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最後のフェニックスで中嶋常幸選手の凄さに感涙

プロキャディが語る! 2019シーズン熱戦エピソード /守谷一隆キャディ編

2020/07/07 ゴルフサプリ編集部

ツアーも開幕を迎え、新型コロナウイルスによる“ゴルフ自粛生活”が、ようやく終わりを告げた? と思える今日この頃。だが、試合はまだ少なく、元気のないゴルフファンに少しでも楽しんでいただきたい! そして、相次ぐ大会中止によって活躍の場が減少しているプロキャディの皆さんに少しでも露出できる場を創造したいという考えからスタートしたこの企画。

男女ゴルフツアー・2019年シーズンにおいて、プロキャディたちが厳選した“熱戦エピソード”や裏話などを臨場感たっぷりにお届けします!

今回は60歳を過ぎても、現役キャディとして活躍するレジェンド、守谷一隆キャディのお話。2019年シーズンもいろいろな選手のキャディを務めたようだが、一番心に残っているのは、男子ツアー界のレジェンドである中嶋常幸選手とともに臨んだダンロップフェニックス。レジェンド二人の思い出とは?

写真は2012年ツアー選手権

ダンロップフェニックスは自分にとっても特別な試合

2019年のダンロップフェニックスで、守谷一隆キャディがバッグを担いだのは、中嶋常幸選手。実は中嶋選手はこの大会への出場をこの年で最後にすると決め、家族にもメディアにも知らせることなく臨んだ、勇退試合だった。まず、印象深かったと話してくれたのは、初日に魅せた中嶋選手の技ありショット。

「まず、ショットで驚いたのは、初日の14番でした。距離は436ヤード、ストレートなパー4なんですが、左サイドが少し下がっているせいもあって、ボールが左にいきやすいレイアウトになっています。いつもはフェードを打つ中嶋選手ですが、このときは、ドライバーショットがほんの少し引っかかって、左のラフにいきました。ラフはさほど深くなかったのですが、林間コースにありがちなロケーションで、前方に大きな木の枝が張り出していました」

左サイドのラフからのショットは、大きくせり出した枝を避けて、低い球を打つしかない状況だった。

「距離はフロントエッジまで147ヤード、ピン位置は左奥で、エッジからは25ヤード、計172ヤードの距離です。グリーンの左には大きなバンカーが待ち構えています。中嶋選手はどんな風に打つのか注目していました」

低い球でドローをかけてきっちりグリーンをとらえ、バーディ

「選んだのは7番アイアン。球を上げずにグリーンのセンター方向に、ドローをかけて乗せました。風はそんなに出ていませんでしたが、低い球で抑え気味に打った球は綺麗なドロー弾道で、キャリー165ヤードくらい飛んで、ピンそばに寄せてきました。さっすが、世界の中嶋さん、技があるなあと、シビレました。そこから楽にバーディを獲りました。豊富なショットのバリエーション、経験値がないと打てないと感じさせてくれるような技ありショットでした。。球を操る技術は完ぺきでした」

若い頃のような飛距離は出せないが、職人的な技ありショットには思わずため息が出たと守谷キャディ。レジェンドのショットを目に焼き付けた瞬間だった。

コースに一礼した目には涙が光り、思わずもらい泣いた

「ダンロップフェニックス、カシオワールドオープン、太平洋VISAマスターズ、今でこそ、他にも多くの国際試合がありますが、古い人間の僕にとって、これらの3試合はやっぱり特別です。世界中から強い有名プロが参戦してきていたし、思い入れは強いです。その中の一つであるダンロップフェニックス、しかも、大会に出場するのは最後と決めていた中嶋選手が、僕を指名してくれたということは、キャディ冥利に尽きる出来事でした」

前述のとおり、大会出場は2019年が最後と決めていたという中嶋選手。そんな中嶋選手とコンビを組んだ守谷キャディ。残念ながら、2人のレジェンドは、決勝ラウンドに進むことはできず、予選2日目で試合を終えた。

「予選2日目は10番ホールからのスタートだったので、最終ホールとなったのはアウト9番でした。これで勇退ということは誰にも知らせていなかったので、最終ホールでもメディアが取材に来ていたわけでもなく、本当にそっとコースを去るという雰囲気でした。そんな中嶋選手がホールアウト後、グリーンからコースに向かって、帽子を取って一礼したんです。そのとき、目には涙が光っていて、あのトミー中島が泣いてる!と思った瞬間、自分にもこみ上げてくるものがありました。トミーさんは日本人で初めてダンロップフェニックスを勝った選手です。ギャラリースタンドを背にフェアウェイに向かって頭を下げたトミーさんの目に涙が光っているのを見て、僕ももらい泣きしてしまいましたよ」

守谷キャディが、インタビューでこの話をしてくれたとき、聞いているこちらも、思わず涙声になってしまった。そして、途中から中嶋選手ではなく、親しみを込めてトミーさんと呼んでしまっていた。実際の試合とは無関係な話ではあったが、レジェンドたちにとって、本当に特別な瞬間があったのだと感じられるエピソードだった。

守谷キャディはこれからも多くの選手のキャディバッグを担ぐ予定だが、65歳の中嶋選手の涙は一生忘れることができないと、力強く語ってくれた。


守谷一隆(もりや・かずたか)
1959年11月29日生。福岡県出身。還暦を超えても現役で活躍するレジェンドキャディ。百貨店外商部に勤めていた1996年に、顧客だった吉川なよ子選手に誘われて初キャディを体験。その魅力に取りつかれ、サラリーマンを辞め、ツアーキャディの道へ。97年から友利勝良選手のキャディを務め、2003年JCBクラシック仙台で初勝利。その後、中島常幸選手、片山晋呉選手のほか、今は亡き具王姫選手や白潟英純選手、芹沢大介選手、秋葉真一選手、兼本貴司選手らのキャディも務めた。

取材・文/下山江美
Special Thanks/伊能恵子
企画・構成/ゴルフサプリ編集部

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