「すべてのショットでしっかりフィニッシュを決めれば、それだけでスコアが確実に5つはよくなりますよ」
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」vol.16
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉一つひとつを、皆さんにお届けしていく。
GOLF TODAY本誌 No.616/68〜69ページより
本誌イラスト/北村公司
「言い訳はしない、フィニッシュをしっかりする」
中部銀次郎さんとプレーした人が言う。
「中部さんが言い訳するのを聞いたことがありません。惜しくもグリーンに乗らなかったとき、普通の人なら、なんか言いたくなりますよね。『ちょっと薄かったかな』とか『思った以上に風が吹いていたね』とか、『グリーンが固かった』なんて言ってしまうと思うんです。自分のショットは良かったのに、本当なら乗っていたけれどもという言い訳ですね。しかし、中部さんは何も言わない。表情一つ変えず、ボールが止まるまでフィニッシュを崩さずに見ているんです」
中部さんにそのことを聞いてみたことがある。中部さんは笑いながら言う。
「そうですか?私も人間ですから、いつもそうではないと思いますよ(笑)。でも、言い訳をしたからって、ショットの結果が良くなるわけではありませんよね。もちろん、グリーンに乗らなかった理由は考えます。自分の打ち方がまずかったのか、芯に当たっていなかったのかといった自分の問題。また、ライが思っていたのと違っていたとか、風を読み間違えたとか、突風が吹いたとか、グリーンが思った以上に固かったとか。
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でも、こうしたことも突き詰めれば自分の問題ですよね。もっとライをよく見るべきだったわけだし、グリーンの状態も考えておくべきだし、風もグリーン上が違っていることもあるわけで、そうしたことはすべて事前に注意しておかなければいけないことなのです」
ミスを悔いるよりもミスを分析して、次のショットには同じミスはおかさないようにすることが大事だということである。だから、自分の打ったショットは最後の最後まで見ておく。
打球のスピンはどうなのか、グリーンの状態はどうだったか、風は吹いたのか、どこから吹いたのか、どれくらいの強さだったのか。こうしたことを、しっかりと把握するわけである。それをすることで、プレーが向上していくのだ。もちろん、スイングが悪ければ、理由を考えて直す。その際、アドレスをチェックすることは当然のことである。
言い訳癖は封印せよ
「私の場合、ショットの分析をすることが忙しく、言い訳をする暇がないと言えばそれまでだけど、言い訳というのは他の人が聞いていいものではないですよね。いわゆる愚痴なわけですから。
言い訳の多い人とは一緒にプレーをしたくなくなりますよね、ですから、言い訳はしないほうがいいんです。したくても我慢する。そういうクセを付けることです」中部さんはきっぱりとそう言う。
「仕事でも普段の生活でも愚痴の多い人と付き合うのは苦痛ですよね。サラリーマンというのは往々にして酒を飲むと、上司や部下、取引先の愚痴などを言いがちです。
ですので、私はそうしたおつきあいは避けてきました。お酒は楽しく飲みたいものです。よって、気の合う友人と飲んだり、一人で飲むことも多かったです」確かに中部さんは馴染みの小料理屋でも一人で飲みにきていた。一人でこよなく美味しいつまみと美味しい酒を飲んでいた。
中部さんは言う。「ともかく、ゴルフをするのであれば、言い訳しないクセを付けることです。そうすれば普段の生活でも愚痴をこぼすことがなくなります。愚痴を言いたくても我慢することができるようになる。そうすればゴルフ仲間も増えるし、酒を酌み交わす仲間も増える。友だちをなくすこともなく、増やすことができます。楽しいゴルフをすることができ、楽しい酒を飲むことができるのです」
ゴルフは自分を鍛えることのできるスポーツである。中部さんが言うように言い訳をしても仕方なく、一緒に回る人を不快にさせるだけなのだ。
ミスをよく知ることこそが上達の秘訣
中部さんは言う。
「アベレージゴルファーの人の多くは、ミスショットは打点の悪さの象徴でもありますよね。だから、打った途端にミスであることがわかり、フィニッシュまでスイングすることがなく、へたり込んだりしてしまう。
しかしそうではなく、例えミスショットでも、自分のショットなのですから、最後までしっかり見届けることが大事なのです。
フィニッシュをとったまま、ボールを目で追い続ける。こうすることでどんなミスだったかがよりわかります。
スライスにしてもどれほどのスライスだったのか、フックにしても同様ですし、トップにしてもどんなトップだったのか、ダフリにしてもどんなダフリだったのかが、打球を最後まで見ればそのことがよくわかります。曲がりや飛距離でミスを把握できるようになる。
それが大きな経験になっていき、自分を進歩させてくれるのです。ゴルフはミスのゲーム。完璧に打つことなどほとんどできない。だったら、自分のミスをよく知ることです。それこそが上達の秘訣なのです」
中部さんはOBを打ったときでさえ、いつもと同じように綺麗なフィニッシュをとり、平静な表情だったと言われている。だから、周囲はナイスショットだったのだと勘違いしたそうである。そのことを中部さんに言ってみた。中部さんは言う。
「そうでしたか?(笑)しかし、さっきも言ったように、ショットは良くても悪くても最後まで見る。それが習慣づいていたということでしょう。自分のボールは自分が責任を持つ。言ってみればボールは自分の分身なわけです。分身をないがしろにはできません。たとえOBになっても見つけて拾わなければいけない。自分の分身ですから置いてきぼりにはできません。
ボールに愛情を注げば、ナイスショットになってくれます。ボールが言うことを聞いてくれるようになるわけです。嘘ではありませんよ」
ボールは自分の分身である
そして、中部さんはこうも言った。「ボールを最後の最後までしっかり見るということは、フィニッシュを最後の最後までとるということです。フィニッシュをしっかりとるクセを付けたら、ボールを最後まで見るのと同様、ナイスショットが増えます。フィニッシュはスイングの結果です。フィニッシュがピタッととれればナイススイングであった証拠。
ならば、必然的にナイスショットになるというわけです。それだけフィニッシュをしっかりとることは大事なのです。すべてのショットでしっかりフィニッシュを決めれば、それだけでスコアが確実に5つはよくなりますよ」
最後に中部さんはこう言った。「フィニッシュをしっかり決めれば、例えショットが悪くても、周囲の人は『たまたま』だと思います。本当はあの人は上手いはずだと。どうせゴルフをするなら、上手だと思ってもらったほうがいいですよね。実際、フィニッシュの数はスコアを縮める数だと思えばいい。もちろん、そのとき、言い訳は一切なし。言い訳の数はハンデの数だと思えばいい。そうしたプレーをぜひとも心掛けてみてください」
中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう)
1942年1月16日、山口県下関生まれ。
2001年12月14日逝去。大洋漁業(現・マルハニチロ)の副社長兼林兼産業社長を務めた中部利三郎の三男(四人兄弟の末っ子)として生まれる。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、下関西高校2年生時に関西学生選手権を大学生に混じって出場、優勝を遂げて一躍有名となる。
甲南大学2年時の1962年に日本アマチュア選手権に初優勝を果たす。以来、64、66、67、74、78年と計6度の優勝を成し遂げた。未だに破られていない前人未踏の大記録である。67年には当時のプロトーナメントであった西日本オープンで並み居るプロを退けて優勝、「プロより強いアマチュア」と呼ばれた。59歳で亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1。遺した言葉は未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。
著者・本條 強(ほんじょう・つよし)
1956年7月12日、東京生まれ。武蔵丘短期大学客員教授。
『書斎のゴルフ』元編集長。著書に『中部銀次郎 ゴルフ珠玉の言霊』『中部銀次郎 ゴルフの要諦』『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(いずれも日本経済新聞出版編集部)他、多数。
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