「全米オープンに匹敵するラフ」を躱して「10回打って1回も入らないライン」を沈めた今平周吾の心技体
プロが分析するプロの心技体「日本オープン」
今年は日本ゴルフ協会発足100周年のメモリアルイヤー。「日本オープン」の舞台は東京ゴルフ倶楽部だった。東京ゴルフ倶楽部での「日本オープン」と言えば、1988年のジャンボ尾崎、青木功、中島常幸の優勝争いが有名だが、今年も18番でドラマが待っていた。
GOLF TODAY本誌 No.630/137〜139ページより
取材·構成·文/野中真一 撮影/相田克己
優勝候補の1人だった中島啓太は初日にラフに入ったボールを打とうとして、2回連続で空振り。石川遼は「全米オープンに匹敵するラフ」と語っていた。
多くの選手が長いラフに苦しむなか、最終日をトップタイで迎えたのは木下稜介だった。そのプレースタイルは今シーズンの前半とは別人だった。18ホールを帯同した解説者の田中秀道に話を聞くと、
「元々は生粋のドローヒッターでしたが、今年の夏頃から球筋を変えたそうで、完璧なフェードヒッターになっていました。フェードボールでなかったらもっとランが出ているので、ラフに入れる回数が増えていたでしょう。このスコアでは回れなかったと思います」
前半5ホールを終えた時点で最終組の木下稜介と一つ前の組でプレーする今平周吾が3アンダーで並び、ここから一騎打ちがはじまった。8番で今平がバーディを沈めると、その直後に木下が約8メートルのバーディパットを決めた。9番ホールでは木下がボギーで後退するが、今平も11番でボギー。ふたたび、スコアが並ぶ。一進一退の攻防が続くなか、木下が17番を迎えた時点で、前の組にいる今平が1打リードしている展開だった。
ここから2つの奇跡が起きた。17番で木下が絶体絶命のバンカーからチップインバーディ。その時点で今平のスコアに追いついた。そのときの歓声は18番ホールの2打目地点にいた今平に聞こえていた。ずっとグリーンを見ていた今平だったが、歓声に気づいて木下がいる17番グリーンを振り向いた。試合後に話を聞くと、
「木下さんが手を挙げていたのでバーディだなと思った。追いつかれたことで、集中力が高まりました」