英国に着く前から、“おもてなし”が始まった!
こちらの訪問はトラブルから始まった。フライトが台風でキャンセルになり、英国到着が一日遅れたのだ。空港に着くがラウンド当日の朝となり、予定通りに到着できればスタートには間に合うが、何かトラブルがあればスタートには間に合わない。
「遅れる可能性がある」とゴルフ場にメールを送ると、その返信に驚いた。というより感動した。「まずは安全に来ることだけを考えてほしい。スタート時間は心配しなくていい。遅れた場合は時間を調整する」とまで書かれていた。不安だらけだった気持ちが、この返信で落ち着いた。
スタート1時間半前にコースに到着。大きな荷物を抱えてキョロキョロしていたのだろう。若いスタッフが笑顔で声をかけ、メンバー用のロッカールームを使わせてくれた。名門なのでメンバーの人が偉そうにしていて、海外から来たビジターは肩身の狭い思いをするのかと思っていたが、そんなネガティブな先入観はすぐに消えた。

国も世代も違う4人で18ホールを歩く!
1人で予約したため、ほかの3人と組み合わせになり、4人でラウンドすることになった。同伴者はスウェーデンから来た20代と思われる若者2人と、ボストン在住の50歳前後のアメリカ人。3人とも自分でバッグを担いでプレーしていた。
スウェーデンの2人は、日本人と話すのがほとんど初めてだという。一人が笑顔で言った。
「I love Japanese culture.」
アニメを通じて日本に親しみを持ち、いつか行きたいという。こちらは日本ではアニカ・ソレンスタムの人気が高く、ジュニアの大会も開いているというを話した。すると彼は少し誇らしそうな表情を見せた。
彼は日本への愛着を語り、僕はスウェーデンが生んだ偉大なゴルファーについて語る。ささやかなやり取りだったが、そこには何か素敵なものがあった。互いへの敬意だ。
ボストンのゴルファーとは、互いの国のコースの話になった。ボストン周辺のゴルフコースは“between the trees”、つまり木々に囲まれたホールが多いという。「それは日本のコースと似ていますね」と返すと、彼は笑顔を見せた。木がほとんどないリンクスを歩きながら、互いの国のゴルフ場について話す。こんな会話も悪くなかった。
国も世代もゴルフ環境も違う初対面の4人が、歩きながらこんな話をしている。海外でゴルフをする楽しさは、スコアカードに残らないこんなたわいもない会話にもある。

あんなに良いショットだったのに、バンカーに入っちゃうの!?
プレー中、驚くべき出来事があった。
通常営業では15番、2023年の全英オープンでは17番として使われたパー3(レギュラーティから137ヤード)。グリーンは二段。この日は上段の狭いエリアにピンが切られていた。同伴のアメリカ人はかなりの腕前で、ボールは上段のギリギリに落ちた。ナイスショット。誰もがそう思った。
ところが、ほんの少しバックスピンがかかっていた。ボールは段を下り始め、止まらない。グリーンからこぼれ、下のバンカーまで転がり落ちてしまった。
「あんなに良いショットだったのに、バンカーに入っちゃうの?」
誰も言葉にしないが、4人とも同じことを考えたに違いない。

3年前の全英オープンで、選手たちはバンカーによく入れていた。僕も今回のラウンドでポットバンカーに何度も入れたが、実際に自分でラウンドしてみてよく分かった。バンカーの周りには傾斜があり、近くに行ったボールは硬い地面を転がりバンカーに吸い込まれていくのだ。つまりバンカーに入れないために避けるべきエリアはかなり広く、このことがコースの難易度を上げている。
2006年、このロイヤルリバプールGCでの全英オープンで優勝したタイガー・ウッズは、4日間バンカーに一度も入れなかった。ドライバーは1度しか使わなかったそうだが、それにしてもこのコースを4日ラウンドしてバンカーに入れないというのはすごい技術だ。
英国を代表する名門コースのメンバーは気さくだった
ラウンド後、クラブハウスを見て回った。写真や絵画、トロフィーなど、様々なものが展示されていて歴史を感じた。
1930年にこのコースで全英オープンを制したボビー・ジョーンズの絵もあった。この年、全英アマ、全米オープン、全米アマも制して、ボビー・ジョーンズはここではグランドスラムを達成した。2006年の全英オープンを制したタイガー・ウッズの写真もあった。他にも様々な時代の名選手の絵や写真を見て、長い歴史を感じた。

ロッカールームで荷物を整理していると、メンバーの一人が気さくに話しかけてきた。僕はそのメンバーに「2023年の全英オープンを取材で訪れ、いつか自分でラウンドしたいと思っていた。今日、その夢が叶った」と伝えると、その後の会話は弾んだ。
彼がロイヤルリバプールのメンバーであることを誇りに思っているのは、話していてよく伝わってきた。ただ、その誇りが優越感としてこちらに向けられることはなかった。堂々としているけれど、偉そうではない。自信があるけれど、傲慢ではない。英国人と日本人、メンバーとビジター。そこにあるはずの壁をほとんど感じさせることなく、僕を自然に迎え入れてくれた。
後日、ロイヤル・リバプール・ゴルフクラブのスタッフの方に、「素晴らしいラウンドだった」とメールを送った。その返信にはまたしても驚き、感動した。
「ここを訪れるゴルファーの皆様が、滞在中は『ロイヤル・リバプールのメンバー』の一員として過ごしてくださることを願っています。そして、お帰りの際にはホイレイクでの思い出を胸に、ラウンド後も末永く当クラブの友人としてつながり続けていただければ幸いです」と書かれていた。















