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8代目でも右肩上がり! なぜ『SM8』のツアー使用率は50%を超えたか?

スピン性能の先にある技術にボーケイウェッジの秘密があった!

2020/08/28 ゴルフサプリ編集部

はじめてボーケイウェッジが米国PGAツアーの使用率No.1を獲得したのは2004年。それ以来、15年連続で使用率No.1をキープしているだけでなく、ここ数年は使用率が右肩上がりで伸びている。19年には年間平均使用率は49%を超え、20年は過去最高使用率57%を記録した試合もあった。

ちなみに今年はボーケイウェッジ使用プロの約8割が『SM8』を使っている。なぜ、『SM8』になって、さらに使用率が伸びたのか? 今回はその秘密をボーケイ氏とともに仕事をするタイトリスト事業本部の黒野隼氏と、日本ツアーの現場でツアープロを担当する岩国誠之氏という日本のキーマン2人に聞いてみた。

選手がスピン量より求めていたものとは?

タイトリスト事業本部・黒野隼氏。

昔からボブ・ボーケイ氏はよくツアー会場を訪れていて、PGAツアー選手とも積極的にコミュニケーションをとっている。本誌の海外取材班も長年にわたり、1月の「ソニーオープン」やメジャー大会の会場でボーケイ氏が選手とウェッジのテストをしているのを取材していた。

黒野「元々、ボーケイ氏は選手の声をすごく大切にしています。だから新製品の開発でも素材やテクノロジーありきではなく、選手やゴルファーのニーズに応えるためのウェッジを作り続けてきました。ツアー使用率No.1を継続しつづけているのは、そのニーズへ確実に応えてきた証だと思います」

PGAツアーのトップ選手からはどんなリクエストが多いのか?

黒野「選手からのフィードバックも、ここ数年で変わりました。昔は弾道、フィーリング、スピン量といったウェッジの3大性能を求める選手が多かったですが、最近はそれに加えて“統一感”を求める声が多くなりました。その統一感とは距離や弾道、スピン量が適正なだけでなく、ヘッドデザインにおいてもサンドウェッジとロブウェッジで見た目にギャップがなく、統一されているということです。『SM8』では球筋だけでなく、形状も含めてロフトが違っていても統一性があることを追求しました。ツアーでのシーディングが始まると、選手からもすごく評価が高かったので1月の時点で多くの選手が『SM8』にスイッチしてくれました」

ボーケイ氏にはウェッジデザインにおいて大事にしている3つの方針があるという。

黒野「ボーケイ氏には明確な方針があります。スコアリングパフォーマンスを追求し、スコアに結びつく性能を実現するためには常に次の3つを根幹にしています。一つは多様性のあるショットが打てること。ウェッジはトラブルからのリカバリーで使うことが多い。ラフだったり、傾斜だったり、バンカーだったり、だからこそいかなる状況でも良いショットが打てるウェッジにしないといけません。二つめは飛距離の精度。フルショットでもピッチショットでもロフト通りの飛距離が常に安定して打てるようになれば、それはスコアメイクにつながります。3つめがスピン性能です」

ただし、スピンについての考え方も以前とは違うそうだ。それも選手の声がきっかけだったと語る。

黒野「2010年の新溝ルールが施行される以前は、選手のイメージも『切ってスピンをかける』タイプが多く、ピンチの場面では思いっきりフェースを開いてスピンでギュギュッと止める選手もいました。今は『全てのショットでしっかりフェースに乗せてスピン量を安定させよう』という選手が多くなりました。スピン量が多かったり、少なかったりするよりも、スピン量が一定になる方がスコアメイクしやすくなったからではないでしょうか」

フェースに乗せるカギは重心にあった!

安定したスピン性能のカギを握るのは溝が重要だと思っているゴルファーは多いし、実際にゴルフメーカーでも溝にこだわったウェッジを追求しているところもある。しかし、ボーケイ氏は溝だけでなくヘッド重心にも着眼した。

黒野「スピン性能と言うと、すぐに溝の話になります。もちろん、ボーケイウェッジでもロフト別に溝の幅を変えるなど独自の設計でスピン性能を高めていますが、それだけではありません。選手がスピンをかけるイメージが『切る』から『乗せる』になったとき、着目したのが重心です」

フェースに乗る時間を長くしてインパクトを安定させるには、ヘッドの重心でボールをヒットすることが理想。ボーケイウェッジでは2016年の『SM6』から、ロフト別の重心設計にこだわってきた。18年モデルの『SM7』ではより打点位置とヘッドの重心が近くなるような重心を実現。そして20年モデルの『SM8』では、重心をフェースの前方にする浅重心化によって、インパクトでフェースがスクエアに戻ってきやすくなり、適正なインパクトロフトによってフェースに乗りやすくなっていた。『SM8』の開発段階では『SM7』のウェッジの前側に特殊なウェイトをつけて、浅重心をテストしていたようだ。

黒野「見た目はかなりユニークですが、『SM7』のネック側とトゥ側にウェイトをつけて、『SM7の浅重心版』をテストしたら、通常の『SM7』に比べて明らかに芯に当たりやすく、弾道もスピン量も安定しました。そして、最も多くのテスターが打感を評価したのです。これらの検証が『SM8』開発の方向性につながりました」

選手からの反応について岩国氏は、

岩国「今回の『SM8』で浅重心化したことで、選手からは『初めて打った1球目からフェースセンターに当たる!』と言う意見が増えました。これはプロだけでなくアマチュアの方からもよく聞かれます。それも重心による効果です。フェースの打ちたいところに重心があることで、インパクトでは自然にフェースがスクエアに戻しやすくなったのです。結果的に打点位置やスピン量が安定したのです」

ツアープロ担当・岩国誠之氏

グラインドの始まりは、ストリッカーのS

ボーケイウェッジではソール形状の違いによるグラインドバリエーションの豊富さも特徴の一つ。『SM7』以降にDグラインドが追加されて、計6つのグラインドを展開しているが、その発端も選手の声だった。

岩国「最初から豊富なバリエーションがあったわけではありません。始めは、ボーケイさんが作っていたウェッジは基本的なFグラインドのみでした。そこからツアー会場で、色んな選手からフィードバックがあったり、選手の悩みを聞くようになりました。そして、スティーブ・ストリッカー選手からの「ソールが後ろで当たりすぎる」という悩みに応えて具現化したのが、Sグラインドです。また、バンカーイップスに悩んだ選手の声から誕生したのがソール幅の広いKグラインドでした。現在ある6つのグラインドも、全てツアープロの声から生まれた形状です。もちろん、選手も色んなタイプがいて、色んなリクエストがありますが、6つのグラインドと46度から62度までのロフトバリエーションによって約8割の選手をカバーできるようになっています」

また、6つのグラインドを揃えたことによって個々の選手へ素早いサポートができるだけでなく、細かなニーズにもより高いクオリティで応えられるようになった。こうしたことも、選手たちの“ボーケイ ・ウェッジ”に対する信頼を高める要因になっていることは言うまでもない。

ツアープロから圧倒的な使用率を誇るボーケイウェッジ。
それはボーケイ氏が選手の声やリクエストを聞きながら開発してきただけではない。ボーケイ氏のウェッジが、本当に選手の声を叶えていたからこそ、PGAツアーの現役選手の約半数がボーケイウェッジを使っているのだろう。

取材・文/野中真一
撮影/相田克己