イーグルパットを入れ返して勝利した黄重坤選手の強さ
プロキャディが語る! 2019シーズン熱戦エピソード /串田雅実編
新型コロナウイルスによる“ゴルフ自粛生活”に辟易しているゴルフファンに、少しでも楽しんでいただきたい! そして、相次ぐ大会中止によって活躍の場が減少しているプロキャディの皆さんに少しでも露出できる場を創造したいという考えからスタートしたこの企画。
男女ゴルフツアー・2019年シーズンにおいて、プロキャディたちが厳選した“熱戦エピソード”や裏話などを臨場感たっぷりにお届けします!
今回、登場してくれるのは串田雅実キャディ。小山内護選手の誘いで、2006年からプロキャディの道へ。2015年から、黄重坤選手の専属キャディとなり、数々の試合に臨んできた。なかなか、勝ちきれなかった重坤選手が、久しぶりにつかんだ勝利は、鳥肌が立つようなドライマティックで強い勝ち方だった。
2020は韓国で兵役、その前にどうしても手に入れたかった優勝
韓国で行われたShinhan Donghae Open出場時には、優勝を目指したいと、二人でカップを持って記念撮影するも、予選カットと残念な結果に終わった。
黄重坤選手とともに闘った2019年、串田キャディにとって、一番印象に残っているのは、どの試合だったのだろう。
「いろいろ印象に残っていますよ。まずは、7月の「日本プロゴルフ選手権大会」。結果から言うと、プレーオフで石川遼選手に負けた試合です」
昨年、鹿児島県いぶすきゴルフクラブで行われた日本プロゴルフ選手権大会は、前日まで避難勧告が出るほどの大雨に見舞われ、練習ラウンドがまったくできない状態で、大会初日を迎えた。さらに3日も悪天候で最終日に3Rと4Rを行う形となり、3Rの組み合わせのまま、最終ラウンドを行った。
「石川選手はスコアが伸びず、ジュンゴン選手は順調にスコアを伸ばして、15番ホールでもバーディを獲って、残り3ホールで3打差あったんです。これは勝たなきゃいけないパターンです。でも、ゴルフは本当に最後まで何が起こるかわからないですよね。トップクラスのショットメーカーであるジュンゴン選手にあんな結末が待っているなんて、思いもしませんでした」
ショットメーカーであるジュンゴン選手がまさかの池ポチャ!?
16番ホールで石川選手がバーディを獲り、2打差となって、迎えた17番池越えのショートホール。安全策をとり、大きめクラブを持ったという重坤選手だったが、一度はグリーンをとらえたかに見えたショットは無情にも池に転がり落ちた。スコアはダブルボギーとなり、石川選手に並ばれた。
「最終ホールは、2人ともバーディを獲って、18番ホールでのプレーオフになったんですけど、石川選手がイーグルを決めて、復活優勝を遂げました。日本のファンには嬉しい出来事で、ジュンゴン選手にはアウェイな感じだったけど、それ以前に勝てるはずの試合で負けたことが何よりも悔しかったですね。今年、ジュンゴン選手は韓国で兵役に行くことがわかっていたので、メジャーであるジャパンプロ(日本プロゴルフ選手権大会)に勝てば、5年シードもあるし、本人も一番勝ちたかった試合で勝てなかったわけですからね」
その後の試合でも、安定したプレーを見せてはいたものの、なかなか優勝にはたどり着くことができない。
「9月に韓国で行われたShinhan Donghae Openにも一緒に出場したんですけど、試合が終わって、韓国の町でジュンゴン選手と14時くらいから、昼食のつもりが、21時くらいまで、飲んじゃって(笑)、2人で熱く語り合ったんです。彼は酔っ払いながら、『僕は雅実さんと勝ちたいです。兵役から戻ったら、またキャディやってくれますよね?』って聞いてくるんです。そこで『俺は待ってるから、とりあえず、今年、1回勝って。軍隊終わって帰ってきたら、また一緒にやろうよ』って話したんです。ポーカーフェースで淡々とプレーする印象が強いジュンゴン選手ですけど、子供っぽいところも多くて、かわいい選手なんです(笑)」
弟のように甘える一面を見せる重坤選手。とにかく、兵役に行く前に勝たせたい、串田キャディ自身の想いも強くなっていった。
尊敬する大先輩から「気合が足りない」と激励
「ジャパンプロが終わったあと、僕自身も『勝ち』からずいぶん、離れていると感じたんです。2位は山ほどあるけど、優勝がない。そこで、今は引退されていますが、以前は青木功選手のキャディを務めていた、尊敬する大先輩の中居謹蔵さんに電話して、話を聞いてもらったんです。そうしたら『お前ら結局、最終日の気合が足りないんだ!』と言われて、熱い人なので、そう言われるのはわかっていましたけど(笑) 実際に僕自身も、気合で乗っけていくタイプだったのに、良く言えば冷静だけど、悪く言えば冷めていたんじゃないかと、反省したんですよね(笑) せっかく、いい選手についているのに、どこか冷めていたかもしれないと思って、また、以前のように、気合を入れていこう! と思うようになったんです」
あと一歩のところで勝ちきれない…そんな悔しさを選手とともに味わってきた串田キャディ。再び熱い想いでバッグを担ぐスタイルに回帰することにしたという。
賞金王に輝いた今平周吾選手との優勝争いに打ち勝った!
重坤選手が、接戦を制して、念願の優勝を手に入れたのはマイナビABCチャンピオンシップだった。最終日は、首位の今平周吾選手と1打差の2位でスタートした。
「ハードな試合でした。でも、楽しかったですよ。最終組は今平周吾選手と、アメリカから帰ってきていて、前日に10アンダーという爆発的なスコアを出した小平智選手が一緒の組で、全員がショットメーカーですからね、どんどんバーディを獲っていくゲーム展開は迫力があって、面白かったです」
3番でボギーを打った今平選手だったが、5番、7番、10番、12番でバーディを獲り、再び首位へ。重坤選手は、ノーボギーでプレーしていたが、4番と6番でバーディが獲れただけで、13番を終わった時点では、今平選手に2打リードされていた。
「小平選手は、前日に爆発的なスコアが出たせいか、今ひとつバーディが獲れずにいたので、試合は完全に今平選手とジュンゴン選手の一騎打ちという感じでした」
14番で重坤選手がバーディを獲り、その差は1打に縮まった。対する今平選手は15番、16番と連続ボギーを打ち、なんと重坤選手が逆転。運命の18番ホールを迎える。
「ゴルフはよく自分との闘いって言いますけど、あそこまでいくと、相手との闘いですよ(笑) 優勝争いで負ける悔しさは何度も味わってきているし、相手は絶好調な今平選手ですからね。彼はイーグルを獲ってくると思っていたし、こっちがバーディなら並ばれてプレーオフです。絶対にプレーオフには持ち込みたくなかったし、イーグル獲らないと負けると思いました。案の定、今平選手は右手前のピンに対して、左手前のベストポジションに乗せてきました。ジュンゴン選手はピンハイで、距離は短かったけど、はっきり言って、難しいラインです。今平選手の方がシンプルなラインでやさしいと感じました」
最終18番のパー5は2人とも、2オンを果たし、イーグルチャンスにつける。今平選手のパットは約4メートルだった。
「今平選手が先に入れて、ジュンゴン選手が複雑な3メートルのラインだったんですけど、これを入れ返したんです。ずっと欲しかった優勝が手に入った瞬間です」
テレビで観ていても、鳥肌が立つくらいの結末だった。18番ホール、最後の最後にイーグルを獲り返して、優勝を手に入れた重坤選手。本当に印象に残る試合展開だった。
「2019年の賞金王になるほどの力のある今平選手と競って、打ち負かせたのも、嬉しかったです」と串田キャディ。勝てそうで勝てなかった重坤選手とともに、勝ち取ったタイトル。メジャーで負けた悔しさを跳ね返す、ドラマティックな勝利だった。
串田雅実(くしだ・まさみ)
1980年12月1日生。千葉県出身。大手ゴルフ量販店に勤務していたときに、小山内護選手に誘われ、2006年からプロキャディに。小山内選手をはじめ、平塚哲二選手、谷原秀人選手、藤本佳則選手らのバッグを担ぐ。2015年から黄重坤選手の専属キャディ。2020年は重坤選手が兵役でツアーを離脱するため、Y・E・ヤン選手のバッグを担ぐ予定だった。ゴルフよりサッカーのほうが得意という異色の存在ながら、常に選手に寄り添い、サポートしながら、元気づけるキャディスタイルで信頼も厚い。
取材・文/下山江美
写真提供/串田雅実
Special Thanks/伊能恵子 渡辺義孝(写真提供)
企画・構成/ゴルフサプリ編集部
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