ジャック・ニクラスも高騰する賞金額に呆れ顔…桁違いの高額賞金はプロにとって勝利へのモチベーションになるのか
重箱の隅、つつかせていただきます|第36回
スイング、ゴルフギア、ルールなどなど…。ゴルフに関わるすべての事柄の“重箱の隅”をゴルフライター・戸川景が、独自の目線でつつかせていただくコラムです。
Text by Hikaru Togawa
Illustration by リサオ
GOLF TODAY本誌 No.614/106ページより
「生涯獲得賞金」は陳腐化するだけなのか?
6月のザ・モリアルトーナメンで優勝したビトクトル・ホブランが獲得した賞金は、360万ドル。日本円換算だと5億400万円強だ。
ホブランに優勝カップを渡したレジェンド、ジャック・ニクラスは「払い過ぎだよ、私の最高額は1986年のマスターズで手にした14万4000ドル。最後に勝ったシニアの試合でも15万ドルだった」と呆れたように笑いながらコメントしていた。
プロスポーツで賞金額が高騰するのは夢のある話で、その競技の集まる優秀なプレーヤーのモチベーションになるはず。
とは言うものの、たった4日間の競技で年末ジャンボ宝くじに当選するような賞金を得られるのは、いかがなものかとも思う。
私が最初に違和感を覚えたのは、2007年にフェデックスカップがスタートした時だった。優勝賞金1千万ドルは、かなりインパクトがあった。その年の勝者は、レギュラーシーズンの賞金王でもあったタイガー・ウッズ。年間で2千万ドル以上、稼いでしまった。
で、今回のテーマである「生涯得賞金」記録をどう捉えたらいいのか、モヤモヤしたのだ。
賞金総額はどこまで上昇するのか
スポーツファンの興味として、現在と過去の名手を記録など通じて比較し、楽しむ層は絶対数いるはず。私も、トリビア的な記録を調べるのが結構楽しい。
名手の実績を判断する場合、優勝数、獲得したタイトルの規模、活躍期間等、数字で見える部分とプレースタイル、逸話など記述から読み取れるものを総合して捉えたいところ。
さらにプロ選手の場合はその稼ぎ、つまり「生涯獲得賞金」も1つの目安になる、はずだったのだ。
物価や平均賃金の推移に合わせて数値を考慮すれば、そこそこの目安として使えたのが、フェデックスカップで終わった感がある。たった1年で、それまでの名手の数十年分を稼げるようになったのだから。
気を取り直して、フェデックスカップを除いた数字を検討しようとしたら、10年ほど前から米ツアーは賞金総額がどんどん上昇。さらに追い打ちをかけたのがLIVツアーの登場だった。米ツアーに対抗すべく、今年は17試合を「昇格大会」と設定し、賞金総額2千万ドル以上に。ザ・メモリアルトーナメントもその1つだ。
6月6日に、欧米ツアーとLIVツアーの統合が報道されたが、高騰した賞金額の行く末は、未だ予想がつかない。ちなみに現在の「生涯獲得賞金」トップはタイガー・ウッズの1億2千万ドル超。2番手はフィル・ミケルソンで9千700万ドルを超えている。
とても追いつきそうにない額のようだが、現在の松山英樹は4千万ドル超。バカげた話だが、昇格大会やメジャーの賞金額がさらに伸びていけば、あと5~6年で届いてしまうかもしれない。
プロにとってのモチベーション
プロ選手にとっても、桁違いの高額賞金は勝利へのモチベーションになるのだろうか。現在、プロ転向する若手は裕福な家庭の出身が多い。彼らは、たとえば3位でも136万ドル=1.9億円ももらえる試合で、無理に優勝を目指してチャージできるだろうか。金銭的な満足と、優勝への意欲をどう共存させるのか。
前出のレジェンド〝帝王〟ニクラスの育った環境もかなり裕福だったが、賞金獲得は二の次。メジャータイトル獲得のために出場試合を絞るスタイルを確立し、実行していた。ただ、欲しいタイトルに集中し、邁進していた。
高額賞金が用意されているトーナメントが増えた今、逆にアマチュアのような、純粋な勝利へのモチベーションが問われるようになるのかもしれない。
戸川景(とがわ・ひかる)
1965年3月12日生まれ。ゴルフ用具メーカー、ゴルフ誌編集部を経て(株)オオタタキ設立。現在、ライターとしてゴルフのテーマ全般を手掛けている。
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