ゴルフクラブ「キャロウェイ エピックフラッシュ」の開発ストーリー秘話|ギアモノ語り
ゴルフクラブの開発で初めてAIを導入したことで話題になっている キャロウェイの『エピック フラッシュ』。2年前に世界中で大ヒットした『GBB エピック』の後継モデルであるが、なぜ、今回はAIなのか?
AIとスーパーコンピューターによって、通常では約34年かかる解析を経て誕生したフラッシュ フェース。その開発秘話を今回は米国本社で3人のキーマンに取材した。
エピックフラッシュのAIフェースが導く未来の飛び
アラン・ホックネル(キャロウェイゴルフ・カンパニー R&D担当 上席副社長)
最初から“AIありき”の開発ではなかった。目的はあくまで、『GBB エピック』や『ローグ』を超えるボールスピードを追求するためだった。
長年、開発部門のトップを務めるアラン・ホックネルに話を聞くと、「前作の『エピック』ではジェイルブレイク テクノロジー(2本の柱)という革新的テクノロジーでボールスピードを上げることに成功しました。今回は、それを超える最速のボー ルスピードを目指しました。そのときにヒントになったのが約4年前から導入し、インパクト解析で使っていたAIです。実はこれまでもインパクトデータのシミュレーションでAIを使っていて、その際にはデータはもちろん、“こういう箇所を改善したほうが良い”というアドバイスがあった。だから今回は、AIに修正ではなく、ゼロからデザインさせてみたら面白いのではないか、というのが開発の原点でした」
そして、AIには3つの指令を出すとともに、ウェイトの制限をしなかったと語る。
「3つの指令は、ボール初速を最大化すること、そしてルール適合であること、最後は耐久性があることです。実は、そこにウェイトの制限はしませんでした。長年、キャロウェイではフェースを軽量化することでフリーウェイトを得て、そこから新しいテクノロジーを開発してきましたが、今回はボールスピードに特化するために、あえてフリーウェイトは要求しませんでした」
その結果、AIがデザインしたフェースを最初に見たときに、アランは「サプライズでした(笑)」と語る。1998年から開発部門で数々の革新的テクノロジーに携わり、2009年から開発部門R&Dのトップを務めるアランにとっても驚くべきフェースデザインだったようだ。
エピックフラッシュはフリーウェイトを追求しないことで、薄さの常識を超えた。
VFTフェース
歴代のキャロウェイのドライバーに採用されてきたVFTフェースやハイパーボリックフェースは中央部分にX型の双曲線があり、中央部分を厚く、周辺部分を薄くすることで、ミスヒットに強いフェースを追求してきた。
GBB エピック(2017)
2017年に発売された『GBB エピック』 でも、X型の双曲線は継承されていて、わずかに中央部分が厚い。左右対象のフェースデザインになっていて、『エピック フラッシュ』に比べるとシンプルな形状になっている。
エピックフラッシュ(2019)
AIがデザインした『フラッシュ フェース』はフェース上下の外周部分に極端に厚く、盛り上がった部分があり、中央部分が薄い。全体的に波を打ったような凹凸で、左右非対称の構造になっている。
製造工程もすべて変えた。チタンの鍛造フェースを高温の熱処理でより強く。
なぜ、開発部門のトップであるアランはAIのフェースに驚いたのか?
「SLEルール以降(2008年)、我々の常識ではフェースセンターを厚くして、外周部分を薄くするのがセオリーでした。しかし、AIが約1万5000個のバーチャルプロトタイプを経て完成させたフェースを見ると、センターが薄くて、外周部分に極端に厚い部分がありました。これは適合時代のドライバーにはない発想でした。しかし、実際にテストすると、確かにルール適合でありながら、驚くべきボールスピードが出ることがわかったのです」
その理由について、AIによるフェース開発を担当したエンジニアのジム・セルーガは、ある分析をしていた。
「私も最初に見たときは衝撃でした(笑)。しかし、よくフェースを見ると外周部分からセンター部分にかけて厚い部分、薄い部分、また厚い部分、薄い部分と二重の構造になっていて、これが二重トランポリンのような効果を生むことでボールスピードを上げていることがわかりました。もちろん、フェースセンターを薄くすればボールスピードが上がることはわかっていましたが、今まではルール適合の問題や耐久性の面からセンター部分は厚くしていました。しかし、AIはフェースを重くすることで、その課題をクリアしていたのです」
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ジム・セルーガ(キャロウェイゴルフ・カンパニー R&D プリンシパル コンセプト エンジニア)
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エヴァン・ギブス(キャロウェイゴルフ・カンパニー R&D ウッド シニアマネージャー)
開発部門でウッドを担当するエヴァン氏は、この先の製造・生産の工程にも新しい挑戦があったと語る。
「今回の開発で最も大変だったのは、AIがデザインしたフェースを製品化することでした。今までにない幾何学的で複雑な形状を忠実に再現するために、まずは鍛造でフェースを作ることになりました。もちろん、最近は鋳造の技術も上がっていますが、今回のような左右非対称で複雑な構造を緻密に再現するには鍛造が必要でした。初代の『エピック』や『ローグ』などはすべて一体型の鋳造です。もちろん鍛造にはコストがかかりますが、メリットとしてはより反発性が高くなる。しかも、今回は595度で熱処理をすることで、さらに強度を増しながら、反発性も相乗効果で高まりました」
また、フェースが重くなったことで、今回はボディを軽量化し、重心を最適化しなければならなかった。
「クラウン部分には『GBB エピック』に採用したトライアクシャル・カーボンを使っていましたが、実は前作とは違うレジン素材を使うことで強度を増しながら軽量化してフリーウェイトを得ています」
AIというキーワードに注目が集まっているが、実は製品化までにはキャロウェイの開発部門の技術が集約されていたのだ。
クラウン部分のトライアクシャル・カーボンは、初代『エピック』(写真上)より強度の高いレジン素材を使うことで、さらに強度を高めて、軽量化。『エピック フラッシュ』(写真下)は、カーボンの編み込みも細かくなり、より構えやすく進化。
世界の一流プロがエピックフラッシュで体感した400ヤード越えの一打
ザンダー・シャウフェレ
実は今回の米国取材は昨年11月に行ったもの。その際にアランは、「すでに2019年シーズンに向けて、ツアープロがテストをしていますが、ボールスピードが5m/s以上も上がった選手もいます。発表前からキャロウェイの契約外の選手からも“打ってみたいな”という声があって、ツアープロにはクチコミで話題になっているようです」
2019年になると、その言葉を証明するかのように月1週の「セントリートーナメント オブ チャンピオンズ」では衝撃の結果が出た。
その試合で『エピック フラッシュ サブゼロ』を使ったザンダー・シャウフェレは、最終日には11アンダーというビッグスコアを出して優勝。また3日目には、405ヤードという驚異的な飛距離も記録していた。
ツアー担当者によると、ザンダーは「ボールスピードが時速4マイル(約1.8m/s)上がって、しかもスピン量が減っていました」と絶賛していたそうだ。
さらに、日本男子ツアーの初戦「SMBCシンガポールオープン」でも石川遼が『エピック フラッシュ サブゼロ』を使用していたが、昨年12月のメディア向け試打イベントでは、すでに12月から試合で使っていたことを教えてくれた。
「第一印象としてはすごい振りやすいと思いました。今まで、ドライバーを変えるときは練習場で試して、その後に練習ラウンドをしてから試合で使いましたが、今回は完成度が高かったので、すぐに使いました」
トラックマンで、実際に打球データを測定した石川は、「すごくインパクトが力強い感覚で、キャリーで7、8ヤードくらい平均して飛距離が伸びていた。クラブの性能で7ヤード伸びてくれるのは、新ドライバーが背中を押してくれる感じです」
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石川 遼
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上田桃子
また、上田桃子も、すでにテストを始めていて、「女子はキャリーが出ないので、ランで稼ぐ弾道なのですが、『エピック フラッシュ』だと男子プロのような高い弾道でロースピンの強いボールが打てます。すごく男前な弾道だと思いました(笑)」
この3人はキャロウェイのスタッフ・プレーヤーだが、すでにPGAツアーでは世界のトップ選手で契約外の選手も『エピック フラッシュ』を使用。2017 年に発売された『GBB エピック』も世界中で大ヒットしたが、今年の『エピック フラッシュ』はそれを超える大ヒットになるかもしれない。
1982年の創業以来の哲学 “明らかに優れていて、その違いを楽しめる”という開発理念は『エピック』の時代も継承されている。
『GBB エピック』では2本の柱は円柱型だったが、『エピック フラッシュ』では『ローグ』から継承された真ん中部分が細い砂時計型を採用。
■キャロウェイ エピックフラッシュ スター/サブゼロのスペック
《エピックフラッシュ スター ドライバー》
- ヘッド体積:460㎤
- ロフト:9.5、10.5度
- クラブ長さ:45.75インチ
- クラブ総重量:約293グラム(スピーダーエボリューション for Callaway-S)
- 価格:77,000円+税~
《エピックフラッシュ サブゼロ ドライバー》
- ヘッド体積:460㎤
- ロフト:9、10.5度
- クラブ長さ:45.25インチ
- クラブ総重量:約310グラム(ツアーAD SZ-S)
- 価格:77,000円+税~
GOLF TODAY本誌 No.561 90〜95ページより