「AIはほとんど使っていません」

「日本からスタートしてみてはどうか?」

そう提案したのはアダム・スコット。世界中のツアーで圧倒的なツアー使用率を誇る『プロV1』だが、米国以外の国から本格的なツアー検証が始まるのははじめてのことだった。

なぜ、日本だったのか? 理由はいくつか考えられる。一つは10月2週に開催される「ベイカレントクラシック」がタイミングとして良かったこと。また、ここ数年は日本のプロツアーやアマチュア競技においてタイトリストの使用率が高くなってきたことも理由だろう。

「ベイカレントクラシック」の練習場には「白い箱」に入った新『プロV1・プロV1x』があり、試合に出場するPGAツアーのトッププレーヤーが続々とテストしていた。

選手たちの反応は上々だった。アダム・スコットは次のように語っていた。

「ショートゲームのスピン量がすごくいい。前のモデルより少し増えたかな。打感もいいね」

また、ジャスティン・トーマスは打感とスピードの違いを感じていた。

「すごくソフトな感覚なのにかなり初速が出ていた。SOFT FAST(ソフト ファスト)だね」

練習場ではサヒス・ティーガラ、マックス・ホーマなどトップ選手が続々とテストをしていた。

「新しいボールのテストをするのはすごく楽しみ。いつも、次はどんなボールを持ってきてくれるのかワクワクしているよ」(ジャスティン・トーマス)

PGAツアーで約70%の使用率を誇る『プロV1ファミリー』。2年に1度の新製品開発はどのように行われているのか? 今回はツアー検証だけではなく、タイトリスト本社からボールの開発・検証に携わる2人のキーマンが来日。さらにジャスティン・トーマスもゲスト参加するイベントが開催された。

タイトリストのボール開発には9つの段階がある。それは哲学とも言えるメッセージからはじまっていた。

  1. すべてはゴルファーから始まり、ゴルファーに辿り着く
  2. ゴルファーのフィードバックを集める
  3. ゴルファーのフィードバックを分析・理解する
  4. ノーススター(北極星)を設定する
  5. プロトタイプの開発
  6. ロボットテスト
  7. プレーヤーテスト
  8. 製品最終化
  9. プレーヤーによる検証(ツアーロンチ)

特に開発期間において重要なのが「5、6、7」。プロトタイプを開発してロボットテストをして、プレーヤーに試してもらう。そのフィードバックから再び修正するという地道な作業を繰り返す。

その過程において重要な役割を担っているのがタイトリストでのキャリアが30年以上のフォーディー・ピッツ。初代『プロV1』から携わり、開発チームとツアーをつなぐ重要な役割を担っている。選手にボールを届けるときは、あえて説明しないそうだ。

「選手には先入観を与えないようにしている。選手が正直にどのように感じたかを聞くことが非常に重要です」

ジャスティン・トーマスはボールのテストについて次のように語っていた。

「本当に何の前触れもなく、フォーディーが近づいてきて、『ちょっとこのボール打ってみて』と言ってくる。全く情報はない。だから、いつも打った感覚や感じたことをそのまま伝えているんだ」

プロトタイプはどのくらい作っているのか?

「最初に20、30個くらい作ります。それを1個ずつロボットテストして、様々な数値を確認。選手にわたす段階では1、2個までしぼります。あまり多くの選択肢があると、選手も迷ってしまうし、改善すべきポイントがわかりにくくなってしまうからです」

開発段階でAIなどは使っていないのか?

「タイトリストではロボットやプレーヤーが打つことを非常に重視しています。AIやシミュレーションでは空力の部分において、まだ難しい部分がある。そもそもゴルフは屋外でプレーするもの。風があり、グリーンには芝があって、どういう結果になるのかを確認しないといけません」

フォーディー・ピッツはタイトリストに入社して30年以上。そのうち26年以上はゴルフボールR&Dに携わってきた。

タイトリストのボール開発チーム(ゴルフボールR&Dチーム)は約80名。今回来日したプロダクトマネジメントディレクターのフレデリック・ワデルにはタイトリストの独特のテーマであるノーススター(北極星)について質問した。

「たくさんの選手からのフィードバックをもとに開発チームがどのような方向性に向かっていくかを決めるのがノーススター。27年モデルのノーススターはフィール、フライト、スピンです。ちなみに前作はロングショットとショートゲームのスピン量のバランスがノーススターでした」

2012年に入社したワデルは、今回で8度目のモデルチェンジに携わる。その過程では、『プロV1』と『プロV1x』のスピン量が逆転したターニングポイントがあった。その理由は?

「2017年モデルだね。あのときは意図的に何かを変えようとしたわけではないんだ。プレーヤーが何を求めているのかを追求していったら、そこに辿りついた。本当に“すべてはゴルファーから始まり、ゴルファーに辿りつく”という過程のひとつです」

フレデリック・ワデルはプロトタイプの開発から製品化、さらに発売後のライフサイクルまで、幅広くボール部門を統括している。

世界中のツアーで使用率No.1を獲得しているタイトリスト。選手にそのボールを渡しているフォーディー・ピッツは意外な話をしてくれた。

「この仕事をしていて、一番難しいのは大会で勝ち続けて、素晴らしい成績を残しているプロにボールを変えようと提案することです。非常に難しくてセンシティブ。プロゴルファーがどれだけの努力をしているのか世の中の人は知りません。私はそれを間近で見ています。そんな選手たちに『新しいボールが出たから、こっちのボールを使ってください』とは軽々しく言えません。そこにこの仕事の難しさがあります」

フォーディー・ピッツはそう語っていたが、「ベイカレントクラシック」の練習場では多くの選手がテストをはじめ、試合で使いはじめている選手もいる。そこには“ゴルファーのために”開発された確かな進化が隠されている。

27モデルはサイトラインも新しくなっている。