「自分自身に嘘をつかない。ゴルフも人生も尊厳を持て」
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」 vol.2
新連載、伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉1つ1つを、皆さんにもお届けしていく。
GOLF TODAY本誌 No.602/68〜69ページより
写真提供/オフィスダイナマイト
イラスト/北村公司
「ゴルフというスポーツが他のスポーツと大きく異なるところは、通常、審判がいないということなんですね。それは根本的にフェアプレーを重んじるスポーツだということです。ゴルファーは誰もが誠実であり、従って不正を犯すものはいないという基本的な考え方によって成り立っているスポーツなんです」
このことはルールブックの規則1のなかの、「すべてのプレーヤーに期待される行動」に書かれている。「つまり、ゴルフをプレーするゴルファーは常に正直でなければいけない。そうでなければ、競技をする資格はない。ゴルファーとはいえないということなんです」
中部さんは「そのこと」をゴルフを始めた頃に思い知った。いつものように北九州にある門司ゴルフ倶楽部で父・利三郎さんと週末にプレーしていた。何とか良いスコアで回っていいところを父に見せようと思っていた。この倶楽部の名物ホールである深いアリソンバンカーに囲まれた6番ホールで「そのこと」が起きた。
中部さんはセカンドショットで果敢にグリーンを攻めた。打球はスライスしてグリーンを外れたが、バンカーにも入らなかった。良かったなと思ったが、深いラフに沈んでいた。サンドウェッジを持っていなかった中部さんは9番アイアンでグリーンを狙った。ピンは目の前だから9番では大きく振れず、小さなスイングをしたところ、何とボールは草の中でピクリとも動かなかった。空振りである。「あっ」とは思ったものの、銀次郎少年は次のような甘い期待を抱いたのだ。「素振りに見えたかも知れない」邪念が起きたのである。ホールアウト後、本当はダブルボギーであったのに、ボギーと申告したのである。しかし、百戦錬磨の父の目は誤魔化せない。素振りと空振りは明らかに違う。
中部さんは父から球を蹴っ飛ばしたとき以上に叱られた。スコアを誤魔化すことはゴルファー以前の問題、人間失格だとまで言われたのだ。中部さんはゴルフクラブを取り上げられ、謹慎の身となってしまったのだ。
野球でもサッカーでも審判がいる。故に審判が見ていなければ何をしてもいいという風潮がある。特にサッカーの場合はペナルティーを相手に与えようと、大げさに倒れ痛がったりする選手も多い。しかし、ゴルフは元々審判のいない競技なのだ。プレーヤー自らがルールを守らなければゲームが成り立たなくなってしまう。フェアプレーの上に成り立っているスポーツなのである。中部さんは言う。「ゴルフはゴルファー自らが審判なのです。自らのプレーを自らがジャッジしなければいけない。公明正大にして行う唯一のスポーツと言ってもよい。それだけに貴いスポーツなのです」