ブルックス・ケプカを襲った予期せぬ試練の連続
佐渡充高のテレビでは語れなかったPGAツアー
ゴルフ番組やゴルフ雑誌ではあまり語られることのないトピックを、ゴルフジャーナリストやトーナメント中継の解説者として活躍する佐渡充高が取り上げ、独自の見解とともにお届けします。
GOLF TODAY本誌 No.580/123ページより
●文/佐渡充高
さど・みつたか
上智大学法学部卒業。1985年に渡米し、USPGAツアーを中心に世界のゴルフを取材。NHKゴルフ解説者。
ケプカの試練。3月にコーチ、6月にキャディが新型コロナウィルスに感染!
2020年を世界ランク1位でスタートしたブルックス・ケプカが8月初旬世界選手権セントジュード招待、そしてメジャーの全米プロゴルフ選手権で久しぶりに優勝争いに加わった。ケプカは今季不調の原因について昨秋から治療を続ける「左ヒザではない」と断言。実は彼は新型コロナウィルスに翻弄されていたのだ。
ケプカのショートゲームのコーチ、イングランドのピート・コーウェンが感染し壮絶な闘病を経験していた。3月感染拡大で中止となったプレイヤーズ選手権から帰国し1週間後に高熱による震え、低血圧、息苦しさ、昼夜を問わず咳が続き救急搬送、陽性が確認された。69歳という年齢からか回復に時間がかかり容体が案じられた。
約2カ月の療養でようやく回復と聞きケプカは安堵、6月ツアー再開決定でメジャーに向けギアを上げていこう! としていた。
ところが6月末、今度はキャディのリッキー・エリオット(41歳)の感染が明らかに。北アイルランド出身でケプカのメジャー全4勝に貢献した戦友。代役は考えられず「全力サポートする」とケプカは直ちに試合を棄権、帰宅し自主隔離した。
幸いエリオットは軽症で7月中旬に復帰したが、大切な2人の闘病で練習にも集中しきれず7月末3Mオープンで予選落ちした。
が、この予選落ちが覚醒の契機になった。予定が空いた週末、ケプカはコーウェンと3カ月半ぶりに再会し本心を思いきり吐露した。コーウェンはしっかり受け止め、17年全米オープンでメジャー初優勝の前日と同じように魔法の言葉で勇気づけた。後日、コーウェンはテレビで一部を明かした。「多少の悪いプレーは全く問題なし。自分のプレーを見失っても大丈夫。大切なのは自分をダメだと思わないこと」。技術面はパットを指摘。改善にイングランド出身パットコーチ、フィル・ケニョンを勧め、ケプカはすぐに助言を仰いだ。
スイングコーチのクロード・ハーモンⅢを含む3人コーチ体制で復調へのラストピースが埋まり、相乗効果で翌日の大会初日61の自己ベストで単独首位、試合を牽引する存在にカムバックした。
コーウェンは欧州ツアー選手時代にサム・スニードと同組プレーなど貴重な経験を生かした的確な助言と穏やかな人柄でマキロイ、ステンソンら多くの欧州選手、松山英樹、ウッドランドらをメジャーや世界選手権王者へと導いてきた。名将コーウェンの生還はケプカのみならずプロゴルフ界の幸運だ。
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