日本で唯一、ゴルフ場名が駅名に

まず驚かされたのが、到着直前だった。入口のほぼ目の前に、神戸電鉄の「広野ゴルフ場前駅」がある。特定のゴルフ場の名を冠した駅としては日本で唯一だそうだ(以前は福岡県に「古賀ゴルフ場前駅」があったが、2007年に宮地岳線の西鉄新宮〜津屋崎間廃止にともない廃止された)。駅の開業は1936年12月28日。1932年のゴルフ場の開場から、わずか4年後である。

広野ゴルフ場前駅

調べてみると、1930年代後半の日本では、一般家庭が自家用乗用車を所有する割合は1%を大きく下回る水準だった。まだ自家用車でゴルフ場へ向かうことが一般的ではなかった当時、電車でこのゴルフ場を訪れたゴルファーも多かったのだろう。

そこで思い出したのが、第1回全英オープンの舞台となったスコットランドのプレストウィック・ゴルフクラブ(Prestwick Golf Club)だ。こちらは1番ティのすぐ隣に駅のホームがあり、電車を待つ乗客の目の前でティショットを打つ。

スコットランドでは鉄道網の発達がゴルフの普及を後押ししたと言われている。規模や歴史的背景は違っても、この廣野ゴルフ倶楽部では、鉄道がゴルフ場と人を結び、その発展を支える大切な役割を果たしていたのかもしれない。

日本では見慣れない“ウェストエリア”が多いコースは、想像以上に激ムズ!

クラブハウスの2階から、コースが見渡せる。

初めて目にしたコースは、隅々まで美しく整備されている。ところが、どこか荒々しい。バンカーは日本で見慣れた丸みのある形とは違う。エッジがギザギザなのだ。

その景色を見て、なぜか一つのコースが頭に浮かんだ。行ったことはないが、YouTubeの動画や写真で何度も食い入るように見てきたコースで、世界No1と言われる米国のパインバレーゴルフクラブである。

廣野は完成後まもない時代から「日本のパインバレー」と呼ばれていたと聞いたことがあった。その理由が、実際にコースを目の前にして少し分かった気がした。

しかも、両コースには設計上のつながりもある。

パインバレーGCを中心となって設計したのはジョージ・アーサー・クランプ。ハリー・コルトをはじめ多くの著名な設計家がその設計に関わり、クランプが亡くなった後には、廣野を設計したC.H.アリソンもコースの改良・完成に向けた計画に携わっている。

そのアリソンが1931年に廣野の地を訪れ、神戸のオリエンタルホテルの一室に3日間こもってレイアウトを完成させた。そして2019年の改修では、マーティン・イーバートが原図や古写真をもとにリノベーションを行った。

パインバレーGCには、ティショットで200ヤードほどキャリーしないとフェアウェイに届かないホールがあると聞いたことがある。その話をふと思い出したのが、3番のティだった。

目の前に広がるのは、砂と植生が入り混じった荒々しいウェストエリア。フェアウェイは、はるか向こうにある。

「ここで、たまに出るチョロやテンプラが出たら……」

考えただけでも恐ろしい。

これまでプレーした日本の名門には、一度くらいのミスなら「まあ、次がありますよ」と優しく受け止めてくれるコースも多かった。しかし、廣野は違う。

「下手はお帰りください」

もちろん、そんな看板が立っているわけではない。それでも、ティーに立つと、そう言われているような気がしてくる。

3番ホールティーイングエリアからの景色。

13番ホール(Par3)も忘れられない。

ティーイングエリアに立つと、遠くにグリーンが見える。その手前には池が広がり、さらにグリーンの左右と奥には、複雑な形をしたバンカーが待ち構えている。この景色そのものがプレッシャーをかけてくる。

「しっかりしたショットを打たなかったら、容赦なく大叩きだぞ!」

コースから、そう脅されているような気分になる。

そして筆者のボールは……

当然、グリーンには乗らなかった(笑)。

13番ホール(Par3)

手強いコースとは対照的! ホッとさせてくれる廣野の“おもてなし”

そんな手強いコースとは対照的に、ホッとさせられたのが人と食だった。

クラブハウスは外観こそ重厚で、初めて訪れる者にはちょっとした緊張感を与える。「日本を代表する名門に来てしまった」と、こちらも自然と背筋が伸びる。

クラブハウスの入り口。

ところが、中に入ると印象はすぐに変わった。

スタッフの皆さんはビジターにもとてもフレンドリー。到着時には廣野のロゴ入りシューズケースをいただき、帰りには廣野オリジナルのバッグタグまで付けていただいた。海外の名門コースでは、こうした“お土産”をいただくことがあるが、日本ではなかなか珍しい。

そして、食事にもいい意味で驚かされた。

朝に食べたのは、名物のタマゴサンドトースト。ハムと卵にピクルスを添えた、いたってシンプルな一皿だ。

でも、これがうまい。

朝食メニューのタマゴサンドトースト。

ランチも決して豪華さを競うようなメニューではない。むしろ庶民的だ。でも、それがいい。

名物の焼き飯に至っては、こちらが「ストップ」と言うまで皿に盛ってくれるという、50年以上生きてきて初めて体験したシステムだった。

「もう少し。もう少し……。はい、そこまで!」

日本を代表する名門コースで、まさか焼き飯の盛り付けを自分で止めることになるとは……。

こんな素朴で楽しい“おもてなし”は初めてだった。

ちなみに、筆者が食べ切れなかった焼き飯は、同じ組で一番よく食べる人がきれいに引き受けてくれた(笑)。

日本には、豪華な料理でもてなしてくれるゴルフ場も多い。しかし、廣野の“もてなし”は、どうやらそこではない。

廣野はコースそのものが“アート”

もう一つ特筆すべきことがある。廣野の景色そのものだ。

美しい松林に囲まれたフェアウェイ。ギザギザと複雑な形をしたバンカー。景色に溶け込む池。自然の姿をそのまま残したようなウェストエリア。そして石造りの橋。

それらが一つの風景として目の前に現れると、単に「美しいコース」という言葉だけでは足りない。

まるで一枚の絵を見ているようだった。

美しい。でも、難しい。

難しいから怖い。でも、もう一度プレーして、美しい景色をまた見てみたい。

そしてラウンド前後の、ホットサンドや焼き飯、スタッフの皆さんの温かさも、この場所を魅力的にしている重要な要素だ。

日本一とも言われる廣野ゴルフ倶楽部で強く印象に残ったのは、豪華さでも、格式の高さでもなかった。

“激ムズ”だけど、まるでアートのようなコース。そして、ホッとするおもてなし。

それが、廣野ゴルフ倶楽部だった。

練習グリーン近辺。廣野はどこを切り取っても美しい絵になる。