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イーグルを獲るしかない状況できっちり獲れる今平周吾選手のショット力

プロキャディが語る! 2019シーズン熱戦エピソード /梅原 敦編

2020/06/30 ゴルフサプリ編集部

ツアーも開幕を迎え、新型コロナウイルスによる“ゴルフ自粛生活”が、ようやく終わりを告げた? と思える今日この頃。だが、試合はまだ少なく、元気のないゴルフファンに少しでも楽しんでいただきたい! そして、相次ぐ大会中止によって活躍の場が減少しているプロキャディの皆さんに少しでも露出できる場を創造したいという考えからスタートしたこの企画。

男女ゴルフツアー・2019年シーズンにおいて、プロキャディたちが厳選した“熱戦エピソード”や裏話などを臨場感たっぷりにお届けします!

今回は梅原敦キャディが登場。長年、藤田寛之選手の専属キャディを務め、賞金王や海外メジャーも経験したベテラン。そんな経験豊富な梅原キャディも、思わず見惚れてしまったショットを見せたのは、2018・2019年の賞金王・今平周吾選手。

昨年の「日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ Shishido Hills」。試合には負けてしまったが、正確なショットでイーグルを決めた瞬間が、今も目に焼き付いているという。

ウェッジショットのようにピンに向かったスプーンでのショット

梅原キャディの印象に深く残った2019年の試合は「日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ Shishido Hills」。堀川未来夢選手が初優勝を決めた試合で、堀川選手の優勝秘話は清水重憲キャディも語ってくれていた。この試合で、4打差で堀川選手に敗れたのが今平周吾選手で、バッグを担いでいたのは梅原キャディだった。

「最終日、14番で堀川選手がバーディを獲って、5打差に広がったんです。残り4ホールで5打差ですから、試合はもう決定的というか、緊張感がなくなってもおかしくない状況でした。迎えた15番はロングホールでしたが、今平選手はここでイーグルを獲るしかないわけですよ。バーディじゃ追いつけない。とにかくイーグルを獲らないと、試合が終わってしまうというくらい追い詰められていて……。僕的には、もう厳しいのかな? って思うくらいで。だから、少し客観的に観てしまったんです」

15番のロングホールでイーグルを獲るしか逆転のチャンスは残されていない状況。今平選手がどう攻めるのか?

ベテランの梅原キャディも“1ゴルフファン目線”で彼のショットを見守ったという。

今平選手はスプーンがあまり得意ではなかったはずだったが・・・

「実は、今平選手はスプーン(3W)があまり得意ではないようで、普段はバッグに入れないことも多かったんです。まあ、今平選手のレベルで苦手も何もないですけど。ドライバーの次のウッドは、クリーク(5W)というセッティングも多かったんです。他の選手がティショットをスプーンで打つようなケースも、クリークで打つか、ドライバーで軽めに合わせて打つ。でも、この宍戸ヒルズでの試合は、スプーンを入れたんです。特に15番はスプーンじゃないと勝負ができないと思ったんでしょうね」

15番ホール、完ぺきなドライバーショットはフェアウェイをとらえ、ピンまでは残り260~270ヤードくらい。アゲンストの風が吹いていた。

「どう、考えてもスプーンじゃないと届かない状況なのに、今平選手は『クリークでいけますかね?』みたいなことを言っているんですよ。やっぱり、スプーンで打つのがイヤだったんでしょうね(笑) 試合中も、スプーンでのナイスショットはそこまで出ていませんでしたし、できれば使いたくなかったのかもしれません。とはいえ、クリークじゃ届かない状況だったので、僕は『風もアゲンストですし、クリークじゃ2オンは無理じゃないですか?』と伝えたら、『ですよね~』と今平選手も認めて、とにかく行くしかないという状況でショットしたんです」

追い詰められた状況で放ったショットは鳥肌が立つほど完ぺきだった

決して得意ではないはずのスプーンで打ったボールは、まっすぐにピン方向に向かい、ピン右横3メートルにつけるスーパーショット。

「鳥肌が立ちましたよ。270ヤードくらいのショットが、まるでウェッジで球を操っているかのように、ピンに向かって飛んでいったんです。この人、これでイーグル獲るんだろうなあ、やっぱり天才はそうなんだ! って心の底から思いました。バーディを獲らなきゃいけない状況で獲れる人は山ほどいるけど、イーグルしかない状況で獲ってくる人は、タイガー・ウッズくらいしか、観たことがないですからね(笑)。セカンドショットを打ったときは、ほとんどギャラリーと化して、見惚れてしまいました」

数々の勝負を観てきた梅原キャディをも魅了した完ぺきなセカンドショットで、イーグル奪取は間違いない状況を作り上げた。

逆転するかもしれない…そんな風にも思えたイーグルの瞬間

「イーグルパットは絵に描いたようにど真ん中から入れました。この時点で『今平選手が逆転するかもしれない』とまで、思ったんですけど、ほんの一瞬でした(笑) 堀川選手にバーディパットを入れ返されましたからね。あれを入れ返した堀川選手もすごいですよ。普通だったらはずしていたと思います」

確実にバーディを獲る戦略で、その差を1打しか縮めさせなかった堀川選手。もし、堀川選手もイーグルを狙い、2オンのために無理をしていたら、勝負はひっくり返っていたかもしれない。

「勝負のアヤってありますよね。もし、堀川選手が違う戦略を選んでいたら、ミスを誘発して、逆転できていたかもしれない。ミスを誘い込むような完ぺきなイーグルでしたからね。今平選手は決してスプーンが得意ではないのに、今まで自分がついた選手の中でも、今回のショットは、ずば抜けてすごいスーパーショットでしたよ。会心のショットというのは、もちろんみんなあると思うんですけど、あれだけラインも出て、もうマンガみたいなショットでしたよ。あの球が出なきゃイーグルは獲れないという球を打っていました。負けたのに今平周吾という選手の凄さを感じさせてくれました。彼はこれから、ますます強くなると思いますね」

まるで、マンガのようにまっすぐにピンに向かって飛んでいくショット。梅原キャディが今平選手の凄さを感じた瞬間が、2019年のベストショットだと話してくれた。高いショット力で、男子ツアーを引っ張る存在でもある今平選手から、今後も目が離せない。


梅原 敦(うめはら・あつし)
1974年4月5日生。京都府出身。1998年の「つるやオープン」より藤田寛之選手とコンビを組み、以後15年間右腕として専属キャディを務め、14勝。賞金王、海外メジャーも経験した。2014年からフリーになり、今平周吾選手、鈴木愛選手、森田理香子選手、李知姫選手らのバッグを担ぐ。15年「サントリーレディスオープン」で成田美寿々選手と、16年「日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」では塚田 陽亮選手とコンビを組み、優勝をあげた。2020年シーズン以降は、木村彩子選手の専属キャディとして臨む予定。通算21勝。

取材・文/下山江美
写真提供/梅原敦
Special Thanks/伊能恵子
企画・構成/ゴルフサプリ編集部

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