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堀川未来夢選手に初優勝をもたらしたコースマネジメント術

プロキャディが語る! 2019シーズン熱戦エピソード/清水重憲編

2020/06/12 ゴルフサプリ編集部 角田 修二

新型コロナウイルスによる“ゴルフ自粛生活”に辟易しているゴルフファンに、少しでも楽しんでいただきたい! そして、相次ぐ大会中止によって活躍の場が減少しているプロキャディの皆さんに少しでも露出できる場を創造したいという考えからスタートしたこの企画。

男女ゴルフツアー・2019年シーズンにおいて、プロキャディたちが厳選した“熱戦エピソード”や裏話などを臨場感たっぷりにお届けします!

今回は、男女ツアー合わせて通算38勝を挙げている優勝請負人・清水重憲キャディが登場。数々の名勝負に立ち会ってきたベテランの心に残った2019シーズンのエピソードとは?

パー5であえて2オンを狙わずにバーディを獲らせる

「日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ Shishido Hills 2019」で、念願の初優勝を手中に収めた堀川未来夢選手。この試合で、彼のバッグを担いでいたのが、清水重憲キャディだ。4日間をともに闘った中で、印象に残ったプレーを教えてくれた。

「優勝のキーポイントになったのは、15番パー5だと思います。このホールは、3日目からティグラウンドが前に出て、2オンが狙いやすくなりました。初日・2日目と比較すると50ヤードくらい前に出ていたんじゃないかな? そのホールで、3日目に堀川選手はドライバーショットを左に引っ掛けて、林の中の崖下に打ち込んでしまったんです。そこからはグリーンを狙うのは難しく、泣く泣く横に出して4オン、2パットでボギーにしてしまいました」

初日からトップの位置を譲らなかった堀川選手。3日目はその15番でボギーを打ったものの、2位に3打差をつけてフィニッシュ。首位のまま、最終日を迎えた。最終組の同伴プレーヤーは、ガン・チャルングン選手と今平周吾選手。14番ホール終了時点で、堀川選手は15アンダー、今平選手は10アンダー、チャンルングン選手は2つスコアを落とし7アンダーになっていた。

再び迎えた15番。堀川選手は前日のボギーのリベンジを望んだが……

「最終日も、ティグラウンドは前に出て、距離は短くなっていました。ですが、その分、落としどころは狭くなっています。堀川選手は前日にミスをしているので、リベンジを図る意味でも、ここで2オンを狙っていきたい気持ちだったと思います。でも、僕としては前日にドライバーで左に落としているので、左の谷と林を気にしすぎて、右に打ちたくなると思ったんです。人間の心理的に極端に左を避けるだろうと。でも、このホールは右も狭いので、OBの可能性もある。なので、3ウッドで刻もうと提案したんです」

「でも、堀川選手は「刻む=逃げる」というイメージがあったようで『ここで逃げたらダメじゃないですか? 5打リードしてるから逃げるんですか?』と。でも、僕の中では逃げるのではなく、刻んでバーディを獲りに行くというコースマネジメント。3ウッドで刻んで、セカンドも刻んで、3打目できっちりバーディを獲りに行く攻め方をしようと、話しました。ティグラウンドで待ち時間が長かったので、納得してもらえるように話ができました」

説得に応じ、3番ウッドを持った堀川選手だったが、清水キャディの予想通り、ボールは右方向へ。それでもドライバーほど大きく曲がらずに済んだおかげで、右のラフからセカンドショットを打つことができた。一方の今平選手はドライバーナイスショット、続く2打目も完ぺきなショットでグリーンをとらえた。

「今平選手は2オンからイーグルを獲りました。でも、堀川選手もセカンドをアイアンで刻んで、3打目は120ヤードくらい。これをきっちり乗せて、バーディを獲りました。今平選手のイーグルは素晴らしかったですが、堀川選手もバーディだったので、差は1打縮まっただけでした。もし、堀川選手がドライバーで右にOBを出していたら、大きく差を縮められて、その後のゲーム展開に影響していたかもしれません」

3日目の失敗を活かして攻め方を考えていくことも大切

「もし、3日目に大きく左にはずしていなければ、最終日はドライバーを持ったとしても、反対しませんでした。でも、3日目にミスしたことを反省して活かしていくことも大切なんです。今平選手は会心のイーグルを決めたのに、1打しか差が縮まらなかったことが、もしかしたら、ボディブローのように利いたのか、次の16番ショートでボギーを打って、再び5打差に広がりました。堀川選手は17番でボギーを打ちましたが、4打差で最終ホールに行けて、余裕を持って優勝を手にすることができました」

トーナメントは1日で成り立つものではない。ミスはミスで受け止めて、それを反省して活かしていくことが大切。ミスを情報として取り入れて、ミスを重ねない選択をしていく、それが試合に勝つためのマネジメント力なのだと、清水キャディは話してくれた。

初優勝に立ち会えるのはキャディにとっても最高の喜び!

数多くの優勝に立ち会っている清水キャディだが、実は初優勝の瞬間に立ち会ったのは、堀川選手が2人目だという。

「そうなんです。その前は井上真由美選手(2002年プロミスレディスゴルフトーナメント優勝)と今回の堀川選手だけです。それだけ初優勝に出くわすのは難しいんですよ。たくさん勝たせていただいていますが、初優勝でバックを担がせてもらっていたというのは、やっぱり格別です。今回の堀川選手の優勝も本当に印象に残る嬉しい勝利でした」

多くの選手を優勝に導いてきた名キャディ。清水キャディの豊富な経験が引き出したマネジメント術。まさに優勝請負人の成せる業が、嬉しい初優勝の瞬間をもたらしたと感じさせてくれるお話だった。


清水重憲(しみず・しげのり)
1974年7月10日生。大阪府出身。学生時代は近畿大学ゴルフ部に所属。1998年に田中秀道プロのキャディを務め、日本オープンなど年間3勝をあげる。2007年には谷口徹プロ・上田桃子プロを担ぎ、男女ツアー両賞金王キャディに。2013~2018年までイ・ボミのキャディを務め、2年連続賞金女王獲得に大きく貢献した。2019年度は男子ツアーでは堀川未来夢プロ、女子ツアーでは新垣比菜プロとメインでコンビを組んだ。通算38勝の大記録保持者でもある。

取材・文/下山江美
写真提供/清水重憲
Special Thanks/伊能恵子 渡辺義孝(試合写真)
企画・構成/ゴルフサプリ編集部

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