スペイン人初の全米オープン制覇! バンカーから「攻めない一打」が劇的バーディにつながった
プロキャディー・ゴルフ解説者の“世界の杉ちゃん”こと、杉澤伸章氏が海外メジャー現地からレポート! 世界で最もハードなコースセッティングの『全米オープン』を解説。今回は、東京五輪・男子ゴルフ競技の出場が、直前の新型コロナウイルス感染によって絶たれたラームの優勝を決めた一打にフォーカス。
GOLF TODAY本誌 No.590/71ページより
2021年の全米オープンは意外と?フェアなセッティングだった
「全米オープン」と言えば世界で最もハードなコースセッティングで長いラフと硬いグリーンが名物ですが、今年のトーリーパインズを現地で見た印象としてはすごくフェアなセッティングだと感じました。ラフに関してはファーストカット、セカンドカット、サードカットと長さを変えていて、曲げた分だけ難しいライにしていました。それとグリーンもサンディエゴ周辺は朝に濃霧が出るのでそこまで短く刈って、速くはできない。だから、試合も実力者が上位に来る展開になったと思います。
部門別データに弱点がない
元々、弱点がない選手と言われていて、「全米オープン」でもパーオン率が4位タイ、平均飛距離が12位タイ、平均パット数が15位タイと全部門が上位。
ラーム家、3世代が集結!
会場にはコロナ渦で会えなかったラームの父親も観戦に訪れ、4月に生まれた長男のラーム家3世代が集結。ラームの優勝とともに最高の父の日となった。
その中で、優勝したラームは最終日に難しい17番、18番で連続バーディを奪ったことが勝因でしたが、特に素晴らしかったのは18番のバンカーショットです。17番でバーディを奪ってウーストヘーゼンと並んでトップタイになったラームは、18番の2打目をグリーン右のバンカーに入れてしまいます。全米オープン優勝がかかった勝負のバンカーショットですが、ラームはピン方向を狙わずに、あっさりとピンの右側を向いてセーフティに打ちました。ほとんど時間もかけていません。ピン方向を狙ってミスをすると奥の池に打ち込む危険性はあるのですが、1打差を争う優勝争いの場面ではピンを攻める選択もあったと思います。しかし、ラームは最初から「バンカーに入れたら、右に出す」と決めていたと思います。戦略としては17番と同じようにスライスラインを残したかったのもしれません。それが結果的にウィニングパットとなった6メートルのバーディパットにつながりました。上がり2ホールの良い流れを消さなかったのは、あのバンカーで時間をかけなかったことだったと思います。
PGAツアーでの愛称は「ランボー」
ジョン・ラームはシルベスタ・スタローンが主演した映画「ランボー」の主人公ジョン・ランボーと風貌が似ていることでランボーと言われている。
セベ、ガルシアも届かなったタイトル
スペインの英雄であるセベ・バレステロスや、セルヒオ・ガルシアも手が届かなかった「全米オープン」のタイトルをスペイン人で初めてつかんだ。
最終日はデシャンボー、ケプカが後半に崩れた中で、最後にスコアを伸ばしたラームがど派手なガッツポーズで優勝を飾った。
杉澤伸章(すぎさわ・のぶあき)
1975年7月5日生まれ。02年から丸山茂樹の専属キャディとして米国ツアーを転戦。13年には宮里優作のキャディを務め、「日本シリーズ」での初優勝にも貢献。現在はゴルフ中継番組のレポーターとしても活躍。