最強スパイダーはどう進化したのか?

2026年、PGAツアーではついにマレット型の使用率が80%を超えた。大きな要因になったのがテーラーメイドの『スパイダー』シリーズだ。2025年、『スパイダー』はメジャー3勝、PGAツアー14勝を記録。2026年はメジャー2戦2勝、PGAツアー21戦8勝とさらに勢いを加速させている。ゴルフの歴史を振り返っても、ここまで勝利するパターはなかった。

最大の立役者であり、『Spider TOUR X』でマスターズ2連覇を達成したローリー・マキロイは次のように語っている。

「とにかく安定感が凄い。『スパイダー』を使うとストロークをミスしても1.8mの距離ならカップインできる。とにかくやさしい。構えた顔もイイし、打感も心地よい。同じように『スパイダー』にスイッチして結果を残しているプロがたくさんいるのも納得だ。トミー(フリートウッド)やスコッティ(シェフラー)のスタッツを見てみなよ」(ローリー・マキロイ)

2026年モデルの新『スパイダー』の仕上げはローリー・マキロイのモデルに近いラグジュアリーな雰囲気になった。形状は『Spider TOUR X』『Spider TOUR』『Spider TOUR F』『Spider TOUR V』の4機種。

『Spider TOUR X』はスコッティ・シェフラーが使っているクランクネック、ローリー・マキロイのスモールスラント、そしてダブルベンドの3タイプをラインナップ。

最強の『スパイダー』から、これ以上何を進化させたのか? テーラーメイド ゴルフ(株)ハードグッズプロダクト デピュティーマネージャーの田中桂に話を聞いた。

「今、世界のトップ選手が使っているスパイダーの良いところはそのまま継承しています。良い意味で変えなかった部分が多い。テーラーメイドのクラブは選手たちのフィードバックを聞いて次回作に反映するスタイルですが、パター、特に『Spider TOUR X』と『Spider TOUR』に関しては『このままでいい』という声が圧倒的に多かったです」(田中)

一方、『Spider TOUR V』『Spider TOUR F』の2モデルは形状を大幅に変えた。

「現在の『スパイダー』シリーズのラインナップを見たときに『Spider TOUR X』『Spider TOUR』は一つの完成形だと思っています。一方で他の形状にはまだ改善の余地がありました。『Spider TOUR V』は『スパイダー』で最もコンパクトな形状ですが、さらに後方をシャープにしてブレード感覚に近い振り感にしています。また『Spider TOUR F』は後方の中央部分を大胆にカットしてキバ(FANG)型に近い形状にしています」

さらに、『Spider TOUR TORCHED』パターシリーズに加え、新たに『Spider ZT MAX』が新登場。昨年7月に発売されたゼロトルク系『Spider ZT』の追加モデルです。

「MAXという名前のとおり、ヘッドサイズを約25%大きくしています。『Spider ZT』の慣性モーメントは5000g・㎠台でしたが、『Spider ZT MAX』は大型化と外周部分にウェイトを配置したことで、慣性モーメントが7000g・㎠を超えてきた。より直進的に動いて、ミスヒットに強いモデルになっています。」

今から18年前、初代スパイダーは「異形のパター」だと言われていた。当時はネオマレットブームと言われ、他メーカーからも斬新な形状のマレット型パターが続々と発売された。そんな中、なぜ、『スパイダー』が歴史的成功をおさめることができたのか? そこには『スパイダー』に継承される3つの哲学があった。あらためて、スパイダーが歩んだ18年を振り返ってみたいと思う。

『スパイダー』の開発者であるビル・プライスは初代モデルについて当時次のように語っていた。

「形状は不細工でもいい。選手が好む美しいパターは目指していない。世界で最も性能が高いパターを作ろうと思った。『スパイダー』が形状より大事にしたのはスタビリティ・ロール・エイム。その後のスパイダーはこの3つを根幹に開発を進めていった」

2008年発売の初代『スパイダー』は最新モデルよりひと回り大きい(写真左)。スパイダーの開発者ビル・プライス(写真右)。

その後『スパイダー』が大きな注目を集めたのは2011年の「マスターズ」。PGAツアー未勝利だった当時無名のジェイソン・デイが2位となった。使っていたのは白い『スパイダーゴースト』だった。

2代目以降の『スパイダー』の大きな進化がロールだ。初代のフェースは「AGSI +」だったが、2代目以降は「ピュアロール」を採用。ビル・プライスは次のように語っていた。

「スパイダーといえば形が注目されるけど、一番進化したのはロールなんだ。初代スパイダーについて一部の選手から『スピードが出ない』というフィードバックがあった。だから2代目以降はとにかくロールを研究した」

「ピュアロール」の特徴は溝の角度を斜め45度の下向きにしていること。パターはインパクトした瞬間にバックスピンがかかり、スキッド(滑る)してしまう。『ピュアロール』は溝を斜め45度下向きにすることでインパクトした瞬間にトップスピンをかけた。その効果によってスキッドする距離を短くして、インパクト直後からボールが順回転するようになった。「ピュアロール」を搭載したことで打ち出し角は約0.5度プラスされ、順回転は約40回転も増えた。

2026年モデルのフェースにはスパイダー(蜘蛛)のデザインが入った。フェースはピュアロールテクノロジーを搭載。

2010年代に入るとPGAツアーでも欧州ツアーでも日本ツアーでも『スパイダー』の使用者が増えていった。2015年にはジェイソン・デイが赤いスパイダーで「全米プロ」に勝利、2017年にはダスティン・ジョンソンが黒いスパイダーで世界ランキング1位になった。赤と黒のスパイダーというのが世界的に広まった。

ジェイソン・デイの「全米プロ」優勝で大ヒットした『スパイダーRED』。

2019年モデル以降の「スパイダー」には「トゥルーパスアライメント」が搭載。それが3つめの哲学「エイム」の進化だ。ローリー・マキロイが『スパイダー』を使いはじめたのは2019年。同年はPGAツアー3勝を挙げて年間王者となった。マキロイが『スパイダー』を使いはじめた理由について、ビル・プライスは次のように語った。

「ローリーはずっとブレード型を好んで使っていた。ただし、ブレード型で左に引っ掛けるミスに悩んでいた。それを解決したのが『Spider TOUR X』。当時、マキロイの使っていたブレード型パターの重心は10mm前後だったが、『スパイダー』は35mmもある。慣性モーメント、スタビリティは格段に違う。それがマキロイがパターを変えた理由だ。当初は練習のときはブレードパターを使って、試合で『スパイダー』にするときも多かったよ」

順調に進化してきて、PGAツアーでも存在感を増してきた『スパイダー』だが、2020年以降は迷走する時期もあった。

「この時期はさらに革新的な技術を取り入れて『スパイダー』を次のレベルにステップアップしようとしました。2020年モデルの『スパイダー S』は後方部分にタングステンを配置してさらに慣性モーメントを大きくした。また『スパイダーFCG』では逆に重心を前方にして、フェースをカッパーにした。2021年には、従来の『スパイダー』形状を見直した『スパイダーEX』も発売しました。しかし、この時期の『スパイダー』シリーズはツアーでもほとんど定着しなかった。売り上げも伸びませんでした」(田中)

そこから、どうやって軌道修正したのか?

「実はスパイダーの開発者ビル・プライスが引退することが決まって、もう一度最後に“これがスパイダーだ”というモデルを発売することになった。それが2024年モデルの『スパイダー』で。形状はスパイダーらしく、ロール、エイムにもこだわりました」(田中)

2024年モデルから『スパイダー』の歴史的な快進撃がはじまった。2024年はスコッティ・シェフラーが『Spider TOUR X』を使ってツアー7勝。2025年はローリー・マキロイが『Spider TOUR X』でマスターズで初優勝し、トミー・フリートウッドは『Spider TOUR』でPGAツアー年間王者になった。そして2026年は『スパイダー』旋風がさらに加速している。

2024年モデルで原点回帰した『スパイダー』は、そのままの哲学を2026年モデルにも継承している。

「スタビリティ・ロール・エイムという『スパイダー』の核心的な部分を継承しつつ、進化させています。その上で『スパイダー』が目指すのはNo.1パターブランドになることです。2026年モデルはそれを実現できると思っています」(田中)

初代『スパイダー』から18年。形や素材を変えても、性能・ロール・エイムを最優先する哲学は変わらなかった。それが『スパイダー』が一時的なヒットモデルではなく、ツアーで勝ち続けていく定番になった核心的要素かもしれない。

異形と言われたパターは18年をかけて、王者になった。


Spider TOUR V

●ネックタイプ/クランクネック
●ロフト角/3度
●ライ角/70度
●長さ/33、34インチ
●価格/5万3900円


Spider TOUR F

●ネックタイプ/クランクネック・ダブルベンド
●ロフト角/3度
●ライ角/70度
●長さ/33、34インチ
●価格/5万3900円


Spider TOUR X

●ネックタイプ/クランクネック、スモールスラント、ダブルベンド
●ロフト角/3度
●ライ角/70度
●長さ/33、34インチ
●価格/5万3900円


Spider TOUR

●ネックタイプ/クランクネック、スモールスラント、ダブルベンド
●ロフト角/3度
●ライ角/70度
●長さ/33、34インチ
●価格/5万3900円


Spider ZT MAX

●ロフト角/3.5度(スタンダード、カウンターバランス)3度(ロング)
●ライ角/70度(スタンダード、カウンターバランス)、79度(ロング)
●長さ/34インチ(スタンダード)、36インチ、38インチ、46インチ(ロング)
●価格/6万9300円(スタンダード)、7万4800円(カウンターバランス)、8万300円(ロング)