「Sweet」と書いて「快い」と読む。スイートスポットを極めるのがゴルフなのだ
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第32回
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
写真提供/篠原嗣典
スイートスポットって何?
ゴルフを終えた帰り道。いつものルーティンとして、高速道路に乗る前にコンビニに寄って、アイスを買います。
眠気覚ましとして、スッキリするためでもあり、完全に個人的な趣味でもあります。
仲間内では、僕はアイス博士として認知されていて、ゴルフのことは一切聞いてこないのに、「このアイスはどう?」とか、アイスのことは質問してくるヤツもいるのです。
毎日、アイスを食べてるような専門家の足元には及びませんが、週一でアイスを食べているので(それも、1回で2個の日も多々ある)、アイスにはそれなりに詳しくなるというわけです。
近年の僕にとって、アイスを食べることも完全にゴルフの一部になっています。
朝から、帰り道のアイスのことを考えてはニヤニヤしていることもあるくらいです。
「アイスばかり食べているから、スイートスポットにめちゃくちゃ当たるんだよ」
ライバルのゴルフ仲間が、その日の勝負に負けて、そんな冗談を言いました。
【sweet spot】のsweetは、いわゆる“甘いデザート”とか、“甘いもの”とか、“甘い”とかの意味もあり、それが一般的な意味合いかもしれません。
ライバルの彼は甘いものが苦手で、帰り道でも、ほぼ100%、アイスを口にはしません。
「負け惜しみが、心地良いねぇ。ちなみに、ゴルフのスイートスポットのスイートは、同じスペルだけれど、“甘い”ではなく、“快い”という意味なんだよね」
と、からかいました。
ゴルフにおけるスイートスポットは、ボールが当たると、手応えが快い打点のことです。
ドライバーからパターまで、全てのクラブには、それぞれにスイートスポットがあり、そこにボールを当てるために、練習をしたり、研究をしたりしているわけです。
クラブが、性能をマックスまで発揮するするためには、スイートスポットにボールを当てる必要があります。
しかし、残念ながら、多くのゴルファーは、スイートスポットに当てる優先順位が低いために、ゴルフの暗黒面で彷徨っているのです。
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スイートスポットは1円玉?500円玉?
物理的に定義すると、スイートスポットは一点で、形も面積もないということになるそうです。
ゴルフクラブの世界では、スイートスポットの大きさと形の定義は、1円玉の大きさの円形というのが、最小単位だと考えることがセオリーです。
『1円玉って、小さい!』とビビることはありません。
クラブや使用するボールによって違うがありますが、インパクトでボールは少し変形します。跡が付くシールなどをフェースに貼って打ってみるとわかりますが、接点は円形になります。その大きさは、最大で1円玉くらいです。
スイートスポットの1円玉と、打点の1円玉。1円玉同士が、ぴったりと合えば、スイートスポットで打ったということになるかというと、少し違うのです。
半径ぐらいのズレなら、ほぼスイートスポットに当たった感触と、効果を得ることが出来ます。
スイートスポットは、フェースから伸ばした垂線がヘッドの重心位置と合った点が中心になります。フェースの中央ではなく、思ったよりも、低めの位置だったり、ネック寄りだったります。
フェースから重心までの距離が長いほうが、スイートスポットに当たったときの快さは薄れますが、許容範囲は大きくなって500円玉ぐらいまで広がっていると感じるヘッドもあります。
重心の位置というのは、クラブを振り慣れてくると、自然とわかるようになってきます。言語化されませんが、ここに当たると上手くいくということを身体が覚えるからです。
やさしいクラブと、むずかしいクラブだと、スイートスポットは何倍も大きさが違うというイメージがある人も多いと思いますが、実はそんなには変わらないのです。
特に、地面にあるボールを打つ、ティーアップしないクラブの場合、ボールの重心の高さは決まっています。自然とスイートスポットの位置もそれに合わせなければならないので、大きくは変えられないからです。
とはいえ、打点に関しては、数ミリの差が、ボールの行方を10ヤード以上変えてしまうこともあるのが、ゴルフの面白さでもあります。
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ゴルフは甘くて美味しいからやめられない
「飛距離が出なくて……」
という悩みを持っているゴルファーの多くは、基礎体力に原因があるか、単純に芯に当たっていないか、という二つに分かれるといいます。
用具の分野から見れば、スイートスポットに当たったときに最大飛距離になるように設計され、製造されているのです。
スイートスポットの許容範囲を外れれば、10ヤード以上飛距離は落ちます。これは、ツアープロでも初心者でも同じです。
飛ばすために誰でも出来て、かつ確実な方法は、クラブのスイートスポットでボールをとらえることなのです。
書くのは簡単ですが、実際にどうやれば良いのかはわからない、という声が聞こえてきます。
最初に書きましたが、練習する際、スイートスポットに当てることを最優先にすることが第一で、あとはそれを意識して練習したり、研究したりすることを繰り返せば、自然と再現性が高くなり、スイートスポットに当たる確率も上がっていきます。
僕は昔、中学と高校のゴルフ部のコーチをしていましたが、そのときにも、全てのスイング理論は、スイートスポットにボールを当てるためにあるのだ、と部員に言い聞かせていました。
僕は、スイートスポットを、基本的には芯と表記することが多く、それを好んでいます。
【くさかんむり】に【心】で芯です。ゴルフのために作られた漢字だと、錯覚してしまいそうなぐらいにマッチしていると思うのです。
ゴルフは、芯を意識して鍛えれば簡単です。
アイスを食べるのもゴルフの内だというルーティンが、甘さ繋がりで、芯に当てる助けになるのであれば、アイスを食べましょうと、強く推奨するのですが……
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ゴルフはミスのゲームです。ミスをしないゴルフは、ゴルフとは言えません。
上級者は、芯に当てるのが上手いだけではなく、ミスしても芯にかかったミスで留まるように無理をしないのです。
レベルが違うとわかりづらいですが、トッププロでも、1円玉がぴったりと合うような真芯に当たるショットの割合は調子が良くとも半分を超えないそうです。でも、見た目では、全てがナイスショットに見えるのです。
真芯を外しても、芯ではとらえているからです。
真芯に当てる完璧を求めることで、ミスっても芯には当たるのだと考えれば、なんとなくわかりやすくなってきた気がします。
アイスを食べながら、アイスを食べないライバルとゴルフ談義をしながら車を走らす帰り道。
勝っても負けても、それは少しだけ甘い素敵な時間で、ゴルフの楽しさの一部なのです。
篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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