NEWING|商品のネーミンングの妙
商品開発はドラマ!!!|今だから言える驚きのストーリー[第1回]
ゴルフメーカーの商品開発におけるドラマチックな業界裏話をメーカー勤務経験のフリーライター・嶋崎平人が語る連載企画。今回はブリヂストンがリリースした大ヒットボール「NEWING」が主役のストーリー。
GOLF TODAY本誌 No.584/68ページより
NEWING|商品のネーミンングの妙
確かに「誰にでもとばせる!」ボールができたのだが!?
「なんでNEWING(ニューイング)なんだ!」
ブリヂストンスポーツの技術陣が今までにない、新しい3層構造の3ピースボールを開発した。その商品名がである。新しいボールは糸巻きでもない、2層構造の2ピースボールでもない、新概念の3ピースボールであった。技術陣が開発に10年以上を費やした自信作である。
アベレージゴルファーにとり、それまでの2ピースボールは飛ぶが硬い打感で、ミスヒットに弱い欠点があった。新しいボールは、発想の転換をしていた。アベレージゴルファーが求める「大きな飛距離」と「ソフトなフィーリング」、「ミスに強い」ことを実現するために、二重カバー構造で、高反発でソフトなコアとカバーとの間に、弾力性と復元力に優れた2つ目のカバーを設けた革新的な3ピースボールであった。
インパクト後の変形によるパワーロスなしに、蓄えられたエネルギーをボール初速に変え、飛びとやわらかい打感を実現した。テストでも打感がやわらかく、ヘッドスピードに関係なくミスヒットにも強く、誰にでも飛ばせると高評価であった。
発売に当たり、ブランド・商品名は重要である。商品企画部門の腕の見せ所である。
1993年、ブリヂストンスポーツは販売部門と親会社ブリヂストンが持っていたスポーツ企画・開発・製造機能を統合して、会社の体制を一新したばかり。新生ブリヂストンスポーツとしてこの大型新商品に力が入っていた。そこで、出てきた商品名が「NEWING」であった。
「なぜ!」、特に技術陣から否定的な声があがった。この商品名は曰くつきであった。「NEWING」の登場は、実は2回目であった。1回目は、この新しいボールを遡ること7年前の1987年11月「ALTUS NEWING」の名前で2ピースボールを発売した。新しい432ディンプルを採用し、高反発強化カバー、特許の配合技術で反発の良いコアを持つ期待の商品であった。ネーミングもNEW(新しい)+WING(翼・飛行)を組みあせた「NEWING」で、新世代の新感覚をもったゴルファーにアピールしようとしていた。
価格も当時の一級品の中心価格帯(700円~800円/個)を下回る600円/個に設定し、「機能性」、「ファッション性」、「経済性」まで配慮した新しいゴルフスタイルの提案で、パッケージも斬新。月間8万ダースの目標を掲げていた。商品名についても、良い名前を考えても、誰かがすでに商標を登録していれば使えない。名前の「NEWING」は幸いに発売前の6月に特許庁から認められ登録された。順風が吹いていた。満を持して11月発売し、市場でも評判になった矢先のことだった。
飛びすぎてR&Aから発売ストップしかし災い転じて完売に!
ゴルフルールを統括する英国R&Aより、「ボールテストの結果、このボールが初速度制限値を超え、公認ボールとして認定できない」との連絡が入った。青天の霹靂、公認落ちである。公式競技では使えないボールとなった。社内は大騒ぎとなり、結局、商品は販売中止・回収、生産中止となった。技術陣にとっては、初速オーバーの原因である生産のバラツキをコントロールできず、痛恨の痛手であった。ただ、店頭の商品を回収しようとしたが、初速度オーバーのボールということで「飛ぶ」との評判が広がり、ほとんど回収できず販売されてしまい、その後も売って欲しいとの要望が多数あった。
その経緯を経て、新しいボールの商品名が再び「NEWING」である。技術陣にとっては思い出したくない名前である。この提案は、当時の商品企画部門の若手からであった。「ケチが付いていたのは、知っていたがインパクトのある名前が欲しかった。NEWINGの名前はNEWの意味もこめられていて、この革新的な新しいボールにふさわしいと思った」当時の経営陣は当然最初猛反対していたが、企画担当者の熱意が経営陣を動かし、テスト評価の飛びの結果も含めて、飛ぶイメージがある「NEWING」に決定した。
結果は大吉であった。1994年3月発売。新生「NEWING」は発売から大ヒットとなった。飛ぶイメージが強い商品名、「誰にでもやわらかく、誰にでも飛ばせる」キャッチフレーズを体感できる、革新的な二重カバーの3ピースボールの性能と相まって特にアベレージゴルファーの大きな支持を受けた。
発売から18カ月で160万ダース、月間15万ダースのブリヂストンスポーツの社内記録を塗り替えた。その勢いはとどまることを知らず、同組でプレーする人がNEWINGを使うことが多く誤球を防ぐため、文字の色を変えたバージョン、カラーボールなどを次々発売していった。
2008年には累計販売数量が1700万ダースを超え、ゴルファーに愛されるブランドとなった。もし、あのとき別の商品名にしたらどうなっていたか。性能が悪い商品は売れないが、性能の良い商品が必ず売れるとも限らない。「NEWING」は、現在でも現役商品として走り続けている。
取材・文/嶋崎平人