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スポーツ選手の「引退宣言」は寂しいことなのか?

重箱の隅、つつかせていただきます|第18回

2022/02/09 ゴルフサプリ編集部

スイング、ゴルフギア、ルールなどなど……。ゴルフに関わるすべての事柄の“重箱の隅”をゴルフライター・戸川景が、独自の目線でつつかせていただくコラムです。

GOLF TODAY本誌 No.596/70ページより

戸川景
とがわ・ひかる。1965年3月12日生まれ。ゴルフ用具メーカー、ゴルフ誌編集部を経て㈱オオタタキ設立。現在、ライターとしてゴルフのテーマ全般を手掛けている。

「引退宣言」は寂しいことなのか?

ゴルフに限らず、スポーツ選手の引退のニュースに触れるたびに思うことは、まず「楽しませてくれて、ありがとう」だ。

スポーツ選手の場合、「引退宣言」を公に発信できるニーズがあること自体、1つのステータスだと私は感じている。

その能力、実績、人気が広く認められていなければ、ひっそりと「引退」はできても「引退宣言」はできない。競技者として、選ばれた者だけが歩める「花道」、人生のひと区切りだと思う。

ただ、ファンとしては「まだやれるはず」という思いから、寂しさを感じることもあるだろう。

だが、優れた競技者ほど「勝ち方」を知っているだけに「勝てなくなる、もうやれない自分」にシビアに気づきやすい。だから、世間が驚くほどに早い「引退宣言」をする選手が出てくるのだ。

野球や相撲、サッカーなどは頂点に近い者ほど、体力の低下など明らかなパフォーマンスの下降が見えてくるから、引退の予測もつきやすいと思う。だが、ゴルフはどうか。

ケガや故障、事故や病気でもなく、成績もそこそこなのに「引退宣言」が出る例が、結構ある。

健康で、60台を出せる30代のプロがツアー撤退というのは、さすがに早すぎるように感じるかもしれないが、結局「心」が持たなくなっているのだ。

プロではないが、球聖ボビー・ジョーンズは年間グランドスラムを達成した年に、競技ゴルフのからの引退宣言をした。キャリアのピーク、それも28歳で。

理由は体力の限界でも、技術的なものでもなかった。「緊張下のプレー」に耐えられなくなったからだという。

後の著書に「試合で優勝を争う者のショット技量には大差はない。ただ、緊張下でプレーする能力を持っているかどうかが重要なのだ」と述べている。

ショット間のインターバルが長く、スポーツの中でも考える時間が非常に多いゴルフならではの「心」の強さを要求される。

これをジュニア時代から、20年近くも続けてきたら耐えられなくなっても不思議ではない。

賞金王、メジャー優勝などいくつかの目標を達成して「満足感」を得られたら、より「負けること」に耐えられなくなるだろう。

私がこの仕事を始めて一番驚いた「引退宣言」は、ロレーナ・オチョアだ。メジャー2勝を含む米ツアー27勝、賞金女王3回の28歳が、突然「モチベーションがなくなった」という理由で。

アニカ・ソレンスタムから世界ランク1位の座を奪い、「まだやれる」どころか「さあ、これから」というタイミングだった。

だが、10代、20代を競技漬けできた結果の決断だと思う。もちろん、ゴルフが嫌いになったわけではなく、現在もプロゴルファーとして活動をしている。

よく「燃えつき症候群」などと呼ばれるケースがあるが、スポーツ競技で20年以上もモチベーションを維持できるほうが、逆に特殊なのかもしれない。

日本のゴルフファンは、A(青木功)O(尾崎将司)N(中嶋常幸)の活躍を見てきたから、プロは40代、50代でも活躍できるものと思っているかもしれないが、こんな事例は世界を見渡してもほんのひと握り。

フィル・ミケルソンの50歳メジャー優勝、ベルンハルト・ランガーの60代シニア賞金王なども、あまりにも特殊な例と言える。モチベーションを枯渇させない図抜けた身体能力とセンスを感じる。

昨年、キム・ハヌルの引退セレモニーがあった。ジュニアから始めてプロツアーに挑む選手はこれからの主流になるはず。他のスポーツ同様、ツアー参戦10年前後、30代前半で「引退宣言」する選手は増えていくように思う。


Text by Hikaru Togawa
Illustration by リサオ


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