コロナ自粛が生んだKing Kong. ブライソン・デシャンボー飛距離&パット1位のロケット勝利!
佐渡充高のテレビでは語れなかったPGAツアー
ゴルフ番組やゴルフ雑誌ではあまり語られることのないトピックを、ゴルフジャーナリストやトーナメント中継の解説者として活躍する佐渡充孝が取り上げ、独自の見解とともにお届けします。
GOLF TODAY本誌 No.579/123ページより
●文/佐渡充高
さど・みつたか
上智大学法学部卒業。1985年に渡米し、USPGAツアーを中心に世界のゴルフを取材。GWAA(米国ゴルフ記者協会)会員。96年より世界ゴルフ殿堂選考委員。NHKゴルフ解説者。
PGAツアーの3カ月間の中断はマッド・サイエンティストを怪物に変えた。ブライソン・デシャンボー(26歳)は再開4戦目でツアー6勝目を飾り「これまでやってきたことが正しかったと証明できた」と目を輝かせた。91日ぶりに登場した彼の肩、胸、腕、腹筋は盛り上がりキング・コング!? と目を疑った。
昨秋からトレーニングを強化し、思わぬ長期オフで仕上がりが一気に加速したのだ。自宅特設のジムで90分1セットのメニューを24時間に3回。専門家の指導で身体の回転、伸縮、屈曲の増強で体幹(特に腹斜筋)トレーニングを加えた。タンパク質と炭水化物を2対1の割合にした食事、2種類のプロテイン飲料とサプリ摂取等で筋肉を9キロ増量し体重109キロに。目的は悲願の飛距離アップだった。
勝利したロケットモゲージクラシックでは平均飛距離1位(350・6ヤード)で2位キャメロン・チャンプと9・6ヤード差。
350ヤード超ドライブは何と16回! 昨季の平均飛距離302・5ヤードから48ヤードの急伸と衝撃的な成果だった。
飛距離の変化で新戦略に挑戦。4ホールあるパー5はすべて2オン狙いに加え、397ヤードの1番、393ヤードの13番パー4では1オン狙い。通算1イーグル、27バーディの猛攻で「バンカーは全部越えた」とサラリと語った。
さらに飛距離はパットの内容をも劇的に変えていた。パット貢献率が平均より7、8打も上回り1位。グリーンを狙うショットで、パー5でもほとんどがショートアイアン、パー4ではウェッジがほとんどで、ピンに寄せることも、グリーンのやさしい面に乗せることもできた。
15年前タイガー・ウッズが唯一樹立した飛距離&パット両部門1位での優勝を成し遂げただけでなく、ウッズを上回る数字で記録更新したのだった。
キング・コングをチャンピオンへ導いた立役者はジュニア時代からの恩師マイク・シェイとキャディのティム・タッカーだろう。シェイは15歳デシャンボーのゴルフ観を根底から変えたレッスン書「ザ・ゴルフィングマシーン」を勧め、ベクターパッティングという芝読み理論で指導してきた。
タッカーも同理論を活用しアマで活躍した経験があり、グリーン上でも頼れるパートナー。何より2人は10年以上の親友で、時に感情的なデシャンボーを穏やかにする術も知る唯一無二の存在だ。メジャー初優勝への期待が高まり、キング・コング対ツアーの強敵たちとの激闘は今後の見所になりそうだ。