ゴルフウェアのシャツの裾、入れる?入れない? 戸惑うゴルファーと噂の真相!
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第31回
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
写真提供/篠原嗣典
熱中症の予防としてシャツアウトすると涼しいって本当?
2022年夏。記録的な猛暑の中でも、熱心なゴルファーはゴルフコースで夏ゴルフを楽しんでいます。
そんな中で、プレー代が安いカジュアルなコースを中心に、ちょっと面白い現象が起きています。
若くて、スタイリッシュなゴルファーたちが、「シャツアウト(シャツの裾出し)は、ダサいおじさんに見えるからやめよう」と主張し出したのです。
男性用のゴルフウェアの多くは、シャツの裾をパンツに入れる、「シャツイン」する前提でデザインされています。
シャツイン(裾入れ)と、シャツアウト(裾出し)を比較すると、前者のほうが、スタイルが良く見えて、カッコイイに決まっていると、インフルエンサーたちが言い始めたのは、調べてみると昨年ぐらいからのようです。つまり、『シャツインのほうがカッコイイ』というわけです。
シャツアウト(裾出し)は、中年以上のおっさんゴルファーの象徴で、足は短く見えるし、お腹が出ていることを隠すどころか強調してしまっているし、不格好でだらしがない、と散々な言われようです。僕の周囲でも、ドレスコードで厳しく注意されないコースでは、シャツアウト(裾出し)でゴルフをしている人たちがいます。彼らは、オジさんゴルファーですが、カッコイイ、と信じているのです。
ゴルフというのは、ときに、徹底的に残酷です。
30年前の夏ゴルフファッション〜時代は繰り返される? 今でもアリじゃないですか!?〜
ゴルフトゥデイ創刊号をゴルフサプリでご紹介する企画。まずは30年前のゴルフファッションがどのようなものだったのか、創刊...
しかし、2022年8月に入って、唐突にあちらこちらで、シャツインか、シャツアウトか、という論争が巻き起こりました。中高のスポーツの部活の指導者が、シャツインは熱中症になるリスクが高いから、真夏だけは、全てのスポーツで、シャツアウトで良いよ、ということにしようじゃないか、と言い始めたことがきっかけだったようです。
シャツアウトとシャツインでは、体感温度が4℃も違うという証拠だというサーモグラフィーの画像も出回って、議論に拍車がかかりました。
僕も、ドキッとしました。4℃も違うのであれば、大変なことだからです。早速、スポーツメーカーのウェア開発スタッフに聞いてみました。「4℃も違うのは、別の条件が影響しているのだと思います。同じウェアで、ゴルフコースであれば、無風なら0.2℃程度、風があっても2℃まで違わないと思います。もちろん、シャツアウトで、体感温度を下げる目的で開発したウェアとかなら、違う結果が出来る可能性はあります」
ゴルフの場合、スイング中に身体がねじれたときに、シャツアウトだとウェアの裾からシャツ内の暖められた空気が押し出される効果があるとも聞きました。その反面、腰回りにゆとりがあるウェアは、スイング中に邪魔になるという問題があるそうです。
シャツアウトでゴルファーの熱中症を防げ、と主張するのは…まだ、データ不足のようです。
どうして、シャツインが正しいということになったの?
洋服の歴史は、学問として成立するほど、しっかりと体系づけられています。シャツインが正しいとされる根拠も、歴史を調べてみれば一目瞭然です。
一つには、洋服の最上級の決まりでは、男性は、肌着の対極にあるべきだということになっています。タキシードは、中のシャツまで縫い目を見せないようにするのは、その考え方があるからです。蛇足ですが、女性は逆で、最上級ほど露出を奨励していきます。これは、トップレベルの社交界では、女性がどんな服装でも紳士は動じないというやせ我慢の美学があるからです。
もう一つは、シャツアウトそのものの歴史が原因です。アメリカの昔の刑務所は、大は小を兼ねるということで、サイズを簡素化するために囚人服は大きなサイズばかりで、かつ、脱走などを防ぐ意味で、動きづらいようにシャツアウトを奨励していたそうです。刑務所の外の世界でも、刑務所内の習慣だったからシャツアウトして、『おれは刑務所にいたんだ』と威嚇が出来たことから、不良の世界でシャツアウトが流行って、定着していったそうです。
ゴルフコースのドレスコードは、ファンタジックに書くと、夢の国で楽しむ時間は、外の世界の問題を思いだしたくない、という考え方で出来ています。労働を想起させるもの、チンピラの威嚇的なもの、苦しい現実を思いだしてしまうもの。アウトになるものは、そういう部類のものです。
シャツアウトがダメなのは、威嚇的なものは、相応しくない、ということなのだと思われます。
ちなみに、洋服の歴史という背景から、欧米のプライベートコースでは、女性には男性と同じドレスコードを強制することはありません。女性に男性と同じようなドレスコードを強いるのは、着物の国の悲しさなのか、それは日本と、その影響を受けたアジア諸国だけの奇妙な習慣です。
欧米の女子ツアーでTシャツでプレーしている選手に、目くじらを立てるのは、「私は不勉強で無知です!」と叫んでいるようなもので、ゴルフの残酷さだと怖くなるシーンなのです。
シャツアウトでゴルフをする実験をする注意点
僕は、7月、8月は早朝ゴルフ以外はしないので、猛暑の中での実験にはなりませんが、百聞は一見にしかず、といういことで、シャツアウトでゴルフをしてみようと思っています。本当に涼しかったら、極暑ゴルフはシャツアウトで、と啓蒙しても良いと考えています。
方法は簡単です。行き帰りとクラブハウスでは、エアコンもあるので、普段のシャツインです。そもそも、ゴルフシーンで、シャツアウトしている自分を人に見られるのは、相当に恥ずかしいので、嫌だということもあります。
1番ホールからスタートして、2打目からシャツアウトしてみます。そして、プレーしつつ、涼しさはどうなのか?スイングの邪魔になるのか?などをチェックします。ケースバイケースでは、1ホールで我慢できずに、シャツインに戻すかもしれません。
スループレーですが、ハーフターンでは、クラブハウスの近くまで戻りますので、9番のグリーンに近づいたら、さり気なくシャツインします。10番のスタートは、1番と同じです。そして、最長の場合は、18番でシャツインしてホールアウトします。
4℃違えば、明らかに違いはわかるはずです。2℃でもわかるような気がします。打ちづらかったら、本末転倒になってしまうので、実験を中止して、すぐに元に戻します。
猛暑ゴルフではシャツアウトしようと、啓蒙するとしても、実験のような方法を提案します。
服装は自らの主張ではなく、その場の雰囲気を壊さないことが優先されます。これは、王様のような貴族でも、中世から同様でした。クラブハウスは、社交場であり、やせ我慢の美学を確認し合う場であることを忘れてはなりません。
シャツインは、男性の洋服の基本だというセオリーは、僕が死ぬまで変わらないと想像しています。例外的処置を使うのは、異常な事態だからです。たぶんですが、僕の実験結果は、効果を認められないという結論になるような気がしています。
2022年夏。どんな結論になろうとも、頭を使ってプレーするからこそ、ゴルフは最高に面白いのだと、再確認するような経験が出来ることに感謝です。実験は、どんなものでも、常にワクワクします。
そして、ダサい、と後ろ指を指されているのに、カッコイイと思い込んでいる同輩や先輩に、心から同情したいと思います。最後にもう一度書きますが、ゴルフは残酷なのです。
篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
2024秋ユニクロゴルフウェアおすすめ20選|メンズ・レディース
この記事では、ユニクロで揃う秋ゴルフウェアおすすめ20選を紹介します。アマチュアゴルファーから世界のトッププロまで幅広...
女性ゴルファー必見!! 恥をかかないためのゴルフマナー『クラブハウス内での服装編』
最近、20代の若い世代にゴルフを始める人が増えている! ということで、GTバーディーズのYouTube動画の中でも視聴回数の多い...