誰もいない巨大スタンドが残るコースでプレーする特別感

到着してまず驚いたのは静けさだ。1番と18番の周囲には、全英オープン用の巨大スタンドがほとんどそのまま残っている。1週間で20万人以上が集まったメジャーの余韻が、まだ空気に漂っているような気さえする。それなのに、そこを埋めていたギャラリーは消えている。人がいなくなったことで、かえってスタンドの大きさが際立って見えた。 9年前、2017年の全英オープン取材でロイヤル・バークデールGCを訪れた。今回はロープの外から選手を見るのではなく、クラブを持って18ホールを歩く。ローリー・マキロイらが数日前まで戦っていた同じフェアウェイを、ゴルファーとしてプレーできる。ライブ配信の画面越しでは伝わらない、メジャー直後のコースのリアルを体感できる。これから始まるラウンドには、普段のゴルフでは味わえない特別な楽しみがいくつも待っていた。

1番ホール、誰もいないスタンドに見守られながらティショット。

デシャンボーの”2ペナラフ”を現地で体感

5番ホール(Par4)へ向かう途中、キャディが言った。

「次が有名な“デシャンボー・ホール”だよ」

みんなが2週間前を思い出して微笑んだ。

2026年全英オープン2日目、ブライソン・デシャンボーがホールアウト後にペナルティを受けた出来事は、多くのゴルフファンが覚えているだろう。一時は「ペナルティが科せられるなら大会を棄権する」「トランプ大統領に電話する」と猛抗議した事件だ。その現場が、この5番ホールだった。長い草を平らにしてスイングエリアを改善したとみなされ、2罰打が科されたのだ。大会が終わってまだ間もないのに、キャディの間ではすでに“俗称”が定着していた。

ニュースで見ていた、あの“2ペナラフ”。キャディにデシャンボーがボールを打ち込んだあたりを教えてもらう。

「こんなに右に打っていたのか」

「長い草がこんなにも密集したラフだったのか」

どれくらい右に曲げたのか。どんなライだったのか。一つの単なるルールの問題として見ていた出来事が、その場所に立つことで急に立体的になってくる。

大勢のギャラリーが見守る中で起きた騒動の舞台も、今は静かなラフが広がっているだけだ。ニュースの中にあった場所を自分の足で歩き、自分の目で確かめる。これもまた、全英オープン直後だからこそ味わえるラウンドの醍醐味だ。

5番ホールの右サイドのラフ。池の奥の赤い物体があるあたりが、デシャンボー事件の現場。

図々しくも、フォックスの優勝劇に自分のショットを重ねる(笑)

優勝したライアン・フォックスのプレーは、ラウンド中何度も頭をよぎった。

最終日の15番ホール(Par3)は、2026年大会に向けて新設された241ヤードのパー3。フォックスのティショットはグリーン左サイドのバンカーへ。ボールは高い壁の近くに止まり、ピン方向へ打つことはできなかった。それでも無理をせず、いったんボールを後方へ出し、そこから寄せてボギーに抑えた。優勝争いの真っただ中での冷静な判断だった。その後、16番と18番でバーディを奪い、フォックスは全英オープンのトロフィー、クラレットジャグを手にした。

筆者もラウンド中、グリーン近くのポットバンカーで、ピン方向へ打てない場所にボールが止まった。ライブ配信で見ていたフォックスの場面が、そのまま目の前に降りてきたような気分だ。

ポットバンカーには何度もつかまった。

「おっと、ライアン・フォックスと一緒じゃん」

心の中でつぶやいた。フォックスと同じように、いったんグリーンとは違う方向へ脱出。そこから寄せてワンパットのボギー。ボギーなのに、なぜかガッツポーズが出た。

全英オープンの優勝争いと自分のプレーを比べるなんて、まったく図々しい。メジャーの名場面に、図々しく自分のショットを重ねる。それもまた、全英直後ならではの楽しみ方だ。

巨大スタンドに囲まれた18番ホールフェアウェイを歩けるのもメジャー開催直後ならではの醍醐味。