ウィニングパットを決めて初めて笑顔

1打リードで迎えた18番パー5で2メートルのバーディーパットを沈めると吉田は初めて笑顔を見せました。

「アスリートとしてあまり一喜一憂したくないですし、バーディー決めても普通の顔をしている方が相手は気持ち悪いと思うだろうから」が信条でプレー中は表情を変えませんが、さすがに初めての優勝には自然と笑顔が出ていました。

「パターが一番貢献してくれた」

優勝会見で、その初優勝に最も貢献してくれたクラブは何だったかを聞かれると「パターですね」と即答します。

「パターは調子の波が一番大きいクラブだと思うんですけど、その波が『高い位置』で上下しているだけで、ミスしても入る幅で収まってくれるから、4~5メートルになっても入ってくれるようなことが多くて、精度が高まっている気がします」と続けました。

ミスしても入る幅で収まってくれる、とはアマチュアからしたら夢のような精度ですが、それができるようになったのが「指1本」のこだわりです。

吉田鈴がこだわる、パッティングの「指1本」とは

パッティングでは一般的に曲がる度合いによってタッチを変えるものですが、吉田は常に同じタッチで打っています。

そうなるとラインの読みもシビアになりますが、ここでイメージしているラインの幅が実に細いものなのです。

アマチュアがラウンドで「カップ1個切れます」と言われたら、カップの幅のラインをイメージするかもしれません。

それを吉田は「ボールひとつ分の幅」のラインをイメージしていました。

ルーキーだった昨シーズンはプロデビュー戦の「ダイキンオーキッド」初日にいきなり2位発進して、初優勝は時間の問題と予感させたのが終わってみればポイントランキングはシードにわずかに届かない51位でした。

今シーズンは「ダイキンオーキッド」で予選落ち。

4戦目の「アクサレディス」でも予選落ちし、何かを変えなければいけないとなった状況でやったのが、パッティングでのラインの読みをさらにシビアにすること。

それまで「ボールの幅」だったラインをさらに細く。「指1本ぐらいの幅にイメージするようにしました」ということでした。

身長153センチの吉田の「指1本」はボールの1/3ぐらいの幅でしょうか。

かなり細いものになったのは間違いありません。

イメージするラインを“極細”にし、パターも替えた

これをするようになった「富士フイルム・スタジオアリス」では5位に入ります。

翌週の「KKT杯バンテリン」で予選落ちすると、次戦だった「ドコモビジネス」では、パターを「ホワイトホットOGロッシー」にスイッチします。

ここでも初日に4位発進し「これをきっかけにイメージとか、今後ずっと使えるようなラインの読みとかを覚えられたらと思います」と話していたのが試合を重ねるごとにフィットして、結果が出たということなのでしょう。

こうしたプロセスが「ヨネックス」最終日に勝負の分かれ目となった場面でも威力を発揮しました。

14番で5メートルほどのパーパットのアドレスに入った際、ちょうどラインの広報延長線付近でベビーカーが倒れるハプニングに見舞われます。

突然のことに吉田はアドレスをほどきます。

幸いにも赤ちゃんは泣かず、母親も必死にベビーカーを元に戻したものの、仕切り直しまで待つことを余儀なくされました。

それでも「しょうがないこと」と落ち着いていた吉田は気持ちを切り替えて「上りで(カップの)左縁ぐらいを狙って、インサイドじゃないとダメ」というシビアなラインのパーパットを決めきります。

この“クラッチパット”を外していたら流れは変わっていたかもしれません。

優勝会見でも「パターを替えて、一気に変わった」と話していましたが、「ドコモビジネス」以降は予選落ちもしなくなり、6試合目で初優勝という最高の結果につなげました。

パッティングの進化で女王争いへ

吉田のスタッツを見ると、パーオンホールでの平均パット数は38位(1.8400)で1ラウンド当たりが32位(29.3750)とそれほどいいわけではありません。

それが初優勝という自信を得たことでさらに進化、向上していけばこれまでのトータルバーディー数120個で9位の順位はさらに上がって成績にもつながるはずです。

初優勝でポイントランキングも7位に浮上した吉田が、今後は女王争いに加わってくる可能性は十分にありそうです。

(文/森伊知郎)