第6章 番手間のつながり
シャフト、ヘッド重量、スイングウエイト――
ここまで私は、クラブを構成する要素を一つずつ見直してきました。
そして次に向き合うべき課題は、「アイアンセット全体を、どうつなげるか」でした。
アイアンは、一本で完結する道具ではありません。
複数本が連動して、初めて意味を持つクラブです。
ゴルフは、距離を打ち分けながら進めるゲームです。
だからこそ、セットの中で最も重要なのは、番手ごとに、無理なく自然な距離差が生まれること。
その鍵を握るのが、ロフト角と長さの構成でした。
一般的なアイアン構成の矛盾
一般的なアイアンセットでは、長い番手ほどロフト差は小さく、短い番手ほどロフト差は広く取られています。
たとえば、多くのメーカーでは次のような構成です。
| 番手 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | PW | AW | SW |
| ロフト | 21 | 24 | 27 | 31 | 35 | 40 | 45 | 50 | 56 |
一見すると合理的です。
上の番手は3度差、下の番手は4〜6度差。
これは、ヘッドスピードが速いほどロフト差による飛距離差が出やすい、という考えに基づいています。理屈としては正しい。しかし、現場では違いました。
なぜロングアイアンは距離差が出ないのか
フィッティングを重ねる中で、私は多くのゴルファーに共通する現象を見ました。
それは――
4番・5番・6番の距離が、ほとんど変わらない。
理論上は10ヤード刻みになるはずなのに、実際には差が出ない。
なぜか。理由は単純です。長いクラブほど、当たりにくいからです。
ロングアイアンは長く、難しい。振り切れない。芯に当たらない。結果、ボール初速が上がらず、距離差が消えてしまう。
つまり――
理論値は正しくても、人間が打つと成立しない。
ここに、大きな矛盾がありました。
距離差を作るための最初の答え
まず私が試したのは、ロフト差を広げることでした。実際のフィッティングでは、7番の上に6番ではなく、5番を入れる。
いわゆる「番手飛ばし」をしてみました。
これで6度差近くになります。すると、多くの場合、明確な距離差が生まれました。
しかし今度は逆に、距離差が大きくなりすぎる。そこで見えてきた最適解が、
5度差でした。
広すぎず、狭すぎず、人間が扱いやすい現実的な間隔です。
長さもまた、再設計が必要だった
次に見直したのは、長さです。
一般的な番手間の長さ差は0.5インチ。しかし、これではロングアイアンで十分なヘッドスピード差を作りにくい。そこで私は考えました。
上の番手は、もっと長くしていいのではないか。
特にロングアイアンでは、0.75インチ差を採用することにしました。これは、UT(ユーティリティ)が飛距離差を出しやすい理由と同じです。
長さが増えることで、無理に振らなくても自然に距離差が出る。しかも、「飛ばさなければ」という力みも減る。
長くすると、別の問題が出る
しかし、長くすれば当然、難しさも増します。
- 当たりにくい
- 重く感じる
そこで必要になったのが、ヘッド重量の再調整でした。
一般的な番手間重量差は約7gですが、私はこれを約10g差に設定しました。長さ差が増えても違和感が少なく、自然につながるようにするためです。結果として、上の番手ほど軽く感じ、振り抜きやすくなりました。
シャフトも“つながり”を壊してはいけない
さらに重要なのがシャフトです。
長い番手ほど柔らかく感じやすい。それでは、第4章で否定した「クラブが仕事をしすぎる」状態に戻ってしまう。
だからこそ、上の番手でも柔らかく感じにくい、しっかりしたシャフトを選ぶ必要がありました。
UPPARがたどり着いた構成
そうして見えてきたのが、UPPAR独自の番手構成です。
| 番手 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | PW |
| ロフト | 22 | 27 | 32 | 36 | 40 | 44 | 48 |
| 長さ | 38.5 | 37.75 | 37.0 | 36.5 | 36.0 | 35.5 | 35.25 |
この設計には、明確な思想があります。
下の番手は、あえて距離を重ねる
一方で、ショートアイアンは逆です。下の番手では、距離差を広げすぎないことを重視しました。なぜなら、ショートアイアンは“打ち分ける道具”だからです。
たとえば
| 番手 | 距離レンジ |
| 7番 | 130〜150y |
| 8番 | 120〜140y |
| 9番 | 100〜125y |
| PW | 80〜115y |
このように距離レンジが重なっている方が、実戦では圧倒的に使いやすい。
ライや風、球筋によって、同じ距離でも使う番手を変えられるからです。
設計思想は、“現場”から生まれる
この構成は、机上の計算だけで作ったものではありません。フィッティング現場で見てきた何百、何千という実例。そして、自分自身のプレー経験。
その積み重ねの中から生まれた答えです。
次章へ――理論を、現実に変える
こうして、理想のロフト構成と長さの設計は見えてきました。
しかし問題はここからでした。思想はできた。理論も整った。では――
どうやって、それを現実のクラブとして形にするのか。
次章では、この設計思想を、実際の製品へ落とし込む過程に入ります。
UPPARが、“構想”から“ブランド”へ変わる瞬間です。
(第7章へ続く)

ダグ・三瓶(だぐ・みかめ) ブリヂストンスポーツ、アクシネット ジャパン インクと日米2つの大手メーカーに所属。その中でクラブ開発、ツアー担当、マーケティング、フィッティングなどを担当。ツアーレップ時代にはあのボブ・ボーケイ氏に日本で唯一の弟子と認められていた。現在、フリーとなり迷い多きアマチュアゴルファーにアドバイスを送ってくれることとなった。










