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カシオワールドオープン優勝に導いた金庚泰選手の奇跡の1打

プロキャディが語る! 2019シーズン熱戦エピソード/島中大輔編

2020/06/12 ゴルフサプリ編集部

新型コロナウイルスによる“ゴルフ自粛生活”に辟易しているゴルフファンに、少しでも楽しんでいただきたい! そして、相次ぐ大会中止によって活躍の場が減少しているプロキャディの皆さんに少しでも露出できる場を創造したいという考えからスタートしたこの企画。

男女ゴルフツアー・2019年シーズンにおいて、プロキャディたちが厳選した“熱戦エピソード”や裏話などを臨場感たっぷりにお届けします!

今回は、1998年にプロキャディデビューという、島中大輔キャディ。2015年秋から金庚泰(キム・キョンテ)選手の専属キャディを務め、多くの優勝を勝ち取ってきた。そんな島中キャディならではの目線で、庚泰選手のカシオワールドオープンの優勝を振り返ってもらった。

大会初日の6番、スーパーショットがキョンテの復活優勝を引き寄せた

島中キャディ提供の詳細なコースメモ。いかに難しい状況だったかがよくわかる。

カシオワールドオープンで復活優勝を遂げ、涙を見せた金庚泰選手。その優勝を支えたのが、島中大輔キャディだ。そんな島中キャディの中で一番、印象に残っているショットは、何と大会初日の6番ホールのセカンドショットだという。

「ティショットで右の林に打ち込んでしまい、ボールを見に行くと木の根っこ、しかも溝にハマっていました。初日から、そんなトラブルに見舞われて、僕もキョンテもガッカリでしたよ(笑)。 もしかしたら、動物の穴で、救済が受けられる可能性もあるかと思ったので、一応、競技委員を呼んで確認もしてもらったのですが、そうではなかったようで、アンプレアブルを余儀なくされました。ピンまで200ヤードちょっと残っているし、ドロップして横に出して、これはもう良くてボギー、ダボも覚悟という状況でした」

直前の5番ホールはロングだったが、ここでもバーディを獲れず、意気消沈したまま迎えた6番でのトラブル。ここからずるずるとスコアを崩してしまうかと思われる展開だった。

「ところが、ドロップ箇所を確認したら、ベアグラウンドでグリーンに向かって打てそうな位置だったんですよ。これはもしかすると、いけるかも? と思い直して、まず、キョンテに出すだけという選択肢を考え直してもらって、ここにドロップすれば、こういうことも可能だよというのを説明しました。まさにイチかバチかでした」

グリーンの手前も左も池、ミスすればトリプルボギーの可能性も!

状況は決してやさしいものではなかった。グリーンの手前も左も池。それよりも左だとOB。ピンは右の奥で、スライスボールできっちり狙えなければ、万事休すというまさに追い込まれた状況だったという。

「キョンテ自身も思わず『え~』と言ってしまうような状況でしたけど、思い通りのところにドロップできたし、落ちたところは、クラブヘッドをややカットに入れやすいライだったので、勝負に出ました。普通、キャディは止める役目だと思うのですが(笑) 彼はトラブルショットが上手いし、数週間前に違うモデルに替えた3番アイアンの調子も良さそうだったし、いろいろ考えて、これはイケるんじゃないかと……。その代わり、左の池を超えるのはキャリーで180ヤード必要、絶対にスライスを打たないといけない、オーバーしても大丈夫と、条件をすべて伝えて、彼自身も理解してくれて、挑戦してくれました」

島中キャディの思惑通り、高い技術力を持つ金庚泰選手が放ったボールは、見事なスライス軌道を描いてグリーンをとらえた。

「グリーンもスライス傾斜で、ピンそば3メートルまで寄せることができたんです。さらに、このパーパットを入れたんですよ。アンプレアブルで、良くてボギー、下手したらダボという状況で、パーが獲れたんですから、まさに奇跡的です」

ミラクルなスーパーショットをきっかけに調子は徐々に上向きに

続く7番パー5は、金庚泰選手が苦手にしているホールだったというが、そこでもパーをセーブ。結局、この日は2バーディ・ノーボギー、24位タイでフィニッシュした。

「スコアカードに記載されているのは、ただの「パー」ですが、本当に特別なパーだと思います。初日の6番ミドルホールとだけ聞くと、本当に地味ですけど、でもあれがなかったら、優勝はなかったと思うくらい、印象的なショットでした」

金庚泰選手は、2018年にケガをして、その後、スランプに陥った。パッティングの名手と言われ、どんな状況からでも入れてきていたのに、テークバックが上がらない……春先からそれで悩んでおり、7月に日本プロゴルフ選手権大会から、なんと出場した7試合も、連続で予選落ちするほど、不調だったのだ。

「パターを替えるなど、いろいろ試しました。それでも、なかなか結果が出ない日が続いていたのです。でも、カシオでは強いキョンテが帰ってきた。2日目からはずっと60台で、最終日は64というビックスコア。最終日の15番くらいからゾワゾワする緊張感がありましたが、通算20アンダーで優勝を勝ち取りました。たくさんバーディを獲っていますが、僕の中では、それを導いたのは、ギャラリーも誰も見ていなかったような初日の6番ホールのミラクルだと感じています。あのパーがなかったら、結果は違っていたんじゃないか? とも思えてきます」

わずかな可能性にかけたショットが運んだ奇跡の勝利。それをうながした島中キャディ、彼を信じて、理想的なスライスボールで勝ち取ったパー。誰も見ていなかった(と思われる)スーパープレーは、島中キャディにとっても、忘れられない思い出の一打として、心に刻まれた。


島中大輔(しまなか・だいすけ)
1972年6月4日生。東京都出身。1998年、研修生時代に同い年の宮本勝昌選手に誘われてキャディの道へ。その後、社会勉強のために、1度ゴルフ界から離れ、建設会社で4年間サラリーマンとして勤務したが、2006年に宮本選手に呼び戻されて、再びプロキャディに。宮本選手のほか、上井邦裕選手や木戸愛選手、上田桃子選手をはじめ、数多くの選手たちのバッグを担ぐ。2015年のマイナビABCチャンピオンシップから金庚泰選手の専属キャディとなり、いきなり優勝。その後も多くの勝利をともに積み重ね、現在に至る。

取材・文/下山江美
Special Thanks/伊能恵子 渡辺義孝(写真)
企画・構成/ゴルフサプリ編集部

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