8歳から続く両手グローブの原点は“父が入れ忘れた片方”だった

「全米プロ」の中継を見た人は、ライがショットのたびに両手へグローブを着用している姿に目を引かれたかもしれない。

ライが両手グローブを使い始めたのは8歳の頃。もらったグローブがたまたま左右セットだったため両手にはめてみたところ、「クラブをしっかり握れる感覚があった」という。

通常、ゴルフでは左手だけ(左打ちは右手)にグローブをする選手がほとんど。しかし数週間後、父親が左手用だけをキャディーバッグに入れていた際、「全然ダメだった。グリップを感じられなかった」と違和感を覚え、それ以来ずっと両手グローブを続けているという。

“ゴルフ用ではない”グローブが世界最高峰で武器に

ちなみにライが使用しているのは、ゴルフメーカー製ではない。

愛用している「MacWet(マックウェット)」は、乗馬や狩猟、ボート、水上スポーツ向けのグローブメーカー。強いグリップ力を求められる用途のために開発された製品だ。

その効果もあってか、ライは今季フェアウェイキープ率4位(69.28%)、パーオン率8位(70.31%)という高い安定感を誇っている。

“異色”ともいえるスタイルだが、自分に合うものを徹底して使い続ける姿勢こそ、ライの強さなのかもしれない。

アイアンカバーに込められた父への感謝

もう一つ、ライの象徴ともいえるのがアイアンカバーだ。

PGAツアーでは珍しい存在だが、そこにも幼少期の思い出がある。

イングランドでインド系の父とケニア出身の母のもとに生まれたライ家は、決して裕福ではなかった。それでも父親は、4歳からゴルフを始めた息子のために、限られた家計から用具代や試合のエントリーフィーを捻出していた。

さらに、練習から帰るたびにアイアンの溝に詰まった芝や土を丁寧に掃除し、クラブを長持ちさせるためベビーオイルを塗ってくれていたという。

その記憶と感謝の気持ちが、ライに今もアイアンカバーを使わせている。

生涯獲得賞金が1600万ドル(約25億4400万円)を超えた今も、“クラブを大事にする気持ち”は変わっていない。

7年前のクラブでも勝てる。“合う道具”を信じる強さ

その哲学はクラブセッティングにも表れている。

ドライバーは2019年モデルのテーラーメイド「M6」。アイアンも同じく2019年にタイガー・ウッズが「マスターズ」を制した際に使用していた「P・7TW」だ。

3Wと5Wは「Qi10」で、こちらも現行のひとつ前の世代。ハイブリッドはタイトリスト「GT2」だが、タイトリストはすでに新シリーズ「GTS」を発表しており、こちらも近いうちに“旧モデル”となる。

それでもライは、自分に合うクラブを信じ続けている。

“新しいクラブが最良”ではなく、“自分に合うクラブこそ最良”。その考え方を体現している選手といえるだろう。

“裏大会”トップ10から一気にメジャー王者へ

前週、ライはシグニチャーイベントの裏開催大会で今季初のトップ10入り。そしてその1週間後、メジャー制覇を成し遂げた。

優勝後には「ここに立っているのが信じられない」とコメント。ローリー・マキロイも「彼の勝利を喜ばない人はいない」と称賛を送った。

両手グローブでクラブをしっかり握り、アイアンカバーで道具を大切にする。

派手さよりも、自分に必要なものを大切に積み重ねてきたライの姿勢は、多くのアマチュアゴルファーにとっても大きなヒントになるはずだ。

(文/森伊知郎)