2019日本女子オープン優勝 畑岡奈紗|圧勝の裏に二度のピンチと世界の小技(2/2)
岡山、大里が1打差に迫った15番で絶妙パット。
最後は2位に4打差をつけて、畑岡奈紗の圧勝に終わった「日本女子オープン」。9月の「日本女子プロ選手権」からの国内メジャー2連勝は、孤高の強さを見せつけたようにも思えるが、最終日には逆転される予感がしたピンチもあった。
「流れが悪い中で、15番の難しいラインを 完璧に決めて、勝負あり」
塩谷育代
1962年5月28日生まれ。83年にプロ入りし、2度の賞金女王に輝くなど、通算20勝をマークした名手。2011年にレギュラーツアーから離れ、12年からはレジェンズツアーに参戦したり、ジュニア育成にも力を入れている。
[No.15 Par4/416y]最難関ホールの難しいパットを決めて勝負あり!
4日間のトータル難易度1位だった15番パー4。4日間のパーセーブ率が唯一の60%台という超難関だった。畑岡は2打目がグリーンオーバーしてしまい、3打目のアプローチもカップ奥の難しい位置に。そこから難しいパーパットを決めたことで優勝に近づいた。
9番の大ピンチからバーディを奪った畑岡だったが、それでも独走モードにはならない。続く10番ホールでボギーを打つと、その後もリードを広げられない展開になった。逆に前半でスコアを落とした大里は11番、14番でバーディを奪い、畑岡に1打差で15番を迎えた。さらに最終組の1つ前を回っていた岡山絵里も15番を終えた時点でスコアを3つ伸ばし、大里と並んで1打差に迫る。また昨年の優勝者であり、元・世界ランク1位のユ・ソヨンも2打差をキープしていた。
その状況で迎えた15番はコース最難関のホールで4日間の平均パーオン率はわずか39%。フェアウェイが極端に狭くて左には池が迫っている。畑岡もパーオンに失敗して、3打目のアプローチではグリーン奥につけてしまった。ラウンド解説として畑岡についていた塩谷育代は、
「15番のピン奥は絶対に打ってはいけないエリア。パッティングの距離としては1・2メートルくらいでしたけれど、すごく難しいラインで、最終日もあのラインから何人もボギーを打っていました」
グリーン上でサングラスをとった畑岡はシビアな表情をしていた。試合後には
「最もプレッシャーを感じたのは14番と15番。15番でリーダーズボードを見たときも大接戦だと思いましたし、緊張感がありました」
ギャラリーにも緊張感が伝わる中、畑岡は絶妙なタッチで難しいパットを沈めると、何度もガッツポーズを繰り返した。塩谷はこのパッティングについて
「まだ20歳ですけど、米国ツアーの経験や優勝もあって、日本でもメジャーに勝って、大舞台で優勝争いをしてきたからこそ、15番の大事さをわかっていた。『ここをパーで切り抜けたら、ラクになる』というゲーム展開を大ベテランの選手のようにわかっている感じでしたね」
その後は緊張感から解放されたように16番パー3ではティショットをベタピンにつけてバーディ、さらに最終18番でも6メートルのバーディパットを決めた。この優勝によって20歳で日本女子オープン3勝、さらに最年少で国内メジャー4勝の記録を作った畑岡。黄金世代の中でも別格の強さについて解説の塩谷は、
「ゴルフコースにいるときだけではなくて、普段の生活からゴルフに対する取り組み方がプロフェショナルだと思いますね。この最終日を迎えるまでの準備段階が他の選手とは違うと思います」
長く現役ツアープロとして活躍し、通算41勝の永久シード保持者である森口は、
「ゴルフって、やっぱり孤独なんですよ。でも、孤独の中で戦える強さを身にまとっている感じがしました。練習ラウンドの火曜日から雰囲気が違いました。集中力というか『今年は絶対に勝つ!』という想いがビシビシ伝わってきましたね。技術的にはアプローチとパッティングですね。そこは米国ツアーの難しいグリーン周りで戦っているので、難しい局面でも攻めることができるショートゲームの技術がありました」
最終日の前日。3日目を終えた夕方に畑岡はアプローチの不思議な練習をしていた。50ヤード地点や80ヤード地点に立ったキャディに向かって畑岡はアプローチをすると、キャディが帽子で次々にキャッチしていたのだ。目の肥えたギャラリーからも1球ごとに喝采が起きていたが、そんな練習をする選手を日本では見たことがない。
三重県の「COCOPAリゾートクラブ白山ヴィレッジゴルフコースQUEENコース」で開催された大会では4日間の入場者数が約4万6000人。最終日だけで1万6000人を超える大ギャラリーがつめかけた。写真は渋野日向子が18番に来たときのワンシーン。
優勝争いの4人をデータで分析
畑岡はFWキープ率もパーオン率も80%超え!
渋野もパーオン率は80%を超えていたが……。
ハイスコアの争いとなった「日本女子オープン」だが、4日間連続での60台をマークしたのは畑岡奈紗、ただ一人だけ。畑岡はフェアウェイキープ率、パーオン率ともに4日間トータルで80%を超える抜群の安定感を見せていた。実は7位の渋野も大会中には「ショットの調子はすごく良い」と語っていた通り、畑岡同様にフェアウェイキープ率、パーオン率ともに80%を超えていた。しかし、最終日に惜しいパットを外す場面も多く、スコアを伸ばしきれなかった。
<2019日本女子オープン/優勝:畑岡奈紗>圧勝の裏に二度のピンチと世界の小技|プロが分析するプロの心技体(2/2)終
GOLF TODAY本誌 No.570 84〜85ページより
【プロが分析するプロの心技体】シリーズ一覧
●2019日本女子オープン優勝 畑岡奈紗|圧勝の裏に二度のピンチと世界の小技(1/2)
●2019日本女子オープン優勝 畑岡奈紗|圧勝の裏に二度のピンチと世界の小技(2/2)
●現役ツアープロも学べる優勝争いの深層《ZOZOチャンピオンシップ》タイガーと松山の日本ゴルフ史に残る名勝負
●賞金女王争いの最後にチャンスホールの罠|渋野日向子×鈴木愛