ウッズと、彼のチーム＆ルームメイトだったケーシー・マーティン　2人がカートに乗ってプレーする姿を見たい

2022年米国ゴルフダイジェスト誌6月号に掲載された義足を見せたケーシー。

タイガー・ウッズは今春マスターズ棄権後に、NYで右足首の固定手術を受け成功。

2年前の自動車事故による右脚の複雑骨折手術後、昨年の全米プロでは「ネジが皮膚を突き破ってもプレーを続けた」とJ・デイが案じるなど無理をし過ぎと思えてしまう。

それでもウッズは「大変だが僕は幸運。自分の足がついているのだから」と力強いメッセージを発信。その背景に共闘の心友で右脚障がいと戦うケーシー・マーティンの存在を強く感じた。

彼はスタンフォード大学でウッズの3年先輩、1年間チーム＆ルームメイトだった。

右脚に難病クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群という血液循環不全の障がいがあり痛みや腫れに対処しながらゴルフを続けていた。

が、自宅での転倒で症状が悪化し21年10月に膝下を切断。手術室へ向かう最後にスマホに届いたのはウッズからの熱いメッセージ、その言葉を心に留め手術に臨んだという。

「カートで楽だね」など心ないヤジでプレーを乱されることもあったが、ギャラリーの中には「マーティンにカートを」と描いた揃いのTシャツなどで彼を応援していたチームも（98年ゴルフマンスリー)。

マーティンは大学ゴルフ部主将を務め95年に経済学士号を取得し卒業。同年アカデミック・オール・アメリカン（文武両道の優秀選手）に選出。

卒業と同時にウッズに近づきたいという夢に向けプロ転向。その頃インタビューした僕の印象は、礼儀正しく言葉の節々に知性や教養を感じる好青年だった。

何より驚いたのは左脚軸だけで、300ヤード飛ばしたことだ。豪打を生かし98年に下部ツアー優勝、全米オープン23位など活躍。

苦難を乗り越え活躍した選手に与えられるベン・ホーガン賞を受賞した。

翌年からPGAツアーの出場権を獲得したものの、激痛や歩行困難で申請したカート使用が却下され訴訟に。ツアー側はパーマーやニクラスらレジェンドも出廷しカート不可の意見を述べ、次第に政治家も巻き込む大論争に。

看板選手のウッズも不可の立場をとったが「右腕のない元大リーグ投手ジム・アボットのようになってほしい。そのため彼にはカートが必要」と揺れ動いていた。選手は賛否両論も裁判所がツアーの規則を決めることに困惑。

4年後マーティンが勝訴した時はすでに遅し、彼は出場権を失っていた。

頭脳明晰でハンサムと話題になり、2000年米ピープル誌7月号では「注目の独身男性」に。

1位G・クルーニー、2位D・ジーター、3位M・デイモン、マーティンは堂々の9位。マドンナから高校時代の友人を通じ「会いたい」と連絡があったことも話題に。

カート使用に関しては政治家を巻き込む騒動となった。マーティン裁判は世界が注視。

米国では共和党元大統領候補ボブ・ドール（写真中央）は戦争で右腕に、当時アイオワ州知事トム・ハーキンは兄弟に障がいがあり支援を表明。

マーティンをワシントンDCに招き記者会見を行った（2001年ゴルフワールド1月号）。

1972年6月2日オレゴン州ユージン生まれ。
右足の障がいで左足を軸とした独自のスイングを確立し300yの豪打でプレー。スタンフォード大学卒。チームメイトはウッズやPGA2勝ノタ・ビゲイ。

95年プロ転向、下部ツアー99年レイクランドクラシック優勝、2000年PGAツアーのシード権獲得も翌年は維持できず04年まで下部でプレー。

06年地元オレゴン大学のコーチに就任。革新のチーム作りは高く評価されている。

ツアー1勝のアーロン・ワイズ、全米オープン優勝のウィンダム・クラークもケーシー・チルドレン。
趣味は8歳ではじめたピアノでジャズを弾くこと。

●文／佐渡充高
さど・みつたか
上智大学法学部卒業。1985年に渡米し、USPGAツアーを中心に世界のゴルフを取材。2022年まで32年間NHKゴルフ解説者。今年からBS放送局『BSJapanext』にて「大正製薬 Presents PGA TOUR TV Program PGAツアー」の解説者に。