池越えでグリーンを狙いナイスオン…いい所を見せられたと思ったのに、父・中部銀次郎に「バカか」と叱られた話
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」vol.15
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉一つひとつを、皆さんにお届けしていく。
GOLF TODAY本誌 No.615/68〜69ページより
本誌イラスト/北村公司
100%できることだけでプレーする勇気
中部銀次郎さんの息子さん、中部隆さんは弱冠40歳で尾道造船の社長に就任、以来14年目となる本年まで立派に業務をこなしている。しかもアマチュアゴルファーとして日本と名のつくタイトルに挑み続けている。
隆さんが本格的にゴルフを始めたのは大学に入った時からであるが、それでも日本屈指のゴルファーであった父を前に、当初は日本タイトルを獲ろうなどとは微塵も考えてはいなかった。父が人生を賭けたゴルフを自分も試してみたい。そうしたことから父という一人の人間を理解したい。そういった思いでゴルフに取り組みだしたのだ。
「そこそこ上達したある日、父と一緒にゴルフをしました。若い私は父よりも遙かに飛距離が出ました。パー5のホールで父にいい所を見せたいと思い、セカンドショットで池越えのグリーンを狙いました。ナイスショットが打て、グリーンをとらえました。やったと内心喜び、褒めてもらえると父の顔を見ると、『バカか、お前は』と叱られたのです。
100切りを目指すレベルのゴルファーに「ラッキー!バーディ狙うぞ」みたいなチャンスホールはなかった!?
ナイスショットのあと、多くのアマチュアは「もしかして、ここはチャンスホールかも?」などと思うもの。捉え方はその人の自...
そして、『もう一度やってみろ』とボールを渡され、再び打ちました。今度は池ポチャでした。『だからバカだと言ったのだ』と父。そのときはそれでも『息子にバカはないだろう』と思って、憤りました。でも、あとに競技に出るようになって、父の言った『バカ』の意味がわかりました」
このコラムの読者ならもうおわかりだろう。慧眼鋭い中部さんは隆さんの池越えのショットがたまたま上手く打てたものだとわかったわけであり、再度成功することはないと確信していたのだ。偶然上手く行ったナイスショットを喜ぶなど愚の骨頂、だから愚か者、「バカだ」と言ったのである。自分の実力を思い知れということである。
のちのち、銀次郎さんにこの話を持ち出したときである。陽に焼けた顔を筆者に向けて微笑んだ。
練習場ではナイスショット連発!でも、コースに出るとうまくいかないのはなぜ?
練習場では上手く打てるのに、コースに出るとミスばかりというゴルファーに必見!練習場での練習方法を変えた途端、ガラリと...
自分の実力を把握してプレーすることが大事
「ゴルフで最も大事なことは自分を知ることです。それも自分の実力をしっかりと把握しているかということです。そしてその実力とはショットで言えば、何度やってもナイスショットになるということです。
たまたまできたことなど実力でも何でもない。ゴルフでは絶対にできるという自信のあるショットでプレーしなければいけない。それでもミスを犯すのがゴルフなのですから」
中部さんは猛練習を重ね、ミスなく打てるショットを身につけた。しかし、それは練習でのことである。本番のショットはただの1回しか打てない。試合では緊張する場面も多い。絶対に上手く打てると思えるショットでさえ、ミスすることは多々あるのだ。
中部さんはよく言っていた。「完璧なショットなど、1ラウンドプレーして1回あるかないかです。あとは程度の差こそあれ、ミスショットなのです。それをちょっとゴルフを囓ったくらいの人間が毎回上手く打てるはずなどないのです。思い上がりも甚だしい。もっともっと謙虚にプレーしていかなくてはいけないのです」
ゴルフの試合がマッチプレーなら、ギャンブルしていいこともある。このホールは完全にやられたなと思えるときに、大逆転となるショットを打ってもいい。仮にそのショットが失敗したとしても失うものはたった1ホールだけだからである。もしも成功すればそのホールを奪えるかもしれない。だったら、ギャンブラーになってもいいというわけだ。
しかし、試合がストロークプレーならば大詰めの勝負所以外はギャンブルなどあり得ない。たった1回のミスショットが大叩きとなり、取り返しのつかないことにもなりかねないからだ。先程の隆さんの例でも、実力通りに池に入れてしまえばトリプルボギーだってあるし、頭に血が上り、再び池越えを狙って池に入れたりすれば、10打以上の大叩きでワーストスコアになるかもしれない。
だからこそ、慎重を喫してプレーすることが最も大事だと中部さんは息子に言いたかったのである。
「ゲームを壊してはいけない。ゲームを壊してしまう可能性のあるショットは打ってはいけない。ゲームは確実なショットを積み上げてこそ成り立つもの。それがゴルフというスポーツです」
それがあなたのゴルフの実力なのです
ゴルフの本質を理解した上でゲームに臨み、ショットを行えと中部さんは言うのだ。
「基本的に本番のコースでは100%上手く打てると思えるショットを選ぶこと。少しでも上手く打てないと思えるのならそのショットは行わない。そうすればゲームを壊すことはありません。スコアを作ることができるのです。
そして、それがあなたのゴルフの実力なのです。たまたまナイスショットが多く打ててベストスコアが出たとしても、それはあなたの実力ではありません。勘違いしてはいけません」
例えば100%上手く打てるショットが、7番アイアン以下しかなかったとしよう。であれば、中部さんはそれらのアイアンだけでプレーせよというわけだ。
7番アイアン以下だけのプレーでは100以上叩くことはほとんどないだろう。つまり、それがあなたの実力だというわけである。
中部さんは言う。「アマチュアゴルファーの皆さんは常にベストスコアを求めますよね。『今日こそはベストスコアを更新するぞ』と言って。そして行うことはギャンブルショットかマン振りです。そうしてベストスコアどころかワーストスコアを樹立する。
しかし、それをたまたま今日は悪かったと『たまたま』で済ませて反省しない。良いことは覚えているけれど悪いこは忘れてしまうのです。しかし、ゴルフでは大いに反省して、悪いことを忘れずに練習することが肝心なのです。そうして100%成功できると思えるショットを増やして、そのショットでプレーを行う。それが実力アップということです。何年かかっても上達しない人は反省のないゴルフを続けている人です」
誠に耳が痛い話である。「反省して練習して、自信のあるショットを増やして、少しでもワーストスコアを縮めていく。そして平均スコアをよくしていくことです。今年は100以上は一度も叩かなったといったことが大事なのです。70台が出たことなどは大きな声で皆に言いますが、では、今年のあなたのワーストスコアはいくつだったですか?と聞けば、顔を赤らめて知らないなどとうそぶく。
そんなゴルファーは大したことはありません。それよりもワーストスコアや平均スコアの話ができる人のほうが素晴らしいのです。自分の実力を知ろうとしている人だからです。こうした人はどんどん伸びます」
最後に中部さんは言った。「100%自信のあるショットだけでプレーできる人は、実は勇気のある人なのです」
中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう)
1942年1月16日、山口県下関生まれ。
2001年12月14日逝去。大洋漁業(現・マルハニチロ)の副社長兼林兼産業社長を務めた中部利三郎の三男(四人兄弟の末っ子)として生まれる。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、下関西高校2年生時に関西学生選手権を大学生に混じって出場、優勝を遂げて一躍有名となる。
甲南大学2年時の1962年に日本アマチュア選手権に初優勝を果たす。以来、64、66、67、74、78年と計6度の優勝を成し遂げた。未だに破られていない前人未踏の大記録である。67年には当時のプロトーナメントであった西日本オープンで並み居るプロを退けて優勝、「プロより強いアマチュア」と呼ばれた。59歳で亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1。遺した言葉は未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。
著者・本條 強(ほんじょう・つよし)
1956年7月12日、東京生まれ。武蔵丘短期大学客員教授。
『書斎のゴルフ』元編集長。著書に『中部銀次郎 ゴルフ珠玉の言霊』『中部銀次郎 ゴルフの要諦』『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(いずれも日本経済新聞出版編集部)他、多数。
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