想定外のシャンクに大ショック→ミス連発…ラウンド中の負の連鎖を断ち切るために“絶対やるべきこと”
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」vol.14
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉一つひとつを、皆さんにお届けしていく。
GOLF TODAY本誌 No.614/68〜69ページより
本誌イラスト/北村公司
想定外のことが起きたときこそ冷静に対処する
ゴルフでは思いもよらなかったことが起きる。アベレージゴルファーであれば、トップしたりダフったりといったミスはよくあるだろう。スライサーならひどいスライスが出てOBになることもあるだろう。しかし、それは想定内と言ってもよい。だからがっかりはするが、驚かないし大きなショックは受けない。
しかし、突然起きるシャンクはショックを受ける。それも打球が池に飛び込んだり、林の奥深くに入ったり、OBでもしようものなら気が動転し、頭の中が真っ白にもなる。たった1回のミスなのに、あっという間に二桁打数にもなってしまう。ゲームは壊され、最後までやり遂げる気力さえ失せてしまうのだ。そうしたことは上手な人でもある。中部さんでもあるのだ。
「シャンクは嫌ですよね、突然起きますから。それもグリーンまで100ヤード、ライも良いし、ピンは正面。問題はまったくないわけです。でも、そうなるとピンにぴったり寄せたいと思う。パー5ならバーディチャンスだと。でもそんなときにシャンクは起きる。体が固くなるからでしょうか。いつものように打ったのに、ボールは真横に飛んでいく。驚きますよね、何が起こったのかと」
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シャンクはウェッジのネックにボールが当たって起きるのだが、中部さんのような上級者はフェースのセンターよりネック側でボールをとらえるため、ちょっとした軌道のミスが原因でシャンクが出てしまうこともある。
ネックが重いために、スイートスポットがネック寄りになる。だから、習慣的にそこでボールをヒットするため、油断したり、欲が出るときにシャンクになる。ピンが見えているだけに、少しだけ早くルックアップするからかも知れない。
まずは息を吐いて気持ちを落ち着かせること
アベレージゴルファーのシャンクはその多くがフェースの先っぽに当たり、フェースが開いて起きる偽のシャンクである。
中部さんのような上級者のシャンクとは異なることが多い。しかし、横にボールが飛び出す点では同じだから、ショックも同様に大きい。
中部さんは言う。「打つ前にはそうしたミスは想定していない。ちょっと引っかかるかなとか、それを嫌がれば右に飛ぶかなとか。また、ライが悪ければ少しダフったり薄い当たりになるかなとかも思いますが、ミスの想定でもその程度。グリーンを外すなどは思いもしない。
練習ではしっかりピンに寄るようにやっていますので、シャンクなどはまったく考えてもいない。練習で出ることなどありえないですから。だから、本番で起きれば大きなショックを受けるわけです。試合なら尚さらです。いきなり大ピンチになるわけですから」
中部さんでもそうしたことはあるのかと、真面目な顔を向けてしまうと、中部さんは私の緊張を解くようににっこりと微笑む。
「しかし、考えてみれば、シャンクは起きることがあるわけです。滅多に起きないことではあるけれど、起きることはある。だから、起きたときには、まずは慌てない。あっ!?とびっくりするけれども、ふーっと息を長く吐いて、気持ちを落ち着かせる。
深呼吸というのは、吸って吐くと思いがちだけれど、驚いたり、ショックを受けたときは、息を吸うに吸えない。息が詰まっていますからね。だから、まずは息を吐くことなんです。すーっと吐いて、吐き切る。そうすれば自然と息は吸えます。深呼吸ができるわけです。深呼吸ができれば気持ちは落ち着きます」
確かに中部さんの言う通りだ。緊張したり、重圧がかかったときにも息が吸えなくなる。それはトッププロでも同様で、トーナメントを見ていても熾烈な優勝争いでは息を吸おうと口を開けてパクパクする選手がいる。金魚のように。
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ミスをしたときこそ、慌てず無理をしない
「信じられないミスが出ても、ゴルフではすぐに次のショットを打たなければいけないわけではありません。テニスや卓球ならばすぐに相手が次のボールを打ってきますが、ゴルフは自分でペースをつくれるスポーツです。
思いもしないミスをしてショックを受けたのなら、ゆっくりとボールのある所に歩いて行く。慌てて走ったりしない。ゆっくり歩いて、ゆっくり呼吸して、胸の動悸をおさめて、ボールの所に行く。そうして、次にどこに打つかをしっかりと決める。
このとき大事なことは元に戻すということ。ひどいミスをしたのなら、無理をせずにリセットする。元の場所まで戻してもいい。フェアウェイにボールを戻して、そこからやり直す。
ミスを取り返そうとして、前方の小さな隙間を狙うようなことは絶対にしない。たとえ前が開いていても、クロスバンカーがあったりラフが長くてフェアウェイに出すのが難しければやめる。確実にフェアウェイに出すことだけを考えるのです」
中部さんは続ける。「次の目標を決めたのなら、そこに打つことだけを考えて集中する。そうなれば、もはや前のミスは忘れているはずです。そうして目標を決めたら、もう一度ゆっくり深呼吸する。気持ちを十分落ち着かせてゆっくり素振りする。
目標に向かって力を入れてスイングすることなどまったくない。ゆっくりしたスイングで、ボールをよく見て、クラブを振ること。そうして目標にボールが打てたら、完全にリセットできたことになる。ゆっくりとボールに向かい、次の目標を定める。
次のショットもゆったりしたリズムで、ボールをよく見て、クラブを振る。この時に結果を先に考えない。つまり、ピンに寄せようとか、何とかボギーであがろうとか、そうしたことは一切考えない。打った数は決して消えない。シャンクをしたことは消すことはできないのです。シャンクの1打と、元に戻した1打は決して消すことはできない。でもそれがゴルフなのです。プラス2打のダブルボギーでそのホールは良しなのです。それ以上叩かなかったことが立派なのです。そう思って次のホールに臨むことです」
ゴルフだけでなく、仕事でも同様だ。思わぬミスは起きるもの。起こさないように準備や注意をしていても、信じられないようなことは起きる。問題は起きたときにどうするかである。そういうときこそ冷静になって、次にやるべきことを考える。その多くは元に戻すということなのである。一度リセットする。それが連続ミスを防ぐ、最善の方法なのである。
中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう)
1942年1月16日、山口県下関生まれ。
2001年12月14日逝去。大洋漁業(現・マルハニチロ)の副社長兼林兼産業社長を務めた中部利三郎の三男(四人兄弟の末っ子)として生まれる。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、下関西高校2年生時に関西学生選手権を大学生に混じって出場、優勝を遂げて一躍有名となる。
甲南大学2年時の1962年に日本アマチュア選手権に初優勝を果たす。以来、64、66、67、74、78年と計6度の優勝を成し遂げた。未だに破られていない前人未踏の大記録である。67年には当時のプロトーナメントであった西日本オープンで並み居るプロを退けて優勝、「プロより強いアマチュア」と呼ばれた。59歳で亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1。遺した言葉は未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。
著者・本條 強(ほんじょう・つよし)
1956年7月12日、東京生まれ。武蔵丘短期大学客員教授。
『書斎のゴルフ』元編集長。著書に『中部銀次郎 ゴルフ珠玉の言霊』『中部銀次郎 ゴルフの要諦』『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(いずれも日本経済新聞出版編集部)他、多数。
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