧主義者なので全部が完璧になるように頑張りたいです」と言うのがそれだろう。決して謙遜ではなく、心から「もっと、もっと」と言う気持ちと、それを支える練習とそのための体作り。プロアスリートなら誰しもが行っているそれを、稲見はより貪欲に求めている。

自分に満足しない稲見を見て、思い出したのが尾崎将司の言葉だ。還暦を過ぎ、優勝から遠ざかって久しかったジャンボが、稲見の3倍近い年齢だった頃、自らの最高の1打はどれか、と言う質問をぶつけた。すると返ってきたのは「まだまだこれからだ」と言う答えだった。思わず「それは辛くないのですか」と、続けて聞いたことをよく覚えている。「辛いのは当たり前だ」とジャンボは言い切った。

調子がいいと言ってもまだ通算9勝の稲見を、百戦錬磨のジャンボと比べるのは、極端な話かもしれない。だが「まだまだ」と言う気持ちを持ち続けようとして、やがてできなくなり、アスリートは競技を離れて行く。チームから引導を渡されるのではなく、本人が去就を決めるゴルフという競技の中で、げても満足しない貪欲さを持ち続けるのは決してたやすいことではない。少なくとも今、稲見はそれを強烈に持っている。それがあふれ出し、勝利と言う形になるのを見たい。そう思う者は少なくないはずだ。