第5章 スイングウエイトの考察

シャフトの研究を進める中で、どうしても無視できない要素がありました。

それが、スイングウエイトです。

いわゆる「バランス」と呼ばれるこの数値は、D0やC9といった表記で示され、
長年、クラブ選びの基準として使われてきました。私自身も例外ではありません。

「D0」と聞けば安心し、セット内はすべて同じバランスで揃えるべきだと信じていました。

長さを変えれば鉛で調整し、バランス計の数値が変わらなければ、振り感も変わらないと疑いもしなかった。今振り返れば、完全な――

“バランス信者”だったのです。

しかし、その前提は、あるとき崩れ始めます。シャフトの軽量化が進み、同じD0でも明らかに振り感が異なるクラブが出てきたのです。軽量シャフトでD0を出そうとすれば、ヘッドは重くならざるを得ない。それで本当に「同じ振り感」と言えるのか。

違和感は、次第に確信へと変わっていきました。

その疑問を決定的にしたのが、アメリカでの試打テストでした。当時はちょうど、シャフトの軽量化が進み、80gから60gへと移行していく時代でした。私は、軽いシャフトの優位性を確かめるため、現地のゴルファーに試打をしてもらいました。

まず、80gのシャフトを渡す。そのあとで60gを試してもらい、どちらが良いかを聞く――そのつもりでした。しかし、最初の一打で予想は裏切られます。80gのクラブを打った彼は、こう言いました。

「これ、軽いね」

こちらは、最も重いクラブを渡したつもりでした。しかし彼にとっては、それでも「軽い」。

この一言が、私の中の前提を大きく揺るがしました。

体格や筋力によって、「重い・軽い」という感覚はまったく異なる。それならば――バランスという指標は、誰の基準なのか。

ここで私は、ひとつの仮説にたどり着きます。D0という基準は、欧米のプレーヤーにとっての最適値であり、日本人には重すぎるのではないか。もし感じ方に総重量で20g以上の差があるなら、バランスも相当軽くてもいいのではないか。そう考え、再び実験を始めました。

テーマはシンプルです。「どこまでバランスを軽くできるのか。」

まずは極端な方法から試しました。

カウンターバランスを徹底的に行い、グリップ下に鉛で100g以上のウエイトを配置する。同時にヘッドのウエイトをはずせるものははずし、クラブを短くする。完成したクラブは、ついにバランス計が反応しない領域に入りました。

つまり、A0以下。しかし総重量は約430g。

数値だけでは、想像がつかないクラブです。実際に振ってみると――

驚くべきことが起きました。

持つと重い。しかし、振るとめちゃくちゃ軽い。それなのに、コントロールしやすい。ドライバーでありながら、思った通りに振れて、距離も落ちない。

試しに、女性に打たせてみたところ、「軽い!」と表現していました。ここで私は、ひとつの確信を得ます。振り感は、スイングウエイトだけでは決まらない。

ただし、この方法には問題がありました。単体としては優れていても、クラブセットとしてのつながりが崩れてしまうのです。同じ手法のウェッジやパターでは違和感が強く、逆にミスが増えました。やはり、極端なセッティングは、やはり実戦では機能しない。

そこで次に、アプローチを変えました。

今度は、ヘッドそのものを軽くする実験です。

イアンヘッドを約30g削り、シャフトは100g以上の重量帯を維持する。結果、バランスはB0付近まで低下しました。この状態でラウンドしてみると、再び興味深い変化が現れます。

それまで硬いシャフトでの一つの課題だった「球の上がりにくさ」が、自然に解消されたのです。球は高く上がり、しかも飛距離も落ちない。

むしろ扱いやすくなっている。なぜ、このようなことが起きるのか。

考え続ける中で、ひとつの答えにたどり着きました。それは――

ヘッドが軽くなることで、プレーヤーの動きが自然になるということです。

ただし、ここでもやりすぎは禁物でした。30gの軽量化は極端すぎて、セット全体のバランスを崩してしまう。やはり重要なのは、単体の性能ではなく、全体としての整合性です。

試行錯誤を繰り返しながら、私はひとつの結論に至りました。

それは――

総重量は維持しながら、ヘッドを軽くすること。

スイングウエイトを合わせるのではなく、振り感そのものを設計する。数値に合わせるのではなく、動きに合わせる。この考え方は、第4章で見えてきた「クラブの流れ」という概念とも一致します。

クラブは一本で完結するものではない。セットとして、同じように振れることに意味がある。そして私は、こう確信するようになりました。

スイングウエイトは、振りやすさの“答え”ではない。それはあくまで、ひとつの目安に過ぎないのです。では、本当に設計すべきものは何か。それは――

人間が動きやすいように、クラブを設計すること。私はこの考えをもとに、クラブ設計をさらに一歩進めることにしました。それが、UPPARの設計思想の核心へとつながっていきます。

(第6章へ続く)

ダグ・三瓶(だぐ・みかめ) ブリヂストンスポーツ、アクシネット ジャパン インクと日米2つの大手メーカーに所属。その中でクラブ開発、ツアー担当、マーケティング、フィッティングなどを担当。ツアーレップ時代にはあのボブ・ボーケイ氏に日本で唯一の弟子と認められていた。現在、フリーとなり迷い多きアマチュアゴルファーにアドバイスを送ってくれることとなった。