ゴルフファンの記憶に残る“カーヌスティの悲劇”

カーヌスティといえば、18番ホールの“悲劇”を思い出す人も少なくないだろう。1999年の全英オープン最終日、フランスのジャン・バンデベルデは、後続に3打差をつけて最終ホールを迎えた。ダブルボギーでも優勝できる状況だった。

ところが、ティショットを大きく右に曲げると、2打目はグリーン脇の観客席に当たって跳ね返り、深いラフへ。そこからの3打目が、グリーン手前を横切る小川、バリーバーンにつかまってしまう。靴も靴下も脱ぎ、水の中に立って打つべきか思案する姿は、ゴルフ史に残る光景となった。

結局、水中から打つことは諦め、1罰打を加えてドロップ。しかし、5打目はバンカーへ。そこから寄せて1パットで収めたものの、トリプルボギーの「7」をたたき、3打のリードを失った。ジャスティン・レナード、ポール・ローリーとの3人によるプレーオフに持ち込まれ、優勝はローリーの手に渡った。

その8年後、2007年の全英オープンでも、最終日の18番でドラマが待っていた。1打差の単独首位でこのホールを迎えたパドレイグ・ハリントンは、ドライバーで放ったティショットを右のバリーバーンに入れてしまう。さらに、ドロップ後の3打目も再びバリーバーンへ。それでも、5打目を寄せて1パットで沈め、ダブルボギーの「6」で踏みとどまった。後続のセルヒオ・ガルシアも18番をボギーとし、勝負はプレーオフへ。ハリントンはこれを制し、メジャー初優勝を飾った。

バリーバーン。

2018年の全英オープンを取材。さらに2024年に自らプレーして“現場検証”

2018年、全英オープンの取材でカーヌスティを訪れた。最終日はタイガー・ウッズが久しぶりにメジャーで優勝争いを展開し、会場は大いに沸いた。優勝したのはフランチェスコ・モリナリ。なお、この年はバリーバーンでの大きな悲劇は起こらなかった。

現地で実際にバリーバーンを見た僕は、少し意外に感じていた。それほど厄介な場所にあるようには見えず、よほどのミスショットでなければ入らないのではないか、と思えたのだ。

なぜ、世界のトッププロが、ここであのような悲劇に見舞われたのか。

その疑問が、僕をもう一度“現場”へと向かわせた。6年後、僕は自分のクラブを手に、カーヌスティに立っていた。今度は取材者ではなく、プレーヤーとして。

“現場”から見る景色はフェアウェイからと、まるで違った

18番ティーイングエリアからの景色。

プレーヤーとして18番ティに立ったが、正直、それほど難しいとは感じなかった。むしろ、17番までの方がプレッシャーを感じるホールが多かったように思う。距離のあるパー4だが、フェアウェイが特別に狭いわけではない。世界のトッププロが、なぜあれほど右に曲げてしまったのだろう。

やはり、優勝がかかったプレッシャーなのか……。

では、ラフからの3打目をバリーバーンに入れてしまったのはなぜか。気になった僕は、バンデベルデがプレーしたのはこのあたりだろうかと、右のラフにも足を運んでみた。すると、そこからの景色は、フェアウェイから見えるものとはまるで違っていた。

ラフが続き、その先にはバリーバーンがある。そしてその先にはバンカーがあり、グリーンをオーバーするとOB……。この日18ホールをラウンドした中で、最も難しいシチュエーションだった。

優勝を目前にして、ティショットをミス。そしてセカンドショットもミス。その先で待っているこの厳しい光景が、さらにプレッシャーを大きくしたのか。もちろん本人の胸の内は分からないが、その怖さは、その場所に立ってみて実感できた。

写真の右手前あたりが、バンデベルデが3打目を打った場所。

人の心は揺れ動くが、バリーバーンの水は静かに流れ続ける

バリーバーンにも近づいてみた。水量はそれほど多くなかった。それでも、覗き込んだ僕は「ここに入ったら、とても打てないな」と感じた。

ここで靴も靴下も脱ぎ、水に入って打とうと考えたのか。当時とは水量もボールの状態も違うだろう。それでも、あの姿を思い浮かべると、バンデベルデはどれほど動揺していたのだろうかと、想像せずにはいられなかった。

一方で、彼は最後には水中から打つことを諦め、1罰打を受け入れた。その後も苦しみながら、プレーオフに踏みとどまった。“悲劇”として語られることが多いが、あの状況から優勝の可能性をつないだこと自体、並大抵のことではなかったのだと、あらためて感じた。

1999年のバンデベルデも、2007年のハリントンも、この小川に翻弄された。しかし、“悲劇”の現場を確かめに来た僕の心に最後に残ったのは、バリーバーンの、あまりにも穏やかな姿だった。

僕には穏やかに見えるこの風景が、あの日のバンデベルデには、どのように見えていたのだろう。

会場を埋めたギャラリーや、テレビの前の世界中のゴルフファンが息をのみ、一人のゴルファーが優勝を目前に苦しんだ。その場所が、今はこんなにも静かだ。

人の心は揺れ動く。その傍らで、バリーバーンはわずかな水をたたえ、ただ静かに流れ続けている。

わずかな水をたたえ、ただ静かに流れ続けているバリーバーン。